画素競争2004

- 800万画素への進化

 

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まず前書きをひとつ。
画素競争、と銘打っていますが本稿は画素競争否定を目的にしたものではありません。
最近カメラ雑誌やウエブサイトを見ていてちょっと思ったのは800万画素の2/3CCD機の画質の意外な高さです。解像力だけでなく偽色の少なさも特筆点です。
わたしもどちらかというと「画素競争否定派」だったわけですが、ちょっとここで興味を持ち800万画素と高画素化というものを客観的に再考してみることにしました。

競争、とは言ってもこれらの800万画素機で使われているCCDはみな同じSONY製のICX456というタイプと見られます。そこでこの800万画素のICX456にいたる流れをソニーの半導体情報誌であるCX-PALからCCDのデータを比較してみることでまとめています。
もともとデジタルカメラの画質はレンズとCCDと画像処理エンジンが切り離せないものですが、これを機会にあまり語られなかったCCDの素の性能の変化というものを見てみようというわけです。

以降で使われるデータ項目において画素数は有効画素数*2です。画素ピッチはCCDの一画素の間隔を示しています。つまりCCDの面積が同じで画素数が大きくなるとこれが小さくなるわけで、一般に受光面積が下がることで性能が低くなると考えられています。(つまり画素競争の弊害とよくいわれるところです)
しかしピッチはあくまで一画素のユニットの間隔であって画素ピッチが受光面積とイコールではありません。一般的なインターライン方式のCCDにおいては実際にそのすべてが受光部分ではなくデータ転送路が実際は大きな面積を占めています。

そして次の二つがCCDの基本性能になります。
飽和信号量はどれだけの電荷を蓄えられるかという値でいわゆる「バケツの大きさ」です。高いほどダイナミックレンジが広がり白とびが改善されます。(ダイナミックレンジについては暗電流との関係で変動します。右記参照)
感度は高いほどCCDの電荷変換の効率はよくなりノイズが減ります。
(他にもスミアなどに関する値もあります)



1. ICX456(800万)とICX282(500万)の2/3インチ比較

まず2/3CCD同士で比較するため、ICX456をその前にE20やDimage7などで2/3CCD一体型機で使われていたICX282と比較してみます。
参考データとしてAPS一眼レフでD100やistDなどでつかわれているとみられるICX413(610万、APS)を付加しています。CCDの素の性能から差を推し量るのは難しいところですが、これで相対評価の目安にはなると思います。

  ICX456 ICX282 ICX413
画素数 800万 500万 613万
サイズ 2/3インチ 2/3インチ APS
ピッチ 2.7μm 3.4μm 7.8μm
飽和信号量 420mV 450mV  900mV
感度 200mV 270mV 1060mV



ピッチは3.4->2.7と大幅に下がっていることを反映して感度はたしかにかなり下がっています。これが800万画素機ではISO50が標準であり、ノイズの多さを生んでいると見られます。
一方でその割には飽和信号量はさほど下がっていないことが読み取れます。右記のように飽和信号量は対数で比をとるため実質的に420mVと450mVでは差はあまりないように思われます。
ピッチの割りに「バケツ」が大きいのはICX456で採用されている3フィールド読み出しという要素技術によるものと説明されています。そこで同じ3フィールド読み出しを採用しているICX452(500万、1/1.8)でもその効果を見てみましょう。



2. ICX282とICX452の500万画素比較

  ICX452 ICX282 ICX406
画素数 510万 500万 400万
サイズ 1/1.8インチ 2/3インチ 1/1.8インチ
ピッチ 2.77μm 3.4μm 3.12μm
飽和信号量 500mV 450mV  380mV
感度 260mV 270mV 220mV



ICX452はキヤノンPowerShotG5やニコンCoolpix5400で使用されている500万画素のCCDです。これらのクラスでは2/3CCDが普通だったため、1/1.8での500万画素で登場したときには性能低下が懸念されました。しかし、ピッチはたしかに3.4->2.77とかなり減少していますが、感度はほぼ変わらず、さらに飽和信号量はかえって大きくなっています。つまりピッチが小さくなったのにかえって性能は向上しています。
参考に1/1.8同士でひとつ前モデルのICX406と比較すると、画素数が増加してピッチが小さくなったにもかかわらす全ての性能が向上しています。


3. ICX432と3フィールド読み出し

この3フィールド読み出しを説明するためにはいったんICX432(1/2.7 324万画素)に戻らねばなりません。
このクラスのCCDは激戦区であるコンパクトデジカメに使われますが、これらの機種の開発はとてもサイクルが短く開発コストを低減させねばなりません。そこでレンズの新規開発を抑えるために光学系をそのままにすることが望ましいことになります。そのためにはCCDの大きさは変えずに高画素化が求められます。そこでICX432で3フィールド読み出しという技術が導入されました。

これは従来2回であった読み出し(インターレースの飛び越し)を3回にすることによって一回の読み出し量を小さくして必要な配線を細くするというものです。
これは
RG ━> GB
<━━━┛
という繰り返しのグループにしていたのを、もう一段まとめて
RG ━> GB ━> RG
<━━━━━━━┛
というのを繰り返しのグループにするということのようです。

ただし同タイプで比較すると読み出しレートは3割ほど下がるわけで、フレームレートを一定に保つ場合は駆動周波数を上げることになるでしょう。実際ICX282の22.75MhzからICX456では33.75Mhzに向上しています。
これによって配線が微細化されて一画素に占める配線の面積が減り、フォトダイオードの受光部分の比率(開口率)が上がったことになります。
同様にEOS-1D MkIIの新タイプのCMOSでも配線の微小化が図られて開口率を上げていますので、こうしたプロセスルールの微細化は一般的な傾向ともいえます。

これでICX432の前タイプモデルのICX284(1/2.7 202万画素)にくらべて、画素が増えて面積比が64%にまで下がったにもかかわらず飽和信号量と感度はまったく同じ値を確保することが出来ています。
(加えてカラーフィルターを薄くすることでマイクロレンズとフォトセルの間隔を短くして感度を向上させるという地道な向上も図られています)

つまりSONYのCCDの進化においてはICX432->ICX452->ICX456という流れにおいて800万画素が達成されているというわけです。
実際ICX456はICX406に比べれば画素ピッチが小さいにもかかわらず飽和信号量は向上しています。



4.高画素か、高ダイナミックレンジか、

ただしここで生ずる疑問は、これらの技術を使って500万画素で据え置きのタイプを作ればもっと感度や飽和信号量は向上するのではないかというものです。これについては実はICX456については加算モード(ICX456では動画のみ)という解法が用意されています。つまりいくつかの画素を加算することによってダイナミックレンジと感度を高めるというものでいわゆるビニングといわれているものでしょう。ただしビニングでは画素数が1/4になってしまいます。

しかしICX282においてすでにモード2として加算読み出しにより125万画素出力でダイナミックレンジと高感度を得られるモードがありましたが、こちらは実装したカメラを寡聞にして知りません。(ICX282においては二倍速(6.6fps)なので動画と別と思われる)
ただしICX282で同時に用意されていたモード1のシャッター速度向上のためのプログレッシブ読み出しはオリンパスE-20で採用されました。(ただしあまり使われません)
これを考えるとダイナミックレンジに関しては技術的な問題よりも現状でも十分と判断されているか、市場要求が低いと考えられているために実装されていないのだと考えられます。

一方で高画素化することによって、プリント解像度をあげる以外のメリットもあります。
それはカラーフィルターを使うタイプのCCDにおいて、一つのピクセルが小さいことで例えば一本の髪の毛をより多いピクセルでカバーできるようになります。これでコントラスト差の境界ができにくくなり、補完計算にミスが少なくなるでしょう。800万画素機の偽色の少なさはここによると思われます。これによってローパスも弱くできるのでより解像感をあげられるかもしれません。

もうひとつ画素競争否定の論拠になっているのはそんなに画像解像度を上げても印字品質の向上はあまりない、という見解です。
これにはよく300dpiという「マジックナンバー」が引用されますが、これは私が知るかぎりにおいてはオフセット印刷での通説にもとずいています。*3
そのためにインクジェットをターゲットとする一般ユーザーには別な検証を必要としますが、これは本稿の範囲から外れてしまいますのでまたの機会としましょう。

こうした点から考えると一概に高画素モデルに対して(わたしも以前そういってましたが)カタログスペック重視というレッテルを貼るのはフェアではないかもしれません。



5.次は?

さて800万画素まできた「画素競争」ですが、次はどこまでいくのでしょう?
これはわかりませんが、ひとつの目安はあります。
それはなぜ500万画素の次は800万画素かというと"1.6倍"が解像度変化が目視できる差ということから来ているそうです。つまり(ICX252)300->(ICX282)500->(ICX456)800というわけです。するとつぎは800x1.6=約1200万画素ということになりそうです。

いずれにせよ感度の低下は避けられないのでこうしたCCDはISO12とかISO25が標準になっていくのかもしれません。
ISO12とか25というとちょうど戦前の高感度フィルムの感度に相当します。
フィルムの歴史というのは高感度化への歴史だったのですが、デジタルにおいてはだんだん感度が下がっていくというところがちょっとアイロニカルにも思えます。
(こうしたCCDのように小さくて実際の焦点距離が短いレンズはより解析の影響をより受け易いので、昼間撮るのについては感度が低い方が有利という考え方もあります)

ただCCDの画素競争にも似たCPUのクロック競争がリーク電流による制限でここにきて頭打ちになってきたように、ある時点で画素増加の上昇が止まる、ということもありえます。
たとえば限界はレンズの方でくるかもしれません。現在でも小サイズCCDでは要求解像力はナイキスト周波数で200本/mm程度まできていますし、実際はこれを楽に上回る程度必要ですのでこれ以上解像力をあげるのはかなり苦しい可能性もあります。ナイキスト周波数は画素ピッチの大きさに反比例するため、ここでもAPSより大きいCCDが余裕があるといえます。
(ナイキスト周波数はICX413では約60本/mmで、ICX456においては約180本/mmとなる)

いずれにせよ、来年の今頃に「画素競争2005」を作るためにこのページを読み返すのがちょっと楽しみではあります(笑)


2004年5月

 



















 

 

 

 

 

 

CCDのダイナミックレンジとは

デジタルカメラにおけるダイナミックレンジはハイライトからシャドーまで光をいかに広く再現できるかという指標です。

ダイナミックレンジの大きさは対数比を使ってデシベル(db)によって表すことができます。これは音の広さ・大きさと同じで「人間の知覚と外部刺激の関係比は対数的である」というWeber Fechnerの法則が成り立つからです。つまり人は外部刺激が2倍・4倍と倍増して大きくならないと差として違いを知覚出来ないということです。
CCDにおいてはダイナミックレンジ(DR)は次のように計算できます。

DR(db)=20・Log{飽和電荷量/暗電流の2乗平均平方根(RMS)} 
(コダックの資料より)

またグレイスケールのコントラスト再現度によりビット数でも表すことが出来ます。
例を挙げるとコダックのDCS760に使われたフルフレーム(フルサイズではない)タイプのCCDであるKAF6302LEは約70db、ビットでは11.5ビット(ほぼ4000段階のグレイスケール相当)のダイナミックレンジがあります。
これは多少古いタイプですがこの辺が本格的デジタル一眼レフの嚆矢であり、より一般的なインターライン方式のCCDはふつうフルフレーム方式よりもダイナミックレンジが低いために現在RAWデータで保持するDA変換データの標準が12bit幅であるのはこのあたりが根拠と思われます。

グレイスケールの幅ということをbit数で説明するには例えば白い花に緑の葉がついて地面は陰になっている写真を想定してみましょう。光は花の端に強く当たってそこが光っているように目では見えているとします。
もしダイナミックレンジが極端に狭ければ露出の中点になる緑の葉は再現できますが、花はすべて白とびして地面は黒くつぶれるでしょう。ダイナミックレンジが大きくなるにつれて光が当たっているところにむかってだんだんと白の階調が再現できて行くことになります。

ここで注意することはダイナミックレンジが狭くても広くても常に白とびしているところはRGB(8bitの場合)で表現すると255,255,255、黒くつぶれているところは0,0,0であることです。*1

もしダイナミックレンジが狭ければ白とびしているところと陰でつぶれているところの間が256段階(0-255)しかなくても十分階調を再現できるでしょう、しかしダイナミックレンジが広くなってもおなじ256段階しかなければ階調がとんでいると感じると思います。そこでダイナミックレンジが広くなれば512段階(9bit)、1024段階(10bit)と細かさ(諧調)を上げて行くことが必要になるわけです。

 


*1
CCD自体は色を判別できません。1フォトセルの出力は単にグレイスケールになります。それをカラーフィルタを通して周辺画素との補完により1画素の色を計算します。



*2
総画素数と有効画素数

これはよくカタログに載っているわりには説明されている文書は少ないので併記しておきます。
有効でない差分の画素は主に外周部分にありダークリファレンス・ピクセルと呼ばれています。これらは完全に光を遮蔽した状態におかれていますので外光は入ってこないため画像記録には使えません。その代わりまったく外光のない状態での暗電流(背景ノイズ)の計測に使われます。
暗電流は温度によって大きくことなるので撮影の都度計測が必要だからです。
(暗電流はおよそ7-9C゜ごとに2倍になるといわれます)
さらにいくらかバッファと呼ばれるピクセルがあって最終的に受光可能なピクセル数がアクティブピクセルと呼ばれています。



*3
一般的な4色刷り(CMYK)オフセット印刷においては写真の印刷はハーフトーンという網点によって行われます。
これは新聞紙の写真でご存知の人も多いと思いますが、たとえば4x4といった「ハーフトーンセル」を「一ドット」と考えるわけです。4x4ならハーフトーンセルで16諧調の再現ができます。
そのため実際の解像度は「線数」と呼ばれる解像力をハーフトーンセルの大きさで割った値で考えられます。
一般にはこの線数が150-180線程度であるとかなり上質な印刷と考えられます。
印刷業界では経験則で線数の二倍が最適な入稿解像度と一般的には考えられています。そのため"300"がマジックナンバーとされているのです。
オフセット印刷においてはこれ以上の解像度はオーバースキャンとも言われてあまり意味がないとされています。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

現行比較

左記では新型と旧型を比較しているので、性能があがるのは感覚的にもわかりやすいのですが、同時期のCCDでも面積と画素数からだけでは性能差は測れません。
ここで「あゆはぶれない」の松下製CCDを見てみると、現行の1/2.5インチCCDには320万画素のタイプと400万画素のタイプがあります。
たしかに画素ピッチで比べると320万画素のタイプは2.8μm、400万画素のものは2.5μmと320万画素が大きくなります。
しかしCCDの性能を見ると320万画素のタイプは感度が300mVで飽和信号量が550mVなのに対して400万画素のタイプは感度が330mVで飽和信号量が800mVです。素のCCDの性能は400万画素のものの方が高いことになります。
つまり高画素だからCCD性能は低いだろう、と予断を持つのは正しくないということです。

 

 

 

 

 

 

 

 


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