1、歴史
☆編物
編物の発生は、はっきりしていません。原始の人達も獣の皮をまとって生活をしていたようですが、鉄器や、石器と違って消失しやすいためにほとんど残っていないようです。編物の最古の作品として残っているものは、紀元前のエジプト王朝のピラミッドの遺品に、レース編物が発見されています。
エジプトで発生した編物がアラビア、スペインを経てヨーロッパに広がっていったのは4-5世紀です。11世紀から14世紀にかけてヨーロッパ文化が成長してイタリア、フランスに編物が定着しました。この頃2本棒針が出来上がりました。イギリスに編物が入ったのもこのころです。
14-15世紀には宗教を背景に栄えました。中世の騎士や上流社会の人達は装飾用の靴下や手袋を盛んに用いました。
中世後期には、編物ギルド(商工業者の同業組合)が盛んになってイタリアや、フランスに編物ギルドが成立しました。この制度によって技術者達の進歩、発展が見られました。誇りと情熱、編物師は全て男性に限られていました。
16世紀、イギリスのウイリアム・リーが足踏み式の靴下編み機を発明。 この頃から羊毛を原料とする手編み糸が出回ります。18世紀になって、手編みは上流社会の人達の楽しみになって産業としての手編みは廃れて行きます。19世紀前半のクリミア戦争で、軍需用の手袋靴下があまれました。
この戦争の刺激によって婦人用のジャケット、などのウエア物が編まれるようになりました。
1920年頃、第1次世界大戦で、益々編物が盛んになりセーターが出来ます。1930年、婦人用の編物がファッション界に登場して、現在では重要な位置を占めるようになりました。
日本では、1500年代後半に織田信長がメリヤス(メリヤスはスペイン語のメディヤスからきたといわれる)製品を持っていたとされています。17世紀に入って宣教師によってメリヤスが広まりました。刀のさやの覆いや靴下などに用いられています。幕末から明治初期にかけて、洋式軍隊と共に毛織物が多く輸入されました。明治政府は軍、官、警察などで洋服化をし、メリヤス編みのシャツやズボン下を着るようにしました。
明治6年、東京の開拓女学院で編物を教え始めます。1800年後半にはかぎ針の大流行。毛糸の下着を男女とも着用するようになります。19000年初めには、手編みも盛んになり第1次世界大戦が終わると既製品も出回るようになりました。この頃は既製品が高価だったこともあって、手編みが盛んになります。1923年毛糸編機が発明されました。その後編み機の発達で、レース、ゴム編み、編みこみなどの自動化など年々開発が進んでいます。高度成長期を経て、ゆとりの時間を手芸で楽しもうという人達が増えています。…これは願望です。
☆レース
編物の端をとけないように縫ったり編んだりしたものがレースの始まりといわれます。アフリカのコンゴや西ブラジルで見出される結び目のない編み細工や、昔からの結び目をもつネット(フィレ)もレースの元といわれます。
布を織っていくと端にフリンジが出来これを編む技術が古代西アジアにはあって、このマクラメという技術はアラビア人によってスペインやシチリア島からヨーロッパ全土に伝えられます。
レースは、イタリアのベネチアで生まれました。
16世紀、イスラム文化圏から織物や装飾品を輸入する港町として発達していたベネチアには、イスラム系の職人が住むようになっていました。織物工、ガラス工、刺繍工などの専門家がそれぞれ小さな町を作っていたということです。この頃の女性はハイウエストのデコルテされた胸を押し上げるようにし袖にアクセントをつけ、その下に美しい下着を見えるように工夫をしたドレスをまとっていました。男性も同じように華やかな服装だったそうです。華美な贅沢に対して禁止令が出され、色糸刺繍の代わりに縁取りをつけたり、白糸刺繍をつけたり工夫をしました。これからレースが発展していきます。
17世紀には靴下止めから靴飾りまでレースで飾られます。18世紀にはロココレースの登場で技術と品質は向上しますます高価なものになっていきます。産業革命以降手工芸は機械化され衰退していきます。
スペインのレースは双頭のわしやライオンのような宮廷の紋章や、人、城などがモチーフになります。
ベルギーのレースは、17世紀半ば花やつる模様が流行しました。ルーベンスやレンブラントの肖像画に良く見られます。
イギリスのレースは、ベルギーから渡った神教徒達によって伝えられました。
フランスのレースは、イタリアメディチ家の出身の王妃がレースを持ち込みました。ルイ14世、マリーアントワネットをはじめ貴族達が上着からズボンのふち飾りまでレースで飾りました。
レース自体に種類も多くヨーロッパ各地でいろいろなレースが好まれ、とても簡単にはまとめる事が出来ませんでしたが、少しは流れがつかめたでしょうか。後はレースの専門家にお任せした方がよさそうです。
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2、編物をする前に
編物は自らが作り出す編み地ですから、糸そのものをデザインするという思いで考えなければなりません。デザインを決めたときには、糸の質、色と編目、技法全てをを考えます。
☆編物を製作する上での心得
1、編目について考えます…平面、立体、厚さ、薄さ、光と影、柔と硬などです。
2、編目の性格や動きを考えます。
3、編目の特徴、長所、短所、弾力性、伸張性、流動性などを考えます。
4、かぎ針、棒針、アフガン針、機械編みの編目の特徴を知る。
5、素材によって変る編目を知る。太い、細い、縒りなどです。
6、色によって変る編目を知る。(色の項を参照)
7、デザインを研究する。(デザインの心得を参照)
☆デザインするときの心得
色感や、質感を考えます。
1、比率、割合を考えます。8頭身(1:166)ですと良いのですが理想通りにはいきません。バランスを考える事が重要です。参考までに、ギリシャのビーナスの比率は1:1618です。
2、点や線の性格を考えます。曲線、直線(たて、横、ななめ)、角、円などの性格を考えます。
*垂直線…高さ、長さを感じさせます。
*水平線…水平感や安定感を感じさせます。
*斜線……流動性、鋭さを感じます。
*曲線……柔らかく穏やかで暖かい女性的な線です。
3、機能性、色、質、技法、風合い、雰囲気、流行などを考えます。
☆配色するときの心得
1、色の性格をよく知ることが重要です。
2、主の色を決めます
3、配色を考えます。
4、デザインを生かしているかどうか。
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3、色について
編物をするにあたって色彩の知識はとても重要です。専門的な理論は美術の方にお任せしてここでは常識的、基本的な色について記述します。とても簡単にはまとめる事は出来ませんので順序がおかしいかもしれませんが、とりあえず気がついた順にまとめていきます。
☆無彩色とは、明るさ暗さだけをもつ色のことを言います。白、灰色 黒です。明度だけをもち明度の一番高い色が白、一番低い色が黒です。各純色に白や黒を混色すると清色が出来ますし、灰色を混色すると中間色になります。
☆有彩色とは、無彩色以外の色で色の3属性をもつ色のことを言います。
☆色の3属性
色のもつ3つの要素で「色相」「明度」「彩度」です。
色相とは、その色がもつ「色味」の事です。
明度とは、色の明るさ、暗さの事です。
彩度とは、色の鮮やかさを言います。
参考
24色相色環(日本色研配色体系)は純色(各色相の最高彩度をもつ色)色環ですから正反対にある色は互いに補色関係にあります。この二つの色を混合すると無彩色にかえります。
☆色の名前と性格
1、白
色名のうち古事記に使われているもっとも古いもののうちの1つです。白と黒とその間の灰色は無彩色といいます。
白は、清純無垢、神聖な色とされていました。白馬、白蛇など神が宿っていると思われ特別な色とされていました。
2、灰色
白にちかい灰色の事を灰白色といいます。英語ではOyster
WhiteまたはPearl Whiteとも呼ばれます。
日本では平安時代に宮中の反古紙をすき直して薄い灰色になった色を薄墨色といいました。
薄墨色は鎌倉時代には不吉な知らせを書くときに用いたので色も名前も縁起の良いものではありません。
江戸時代には灰色には100くらいの細かい名前がついていました。例えば、小町鼠、利休鼠、銀鼠、絹鼠などなど美しい名前です。
3、黒
煙突やかまどのすすすの色。古代、黒い衣は位の低いものが着用していました。漆の黒、黒髪、水墨画のように黒の美しさは昔から理解されていました。
高級でシックな色とされるのは色のタブーや意味が忘れられた現代の傾向だそうです。
4、赤
赤から連想するものは火、血。赤という字は大と火の合成された文字で燃える火の色という意味があります。
朱色は鉱物性顔料で出来ており錬金術の副産物だそうです。
昔から死者を埋葬するときに赤い土を塗るという呪術的習慣があって古墳から朱土が発掘されます。
古くから珍重されています。鳥居や神殿の色、将軍に限って発行された朱印などなど。
私は、アフリカの赤、モンゴル、ペルー、インカの赤、以前から世界中の赤に関心がありました(橙の項のポンペイを見ると橙に属するのかもしれませんが)。そのうち世界の色の歴史を調べたいと思っています。
5、橙
石器時代の洞窟画、イタリアポンペイ遺跡の壁画など古くからあった色です。
人間の色の好き嫌いを調べると世界の各民族とも嫌われている色で、日本人は好きな色にあげているそうです。色の好みは日本的な特徴があるそうです。私は、大好き…
6、茶色
元々はお茶の葉を煮出した色。焼け焦げた色。
江戸時代には奢侈禁止令に対して裏地にこったり下着に華美な色を使ったして着物や羽織に地味な色調を使うことが粋とされていました。
ねずみ色と同様、数限りない色名がありますが、それらは皆英雄や武将ではなく、利休や光悦などの文化人の名前が選ばれています。粋です。
7、黄
古代から人類が知っていた黄色は、金色の事でした。明るい輝かしい、暖かい色は仏の言葉を{金言}、宗教の最高の色の多くは黄金色で表されます。日本では平泉の金色堂、金閣寺など絢爛豪華な色とされます。
8、緑
「みどり」はみずみずしい木の芽の新芽の色で、英語でもGreen,Grow,Grassなど草木の生長に結び付けています。
9、青
青草や湧き出る清水のような澄み切った青と、干した青草のような蒼、藍染め(マムシは藍が嫌いということで藍染めが重宝された)、トルコ石、青い鉱石の瑠璃の色。世界の民族の好まれる色の筆頭に上げられるそうです。
10、紫
古代から日本では別格な色でした。推古天皇の時代から冠位の色の最高位とされてきました。西洋でも高貴な色とされています。気品風格、優雅、なまめかしさ、めでたさなど色の王者となりました。
☆配色
配色は何が正しくて何が間違っているということはありませんが、「磨く」「養う」という積み重ねが大事です。
とはいえ、好き、嫌い、しかもあきるといった厄介なものですが、それでも「まとめる」には定番の知識をもつことは重要な事です。
1、同トーン配色
同じ色調に属する色同士の組み合わせです。同じ性格をもつグループ内での配色は安定しています。
特に多色配色の時には効果的です。私の好きな配色です。「2001年宇宙の旅」うきうきセーターの配色がこの配色です。
2、類似色相配色
色相の近い色同志で組み合わせる穏やかな配色です。
類似明度配色も同じ。類似彩度配色は彩度が類似で、明度、色相も適当な差を考えた方が良い。(表現が難しい。。。もう一度練ります)
3、グラデーション配色
色相、明度、彩度のどれでも等間隔に色を順に並べていく配色です。穏やかで、目立ちます。
特に明度、色相が効果的。このページの一番上の3つの色は色相のグラーデーション配色です。
4、コントラスト配色
対照的な配色は、明快でメリハリがあります。特に明度の対比(例、ダークの紫とライトグレイ)は明快ですっきりとしています。
色相の対比としては、クリスマスカラー(例、赤と緑)。彩度の対比(例、赤とライトグレイッシュの青)は、配色のテクニックとしては難しい。
5、セパレーション配色
明度が近すぎて不鮮明に見える時や色相が対照的で激しさを押さえるために色と色の間を無彩色などで分けます。
間に入れる色は白、黒、グレイ、ベージュがよく、金や銀なども効果的です。#105の作品がこの配色です。
6、アクセントのある配色
色相対比、明度対比など。彩度対比では渋い色をベースに明るい色をポイントにするとまとめやすいです。
配色全体を引き締めるために面積に大小をつけ小さなところに反対色を入れて引き締める効果を出します。アクセントカラーともいいます。
「言葉の意味」はまた後ほど、つづく
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4、JIS記号について
JISは、日本工業規格(JAPAN INDUSTRIAL STANDARD)の頭文字をとったものです。
家庭用機械編み、棒針編み、かぎ針編み、アフガン編みの編目を記号で表現されたものです。
JIS記号は編目の組織の記号で。技法の説明ではありません。編地の表から見た記号ですので、手編みと機械編みでは同じ記号でも注意が必要です。
市販されている機械編記号図は、裏目側が手前の編み機にかかった状態での表示になっていることが多いので注意を要します。
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5、編み糸の種類
編物をするときには、編むものに合った糸を選ぶ事が大切です。ここでは代表的な糸をあげて説明をします。
繊維は天然繊維と化学繊維に分ける事が出来ます。天然繊維には植物性繊維と動物性繊維に分かれます。化学繊維は再生繊維と半合成繊維、合成繊維、無機繊維に分かれます。
太さ
1、極細…1本取りで編むと薄く仕上がりしゃれたブラウスやショールが出来ます。2本取りにすると中細より少し太くなります。
2、合細…極細よりやや太く中細より細いので、薄手のセーターなどに向きます。
3、中細…一般的な編み糸で編みやすく丈夫で実用的です。
4、合太…中細より太く並太より細い糸で編みやすい手ごろな太さです。
5、並太…丈夫であたたかく実用的な糸です。防寒用に最適です。
6、極太…ざっくりとスポーティなセーターに向きます。並太より太いのであたたかく防寒用に最適です。
種類
1、モヘア…アンゴラ羊から作られた糸です。羊より光沢が強く弾力性に富みます。実用性と美しさがあります。
2、ループヤーン…モヘヤを小さいリボン状によった物です。お洒落な外出着に向きます。
3、ブークレ…極小さなリングが出来ている糸で編みあがると織物のような感じになります。スーツやワンピースに向いています。別名ドレスヤーンともいいます。
4、スラブヤーン…2本の心糸のところどころをよったもので糸に細いところと太いところがあります。糸自体が変化に富んでいますので、メリヤス網に向いています。
5、ネップヤーン…ネップの効果が出るように2-3本の糸を拠ってあります。ネップは裏編みの方に多く出ますので裏編みを利用することが多いです。スーツに適しています。
6、アンゴラ…アンゴラウサギから作られた糸です。軽くソフトで優雅に出来上がります。糸が抜けやすいので気をつけましょう。子供用には不向きです。
7、カシミヤ…チベットのカシミヤ山羊の毛を使った最高級の糸です。ソフトで軽く滑らかです。
8、ラメ…ドレス、ストールなどに向く高級な糸です。
9、リボン…絹、オーガンジー、ナイロン、など種類が豊富にあります。フォーマルウエアに向いています。
10、レーヨン…水を吸いやすく染色性がよいが水に濡れると切れやすい化学繊維です。さらっとした感触の糸です。
11、ナイロン…絹の感触があり強い糸で水に濡れても丈夫です。洗濯が簡単ですが日光に当てると変色しやすい糸です。
12、テトロン…丈夫でしわになりにくい糸です。
13、ポリエステル…熱に強い糸でしわになりにくく洗濯してすぐ乾きます。日光にさらしても色は変りません。
14、アクリル…人造羊毛とも言われる毛に最もよく似た糸です。保湿性がありあたたかくしわになりにくい性質です。
レーヨンからアクリルまでサマ-ヤーンとしていろいろ用いられています。
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6、編みゲージ
一定の広さにある編地のたて(段数)、横(目数)の割合をいいます。
1、測り方…ゲージをはかる編地の事を試編み(スワッチ)といいます。試編みの大きさは15-20cm編みます。
この中央の10cm四方に何目、何段あるか数えます。
このときに縦横に引っ張って編地を整え、蒸気アイロンをかけて落ち着かせます。化学繊維の場合は、アイロン表示を見てからかけてください。
平らに置いて10cmに何目何段あるかを数えます。同じことを2-3箇所位置を変えて数えます。
2、標準ゲージと針の太さ
編目調節ダイヤルは数字の多い方がゲージが荒く、数字の小さい方が目のつまった編地になります。
家庭用編機によってまたは手編みの場合は手の動かし方、編み地によって、多少異なります。
一般的な基準を示すものですので素材、編み地によって代わりますので、この針でなければいけないということはありません。
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