もちろんこの話はフィクションです。

*****第1章*****
 
 「東里泰治」は、C県C市の出身。ふつうの人間と比べても温厚・穏やかな人物で人を殴ったこともない。万引きの一回、痴漢の一回もしたことが無い。まぁ人間であるから少しは悪いこともするが、至って善良な市民である。県内の高校を卒業して2浪の末、二ツ橋大学に通う。大学に入学して民俗音楽や舞踊をパフォーマンスするサークルに入る。大学横断的サークルで様々な大学から部員が集まる。同期の女性で速稲田大学人間科学部に通う「小口順子」という女性がいた。
 「東里」はそのサークルを2年で辞める。小口はそのままサークルに残る。小口は実は東里に好意があった。その代償として、そのサークル内で東里の役目の後継となった筑浪大学生の河野という男と仲が良くなる。小口は河野の実家から大学に通うようになる。
2年経って、東里はそのサークルの催しを見物しに行く。そこでやはり同期だった桧川と出合う。小口と河野が仲良くなったことを知らされる。
 河野は筑浪大学の大学院に進み、小口も同じ研究室に入る。

 しかし小口は、東里のことを忘れられなかった。小口は周囲の者たちに、東里からアプローチがあって付き合うようになったとウソを付くようになる。河野は別の女性と仲良くなり、結婚することになった。東里と付き合っているとウソで固めてきた小口は頭が狂気で犯されるようになる。それが爆発し河野の結婚式で大暴れをする。
 
 東里はそのサークルと辞めたが、サークルの先輩や林という同期の男からたまに自宅に電話が掛かってくる。もうとっくに辞めたサークルの人たちから何故だろうといつも不思議に思っていた。そんな電話の中で、林は東里に「小口が河野の結婚式で大暴れしたぞ」、そんなことをボソッと言う。自分にはもう何にも関係ないサークル内の人のことで、なんでそんな電話をしてくるのか東里にはさっぱり分からなかった。

 狂気に冒された小口は、周囲の者たちにこんなウソを言うようになった。「東里とは別れた」「東里は酷い人物だ、自分に暴力をふるう」。

 小口は、サークル活動時代に東里の住まいの最寄駅を聞いていた。そこで待ち伏せし東里を発見する。小口は東里をストーカーするようになる。東里の趣味は、落語、地図集め、映画鑑賞などであった。そういう場にしつこく東里をストーカーするようになる。

 東里はある時電車のなかで、いかにも頭が狂気に冒された女性を発見し、それが小口であることに気付いた。東里は分かった。小口は河野と仲良くなったことは桧川から聞いていたが、いつからか自分、東里と付き合っていると周囲の者たちにウソを付いていたのだ。その後河野は別の女性と結婚することになる。ウソで固めてきた小口はその結婚式で狂気が爆発し大暴れをしたのだ。東里は林に電話する。小口が自分をストーカーしていること、さらに自分は小口とは会ったこともないと話す、林は「会ってない?」とたいそう驚きの声を上げる。会ってもないし、もちろん手をつないだこともない。林は電話の最後に「会っていないんだな」と念押しした。東里は小口が自分と付き合っていると周囲の者たちに大ウソをこいていたことを確信した。

 心配した東里は小口に狂気を脱してほしいと、何度か電話をしたり手紙を書いたりした。しかしいつしか音信は途絶えた。

 東里は大学を卒業し大手メーカー会社に勤めたが、トラブルがあって2年で辞める。それからは親の金で暮し、旅行とか相変わらず落語鑑賞とか、そんなことをしながら日々を送っていた。1990年代後、東里は星空観測が趣味になる。深夜、町をブラブラと出歩くようになる。2000年くらいから、深夜に町を歩いていて、不審な自転車が走っているのに気づく。また自分が何者かに追跡されているような気配を感じる。しばらくして東里は分かった。東里の住む町のコンビニで深夜、女子中学生が友達と買い物をし、その帰り道に補導員を装った中年男性に誘拐されるという事件が、1991年10月に起きており未解決である。当時、新聞やワイドショーでも大きく取り上げられ自分の住む町で起こった事件なのでよく覚えている。自分はその事件の犯人と疑われそれで警察から尾行されているのではないか。2001年2月のことであった。

 同時に東里には思いつくことがあった。事件があった当時、東里は大学4年生。警察は東里の属していたサークルを聞き込み、付き合っていたと言う小口から事情を聴く。自分のアタマがオカシクなったのは東里のせいだとこんなデタラメを言う。「東里からアプローチがあって付き合うようになった」「東里はとんでもない人物で暴力をふるう」「犯罪者」「変質者」ありとあらゆる雑言を吐く。もちろん全てデタラメである。警察の捜査員はこの小口の言葉をすっかり信じてしまった。

 東里はこのことに気付き、サークルの先輩である鶴谷に電話する。小口の大ウソを証明するためであった。鶴谷は最初は「そうだったのか!」と好意的に対応してくれたが、東里が誘拐事件の犯人として疑われていると話すと困惑しだす。サークルに累が及ぶことを恐れた鶴谷は「自分のことは自分でなんとかしろ」と冷たく東里を突き放す。

 東里が皮膚科の医者に行ったときのこと。白いコートを着た目のチッコイ女が現れた。手首のあたりに口を当て「騙されないように」、東里の顔を憎々しげに見ながらいう。完全にその顔はイカレテいた。東里は直感した。捜査員はすでに自分のことを凶悪犯だと狂信的に信じている。

 捜査員はしばらくして、東里にイヤガラセをするようになる。その一つは救急車、消防車によるものである。2001年3月の昼のこと、秋葉原・昌平橋近くの電話ボックスから東里は電話をしていた。すると近くの消防署から「ウー」とサイレンを鳴らして出動する。東里はその場を離れ、また3時間くらい経ってその電話ボックスから電話をする。先ほどと同じようなタイミングでまた「ウー」と消防車が出動する。
 これから東里の周囲に異常な頻度でサイレンを鳴らした救急車、消防車が出現するようになった。こんなことが数年続く。東里にとっては地獄の日々であった。

 またこんなことがあった。例の誘拐事件の被害者の名前は「佐々山八重」ちゃんと言う。これはまったくの偶然であるのだが、東里の母方の祖母の旧姓も「佐々山」であった。東里の母親には「佐々山秀雄」という従兄弟がいる。その佐々山から東里の自宅に電話がしばしば掛かってくる。佐々山は「泰治君と話したい」といつも言う。東里は佐々山秀雄という母親の従兄弟がいることは知っているが、どんな人物かよく知らない、顔も知らない。その佐々山秀雄がなぜ自分と話したいというのか。東里には分かっていた。誘拐事件の被害者の姓が「佐々山」、それに母親の従兄弟の「佐々山」、この同じ「佐々山」繋がりで、東里を脅そうと、捜査員は母親の従兄弟の「佐々山」に幾ばくかの金を渡して東里宅に電話させたのだ。

 
 東里は1995年頃からインターネットを始めていたが、男であるからアダルトサイトも見る。グロテスクなサイト、趣味の悪いサイトも見る。どういう手立てを使ったのか。狂気に触れた捜査員は、こうした東里のアクセス・ログを見る。狂った捜査員は、東里を「性的変質者だ」「猟奇的人物だ」と狂った妄想を繰り広げる。

 東里は、それから「自分は犯人として疑われている」と何度も最寄りの警察署に足を運ぶようになる。しかし署員は「あなたの事など調べていません」と冷たくあしらう。しかし東里は相変わらず救急車などのイヤガラセを受けていた。それは警察権力でなければできないことである。次第に東里は、警察署で大声を上げたり、泣きわめいたりするようになる。捜査員からの情報を基に、署員もすっかり東里を凶悪犯だと信じ込んでおり、「あ、やっぱりこいつは頭のおかしな奴だ」と、署員は東里のブザマを見てせせら笑うのであった。しかし東里は泣いたり喚いたりしながら、実は頭は冷静であった。

 さらに捜査員は東里の自宅から3キロほど離れた場所で1997年に起きた未解決の強盗殺人事件でも東里を疑うようになる。
 女子中学生の誘拐事件では、犯人の目撃情報で身長は155センチくらい、ずんぐりむっくりした男とされている。東里は身長179センチと背が高く当時はやや痩せ型であった。このようにまるで違うのであるが、頭のイカレタ捜査員は「目撃情報には見間違いもある、遠近法とかある」と勝手に合理化していた。
 東里が、この日も警察署を訪れて喚いていると、福原という刑事課の捜査員が、「誘拐事件とはまるで体形が違う。身長170センチくらいと言うなら疑うかもな」、東里が警察署内の掲示板を見たところ、その未解決の強盗殺人事件では、犯人の目撃情報が身長170センチくらい、黒い服装をしていたという。

 東里は2001年4月から、自宅から5キロほど離れた中央郵便局で深夜のアルバイトをするようになる。5月に郵便局の健康診断が行われる。いくつか検査があって次は目の検査であった。東里が椅子に座るとなぜか検査担当の人物が交代する。目が細くてクッシャとした感じのオバサンで、東里の中学時代の音楽の女性教師に似た感じであった。このオバサンだが、目の検査の機械の操作法が分からないらしくアチコチをいじってまごまごする。東里は不審に思った。

 数日後、今度は東里は自宅近くの歯医者に行く。4人ほどが掛けられる長椅子で待っていると、左側横の席に座っていた女性が横を向いてやたらと東里の顔をジロジロ見る。あの健康診断のときのオバサンによく似ている!。そこで東里は気が付いた。この女性は事件の何かに関係のある者なのだ。警察の捜査で「秘密の暴露」というものがある。被害者、加害者の格好、現場の状況、凶器など犯人しか知りえない秘密を、被疑者が漏らせばそれは犯人ということになる。
 しかし、その「秘密」の提示の仕方が問題なのだ。頭のイカレタ捜査員はそれを何度もしつこく執拗にみせるのだ。またその見せ方も問題だ。被疑者の目に付くようにわざわざタイミングよく見せるのである。また、さきほどの目の検査のオバサンの例のように相手の態度が不審であればそれは被疑者の印象に残ってしまう。

 東里が自宅から出、門を開ける。すると向こう側の角からタイミングよく車やら人物やら自転車が現れる。そうして現れる人物のなかには、その目の細いオバサンもいた。また、そうして現れる人、クルマには明らかにその色に偏りがあったりもする。何か事件に関係した色であるのであろう。もともと神経が繊細であった東里には、捜査員がわざと何をやろうとしているのか良く分かった。

 ある時、やはり警察署で東里は喚いていた。東里のブサマを見てひとりの捜査員がこう言った。「暗証番号でいれたからな」。東里は考えた。暗証番号とは。もちろん暗証番号はコンピュータにアクセスする際利用するものだ。警察の捜査のコンピュータ利用では「指紋」の照合が良く知られていて歴史も古い。最近ならパスワードだろうが、古くからなされている指紋照合にはまだセキュリティの甘い暗証番号なんというものが使われているのでは。そこで東里は思いつく。捜査員はこいつが犯人に間違いないと信じ込んでいるが物的証拠が無い。そうしてするのは?「でっちあげ」である。どこだかで東里の指紋を入手した捜査員は、暗証番号を使って、事件現場に残された指紋として東里の指紋データにすり替えたのである。捜査員は東里が犯人だと確信していたので、このような「捏造」した証拠でも構わないと思ったのである。

 このように捜査員は、ウルトラ級の気狂い集団になっていた。
 2009年、東里はこれまでの経緯を20枚くらいにのレポートにまとめ、警察各所に送付するが全く反応はなかった。2011年、再び最寄り警察署の刑事課の人間にこのレポートを渡す。キチンと読んでみてこれが事実であると、警察の者に分かる。

*****第2章*****

 さすがの警察も、長期間にわたり東里に悪いことをしたと思った。東里はこのような状況下であったから無職のままであった。妻はもちろん彼女もいない。警察のエリート幹部である井上が東里の生活その他をサポートする役目を引き受けた。といっても東里に直接アプローチするのでは無い。東里は長いこと神経科の医者に通い、カウンセリングと治療を受けていた。このカウンセリングの臨床心理士、香川と裏から接触した。香川は長いこと東里の苦しみの声を聞いていて気の毒に思っていた。また多趣味で教養の深い東里のことを慕っていた。香川は喜んで、この警察エリートの井上の依頼に乗ることにした。しかし捜査令状もなしにカウンセラーが患者の秘密を漏らすのは違法である。それでも気の毒な東里のためなら構わないと香川は思った。
 またこの裏工作には、東里が最近通うようになった御茶ノ水の居酒屋「月光」のマスタ、常連客も加わることになった。また東里は落語の音源を集めるのが趣味で、そのデータをホームページにまとめている。おそらく日本で一番落語音源について詳しいサイトであろう。このサイトを見て関心を持ち、東山にもしばしばメールを送っている畑山も、この裏工作部隊に関わる。また、I市に住む姉、東里は脳内出血で1ヶ月ほど入院したことがあるが、その時の主治医も参加する。とりあえずは、東里のために相応の彼女をあてがおうということになった。

 東里は身長は179センチと高いが、20歳代後半から太りだし、体重は優に100キロを超えている。顔の造作も悪い。それなのになぜが女性によくもてる男だった。大学を卒業して入社した会社を2年で辞めたのも、この「もてる」が故もトラブルであった。

 こうして、工作部隊は東里と女性を2人きりになる場面をわざとセッティングしたりするが、いつまで経ってもうまくいかない。
 実は、東里もこの裏工作をある程度読み取っていた。それは、頻繁に通っているカウンセラーの表情、言葉の端々からも分かった。しかしまぁそれで素敵な女性と巡り合えるのなら良いと思っていた時期もあった。

 東里はどういう女性が好みなのであろうか。東里は不安になるとよく姉に電話をしたりメールをいれたりする。そこで女性の話もしたりする。エリート捜査員の井上は、わざと東里を不安にするために救急車を使うようになる。前章で述べたように、東里の救急車などのサイレンに対する不安は極限に達していた。わざと救急車を東里の目前に出現させ、東里を不安に陥れる。すると東里は姉に電話する。そうして東里の心の内を探るという寸法だ。

 いつからかまた救急車の不自然な出現が増えた東里は気づいた。自分を不安にさせ姉に電話をさせ、自分の心の内を探るためにこのように救急車を使っているのだ。しかもカウンセラーの香川もこのことを知っていると、その表情から読み解く。東里は激しく反発する。自分のためと言いながら、自分の心を不安に陥れようとする、そんな卑劣な手段が許せなくなった。東里は自分の心の内を明かさなくなる。エリート警察官の井上は、もはや東里の心をコントロールできなくなった。「俺は東里のために一生懸命やっているのに、何故東里は俺の思う通りに動かないんだ!」。元々が警察幹部で異常にプライドが高い井上はいつしか東里に激しい憎しみを抱くようになった。

 この頃、東里は落語に代わって講談に興味を持つようになっていた。2017年12月12日、この日も東里は湯島天神で開催される講談の会に足を運んだ。講談師の一虎斎惣橘が「高野長英牢破り」という演目を演じる。この話には火を放って火事になるシーンがある。その火事のシーンに差し掛かるなり、会場に隣接する道路から「ウー」という消防車のサイレンの音が鳴り響く。もちろん普通の人間なら、ただの偶然だが、救急車、消防車その他のイヤガラセを何千回と受けてきた東里にはこれはイヤガラセ以外の何物でもない。
 講談の会が終わって東里は帰路に着く。自宅最寄り駅前のコンビニの角にある灰皿に前で、東里の顔をギョロッとさも憎々しげに見つめ、いかにも不愉快そうにタバコをふかしている男がいる。細面でスラッとした感じ、目がややギョロッとしている。「これが今日の湯島天神でのイヤガラセの首謀者か」、東里は直感する。

 自分のプライドが傷つけられたエリート警察官、井上の東里に対する憎しみは、日々エスカレートする。東里が凶悪犯とされたことについては、全くそんなことは無いと一度解決したはずだったが、それでも東里が凶悪犯だと信じ込む連中が警察内にはかなり残っていた。井上とこういう連中が結託し、「東里は凶悪犯」だと妄信する気狂い集団がまた結成される。

 こうして結成された気狂い集団の手口は以前と同じである。救急車、消防車などのイヤガラセ、また事件に関係のある人やら物やら色やら、やたらタイミングよく何度も東里の前に呈示する。東里は前の経験から相当鋭敏になっていた。気狂いどもの手口がすぐに分かってしまう。気狂い集団は、東里の関連する人物の周りで、「東里は稀代の凶悪犯です」と吹き込む。東里には少ないながら慕っている人物がいるが、警察のいうことだからと信じるしかない、あの温和で優しい東里がと困惑するのである。

 その首謀者、エリート警察官の井上の心理を読み解こう。まず、東里の事を極悪人、稀代の凶悪犯だと心の底から信じ込んでいる。東里を執拗に監視、付きまとい、イヤガラセをする。他の捜査員を指揮・命令することの出来る幹部警察官、東大出身のキャリア・エリートである。気狂いではあるが自分の信じていることを他人に信じさせる術に長けている。カルト宗教の教祖のような説得力とカリスマ性を持つ。強引なこじつけ、勝手な合理化、歪曲、捏造、でっちあげと、自分の信じていることの正当化に腐心する。歪んたプライドのカタマリのような男で、自分の過ちは絶対に認めない。自分の思うように事が進まないと、全部相手が悪いかのように思い込む。最後に、東里が凶悪犯であるという「妄執」は死ぬまで治らない。東里に危害を加える可能性が大きいので、一生涯、気狂い病院の鉄格子のなかにぶち込んでおくしか手立てはない。

 こうしてまた3年程経ち、エリート警察官、井上の気狂いぶりはエスカレートするばかりである。東里は「大久保清の犯罪」というテレビドラマのビデオテープを持っている。大久保清は昭和40年代、次々に女性を誘拐、殺害した稀代の凶悪犯である。1980年代、この大久保清の犯罪についてテレビドラマ化されるが、主演はビートたけしである。ビートたけしのファンであった東里はヤフーオークションでレンタル落ちのこのビデオを500円かそこらで購入する。また東里は「人喰い大統領アミン」などという趣味の悪いビデオテープを持っているが、もちろんこれを間に受けてしまうような人物でない。しかし、気狂いエリート警察官の井上は、東里が大久保清のようなことを考えている変質的凶悪犯、あるいは人を殺して人肉を食べてしまうような猟奇的倒錯者と信じ込んでしまうのある。
 
 さて、東里にはもうひとつ地図あつめという趣味があり、地図の勉強会に参加している。この勉強会の創始者の大沼先生は2017年に亡くなっているが、この大沼先生が大変アクティブな方で、昭和30年代からスクーターで日本全国をめぐるのが趣味であった。そんなことから、東里もバイク旅行に憧れみたいなものがあり、ガス欠した際に使う「ガソリン携行缶」をアマゾンで検索したことがある。実際にはバイク旅行は実現しなかったし、もちろんガソリン携行缶も購入していない。

 2021年12月17日、大阪のメンタルクリニックで放火殺人事件が発生。無差別に大量の方を殺傷するという大変凄惨な事件であった。
 2021年12月21日、東里は母親とともに自宅から1キロほどの所にあるホームセンターへ買い物に行く。何点か購入したが、母親は台所用の「包丁」を買う。
 2021年12月24日、東里は、神経科のカウンセラーに電話する。東里は断続的にこの病院に通っていたが、この4ヵ月ほどば病院にいっていなかった。この神経科は、裏でこの気狂い捜査員とつながっており、捜査員は東里のことを「凶悪犯」だと吹き込む。東里もそのことを察知して、いつもカウンセラーへの誤解を解くのに苦労していた。東里は姉へのメールでこの精神科の病院を「クソ病院」と汚い言葉で罵っていた。

 そうしてさらに、先の述べた「ガソリン携行缶」である。気狂い捜査員は、病院に恨みを持った東里が、大阪の事件のようにガソリンを撒いて火を放つ、あるいは包丁を振り回して無差別に殺傷するようなことをしでかすと、気狂い妄想を爆発させたのだ。

 警察幹部である井上は、その他の幹部にも働きかける。警察全組織をあげて、東里に対して、信じられないような組織的陰謀を繰り広げる。

 気狂いらの工作はこんな具合である。日本のクルマの色は白、黒、シルバーが圧倒的に多い。それに10〜15台に1台くらい赤か青のクルマが走り、それにグッと数が減って、オレンジ、黄緑、ピンク、黄色、紫などのクルマが走るという具合であろう。ところが、その白、黒、シルバー以外の色の比較的少ない数のクルマが、2台、3台、4台あるいはそれ以上と連続して現れるのだ。その中にはオレンジ、黄緑、ピンクなど比較的レアな色のクルマが混じっていることも多い。
 クルマのナンバーも工作する。東里が2〜3ヶ月ほど前、自宅から駅まで3分ほどの道のりを歩いていると、「1122」「1123」という連続するナンバーのクルマを立て続けに見つけた。東里は「オヤッ」と思った。11月22日は「いい夫婦の日」、11月23日は「勤労感謝の日」だな、そんなことを思っていた。2021年年末になり、気狂いどもの工作は激化する。身の回りにいろいろ通常ではありえない事が東里を襲う。その中、不安になった東里は家の近くを歩いていると、その「1122」のクルマを自宅すぐそばで見かける。このことをメールで姉に伝えると、「11」のナンバーの付いたクルマが集中的にあるいは異常な頻度で現れるのである。
(続く)

 さて、東里は気づいた。なぜ、気狂いソーサインはこれほどしつこく自分を追うのか?、自分を凶悪犯に間違いないと思うのか? ひとつ思い出した。先に記したとおり、東里は1994年に勤めていた会社を辞めている。この際にいろいろと事情があって、会社の所長から現金で100万円を受け取っている。受け取ったのは東里の父親で、東里はそのまま親に預けていた。会社を辞め、再就職もせず、北海道から九州まで旅行に行ったりして遊んで暮らしていた東里だが、そうすれば当然金は掛かる。1年か2年後には、クレジットカードで50万とか60万とかの借金があった。ある日、東里は自宅の居間の押し入れ中の引き出しに、帯封のついた100万円の金を見つける。もちろん会社を辞める際に受け取った100万円であろう。この金のうちの70〜80万円を銀行口座に入金して借金を一気に返済し、残り20〜30万円は今後の旅行の費用に充てようと手元に残しておいた。さて、気狂いソーサインは銀行口座の金の動きを見て、東里が借金の返済に困り、この金を窃盗、強盗などで奪った金だと勝手に思い込んだのだ。実に自分勝手で自分たちに都合のよいように思い込み、頭の悪い思い込みの激しい、ろくでもない奴らである。それで東里をこういう犯罪の常習犯だと思ったのだ。まったくキ●ガイに付ける薬は無いものである。