掌編「それ、面白い?」

それ、面白い?

「それ、面白い?」

 毎週欠かさず見ているドラマを丁度見始めた時のことだ。
 テレビの画面に映る映像を食い入るようにして見ていた私に、彼がそう声を掛けてきた。
「うん、面白いよ」
 ドラマがコマーシャルに切り替わったところで、答える。
 真剣に見ていたせいもあって、自然と怒り肩になっていた肩から力を抜くように一呼吸。
 視聴率も高いし、評判も良くて、友達も結構見てるんだ――と彼に話す。
「ふうん」
 彼はわずかに興味を持ったらしく、何気なく私の隣へと腰を下ろした。
 どうやら一緒に見るつもりらしい。
 途中から見ることになる彼の為にこれまでのあらすじをざっと説明しようかと思ったところで、再び画面はドラマの続きに切り替わった。
 登場人物の名前やそれぞれの人間関係等、聞かれたときに答えればよいか、と割り切って私はドラマの内容に意識を集中させる。

 続きが気になる良い場面で、今週の放送分は終わりを迎えた。
 スタッフロールと共に画面では主題歌が流れ始める。
 私は「今週も面白かったァ」と感嘆のため息を吐いていたところだった。

 さあて、途中から見始めた彼はどんな反応か。
 まだ興奮覚めやらぬ状態のまま、嬉々とした表情で彼に視線を向ける。
 彼がこのドラマに少しでも興味を持ったようならば来週から一緒に見られるように、とあらすじや今までの見所を語るつもりでいた。
 ……のだが。

「ま、そこそこかな。話の展開はよくあるパターンって感じ」

 彼の漏らした感想に、これからストーリーの内容を語る気満々だった私の表情が凍りつく。
 開きかけた唇は吐き出す言葉を失ったことで、自然と閉じた。

「まず配役が悪いよね。顔ばっか良くて演技がいまいちな役者ばっかりだし、バックミュージックの音楽も話の流れと合ってないところでいきなり始まる。演出が下手なのかな。なんか、登場人物に感情移入しにくいよね。話の進み具合も凄く展開が早いところもあれば、遅いところもあって、全体的にバランスが整ってない」

 彼が語る言葉の一つ一つを聞くうちに、段々と嫌な気分になってくる。
 そんな私に気付いていないのか、彼は淡々と自分の意見を述べていた。


   +


 それからしばらくした日のこと。
 見る予定のテレビ番組も無く、外は雨が降りだしたのでお出掛けは取りやめ。
 本を読むのに丁度良い機会だと思って、私は買ったまま読んでいなかった本をソファーに寝転がり早速読み始めた。
 一度読み始めるとどんどん先が気になってしまい、ページをめくる手がなかなか止まらない。
 これはもっと早く読んでおくべきだった。
 何て面白い本なんだろう!

 熱心に読んでいると、彼が読書中の私に気が付いた。
「……ああ、それ」
「あ、知ってる?」
 これ、面白い本だね――と、私が続けるよりも先に。
「最近人気でよく売れてるらしいけど、凄い稚拙だよね」
 またも言いかけた言葉を無理矢理飲み込んで、上下の唇をきつく重ねる。
「表現がありきたりだし、文章構成もなってない。それぐらいの物ならまだ俺の方が上手く書けると思うんだよね」
「…………」
 私は何も返事をしなかった。


   +


 最近公開されたばかりの日本の映画を見れば、
「やっぱり外国の映画の方がスケールが大きいって言うか。規模が全然違うから一度向こうのを見ちゃうと比べちゃって駄目だね」

 流行りの音楽を聴けば、
「ああ、なんか凄い大衆受けしそう。歌詞がもろウケ狙いっぽいよね。そういう意図が底の方にある気がする」

 お笑い番組でコントを見れば、
「オチが読める。勢いだけって感じ」

 ――評論家気取りで何かと『駄目出し』をしては、けなしてばかりだった。
 確かに、常により良いものを求めるという思考は悪くないのかもしれない。


 けれど、どうしても私は彼のそういう価値観に対して、こう思わずにはいられないのだ。



「ねえ、それ、面白い?」

Copyright (c) 2006 Syun Hazakura All rights reserved.