スクリーニングという視点  -2007.01.07Up
 「スクリーニング」という言葉がある。

 自然科学の世界では、多くの化合物の中から生理活性物質(生物に何らかの作用を示す物質)を何らかの基準で選別して探し出す行為をいう。インターネットの検索にかけてみると、先ずは株式投資に関わる言葉としてヒットする。例えば、以下のような具合である。

  • 『スクリーニング: スクリーニングとは、条件を設定して銘柄選別すること。

     最近はネット証券の情報ツールでもスクリーニングが簡単にできるようになってきた。たとえば、割安で安全な株を選別したいということであれば、PER、PBRなどの割安さを測る指標と、株主資本比率など安全性を測る指標を組み合わせてスクリーニングする。あるいは、成長性の高い株を選別するならば、売上増加率、経常利益増加率などの成長性を測る指標と、ROE、売上高営業利益率など収益性を測る指標などを組み合わせて、さらに、念のために安全性や割安さを測る指標なども組み合わせていくとよい。』 (All About用語集 http://allabout.co.jp/glossary/g_money/w001406.htmより引用)

  • 『現在、国内の株式市場におよそ5000社が上場しているといいます。その中から、割安銘柄や値上がりが期待される銘柄を見つけるのは至難の業です。そこで、スクリーニング技術を身につけ効率よく銘柄選びをしたいものです。』 (http://www.kabu-riron.com/sukuriningu.htmlより引用)

 なるほどね〜、世の中ではこういう使い方もされているのか〜と思った。

 「スクリーニング」とは「篩(ふるい)にかけること」を意味する。最近の人は「篩」自体が??かもしれないが、広辞苑から引用すると、

  • 『ふるい【篩】 粉または粒状のものを、その大きさによって選り分ける道具。普通、まげ物の底に、馬尾・銅線・絹・竹などを張ったもの。』
  • 「篩にかける」とは『多くの中からよいものだけを選び出す。選抜する。』

と、ある。

 私は、この「スクリーニング」という言葉にとっても興味をもっている。好きな言葉といっても良いだろう。その心は?だが、以前に、とあるメールマガジンから何か書いてくれと依頼されて書いた原稿があるので、先ずはその中から関連する一節を紹介しよう。『なんでもスクリーニング!』と題したものだ。

なんでもスクリーニング!

 「スクリーニング」という言葉は「篩い分け」とか「選別」と辞書に書いてあるが、医薬開発研究の世界では、主に多くの化合物資源の中から医薬のヒントとなる化合物を探す行為をいう。最近ではHTS(ハイスループットスクリーニング)という極めて多くの化合物試料を短時間にスクリーニングする方法が発展し、一定の成果を上げてきた。

 しかし、考えてみるとこのスクリーニングという概念はあらゆるところにある。例えば、化合物ライブラリーとして購入する化合物を選ぶ、活性が認められた多くのヒットから真のリードを探す(ヒットtoリード)、化合物の薬理評価を実施する際に使うべき実験モデルの選択、ある現象が何故起こるかを解明しようとする際に使うべき実験系の採用、等々これらの行為もある種のスクリーニングをしているといって良い。もっと言うなら、とある案件に対して意見を聞こうとする時に誰に聞くのが良いのかも、聞くべき相手をある種のスクリーニングにかけて選抜していることになる。つまり、選択肢が唯一で無い限りは自ずとスクリーニングをしていることになる。

 こうしてみると、人生そのものがスクリーニングの連続である。受験は何処にしようか?就職試験はどこを受けようか?などもスクリーニングである。もっとも、入りたいと思っている学校や会社も、逆にこちらをスクリーニングにかけてくるわけだが。。。う〜ん、となると結婚相手を決めるのも凄いスクリーニングということになるし、双方がスクリーニングをしあった結果ということか〜〜。ハイコンテンツスクリーニングの最たるものだ!

 スクリーニング結果を良いものにするには、?適切なスクリーニング系をつくること、?スクリーニングする対象を良いものすること、が重要であることがすぐ分かる。そして、何をもって良いものとするかがとっても難しいし、また理想を追いすぎてもダメなこともすぐ分かる。実際には不確定な要素が多々あるので、常に良い結果が得られる保証は無いのだが、できる限り可能な努力をすることが大切である。不確定な要素が多いほど我々は英知を出し合わねばならない。そして、スクリーニング結果を生かすも殺すもその後の行動次第である。逆に言えば、「その後の行動」に依存してスクリーニング対象を考えないとならない。この辺り、さしずめ「ヒットtoリード」への取り組み方かな〜とか思っちゃったりする。

−略−』

と言うわけで、森羅万象いたるところでスクリーニングが行われており、今この世に存在するあらゆる生命は、当然ボクらヒトも、宇宙誕生以来137億年(または地球での生命誕生以来38億年)の歳月をかけたスクリーニングの結果であると言える。

スクリーニングという視点で物事を捉えるととっても面白い。

 例えばヒトの性格だ。当然千差万別色々あるが、少なくとも自然環境・人間社会様々な意味で過去の過酷な環境を少なくとも現在まで生き抜いてきた人間の子孫である。生きて子孫をつくるために個人として何が必要だったのか、つまりスクリーニングに合格した性格・資質とは何だったのか?という見方である。

 生き残るために必要な性格や資質を考えて列挙してみよう。

  • 腕力に長けて戦闘にはめっぽう強い
  • 戦いは避けて逃げるのがとにかくうまい
  • 人を騙してでも必要なものはうまく手に入れる
  • 人のリーダーとなって集団をまとめることができる
  • 集団の中に埋没して、とにかく目立たないようにする
  • 長いものには巻かれろ式に、常に時の権力者についていく
  • 仙人のように、人との関わりを極力避ける

 ふむふむ・・・。今を生きる現代人は、皆さん、こうして生き残ってきた性格や資質を受け継いでいるのだ。

 個々人の性格も様々だが、民族や国、または文化圏などでそれぞれ一定の傾向があるように思う。S社T氏より、インターナショナルジョークとしてこんな話を聞いた。

  •  【インターナショナルジョーク】タイタニック沈没のような状況で、婦女子や子供を率先して救命ボートに乗せて、本人に対しては自ら海に飛び込ませねばならない場合、どのように説得すると良いか?【解答はここ
    • イギリス人に対しては?
    • アメリカ人に対しては?
    • ドイツ人に対しては?
    • 日本人に対しては?

 なるほど、お国柄を良く捉えていると思った。ところで、フランス人やロシア人、はたまた中国人ならどうなのだろうか?とも思った。四の五の言って、または必ずやるからと言っておいて、・・・・・・。これは偏見だろうか?いずれにしても民族や国柄による人々の資質や性格の傾向は、人間社会が形成されて以来ここ数千年のスクリーニング結果なのである。

 日本では、農耕一筋数千年の歴史がその根源なのだろうと思う。島国として大陸から隔離され、数千年の間培われた米作り一筋の遺伝子は、数十年程度の環境変化でそうたやすく変化するはずがない。

 農耕の歴史数千年の中でスクリーニングされてきた人間とは、

  • 定型的な作業を勤勉実直に忍耐強く行える
  • 新しいことに取り組むよりも、前例に従って大きな失敗をしないことを良しとする
  • 改善はあくまでも工夫の範囲で、抜本的な改善は控える
  • 目立ったことは控えて、集団の中に埋没することを良しとする
  • (致命的な被害を被らない限り)お上は別の世界と割り切り、内々のささやかな幸せを大切にする。

という人々である。

 良いとか悪いとか言う問題ではない。ボクらはこうした特性の遺伝子を抱えているということを理解し、また意識したうえで、ことにあたるのが良いということだ。

 さて、以下は蛇足気味だが、ついでなので書いておこう。

 戦後教育の過程で、個性を伸ばし創造的発想力を育成しようとの考えのもと、または受験教育の弊害を是正するために、(または教師が楽するために、??)いわゆる「ゆとり教育」が実施されてきた。私は、この「ゆとり教育」はものごとの本質を完全に見誤った典型例であると思っている。つまり、こういった遺伝子集団の皆々を創造的な人間に育てあげようとしたのだからうまくいくはずがない。結果は、「わがまま」を個性と勘違い、より画一的な言動、学力超低下、失われた真面目さ、社会性の欠如、見て見ぬ振り社会の助長、という惨憺たるものだ。これら全て学校教育だけの問題と言うわけではないだろうが、かなり大きな役割を担ってきたと思う。

 学校教育で先ず大切なことは、大多数のグレーゾーンの人間をどこへ導くのか・・ということである。問題は、大多数のグレーゾーンの人間は、どこへなら導きうるのか?ということだ。そもそも持ち合わせていなかった創造的・独創的な発想を伸ばそうとするよりは、その基本特性を活かして真面目に一生懸命働く人間に育てることが大切だった。それが日本人の良いところであり、世界に誇れる資質だったのに。希に発生する優れた創造的・独創的な資質をもつ人間に対しては、それを見逃さずに暖かく迎えてあげれば(これが難しいのかもしれないが)、自ずと育っていくのではないだろうか。大多数のグレーゾーンの中から、無理に教育やゆとりによって作り上げられる訳ではないだろう。

 最近は見直そうという動きがでてきたので、是非思い切って路線変更をして、日本人の良いところや特性を伸ばす方向へ向かっていってほしいものだ。

以上

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【解答】

  • イギリス人には: 君は紳士だ。
  • アメリカ人には: 君は英雄だ。
  • ドイツ人には: これは規則だ。
  • 日本人には: 皆がそうしてる。

というものだ。