「蝉しぐれ」と「親切なクムジャさん」を見てきた。。。 -2005.11.23Up

 この二つの映画自体に特別な関係はないが、私は待ちきれなくて、10年ぶりぐらいで劇場にまでわざわざ見に行った程、期待して見たいと思った映画なのである。

 「蝉しぐれ」は、NHKの金曜ドラマを見て知った。すでにこのHPにも記載済みだが、日本のドラマでは久々に評価できる素晴らしいドラマだった。原作は藤沢周平氏の小説なのだが、牧文四郎を演じた主演の内野聖陽が良かったし、何といっても、ドラマ自体に張り詰めた緊張感がある素晴らしいドラマだった。ふくを演じた水野真紀は、セリフがもごもごして時代劇はどうもね…という感じだが、もともと嫌味のない女優さんだから、それはそれでなかなか良かった。ドラマで「蝉しぐれ」を知り、そして原作を読んで「蝉しぐれ」の世界に浸ったのだった。。。

 そこへ、「蝉しぐれ」映画製作のことを知った。監督は、黒土三男氏という人で、NHKのドラマはこの人の脚本だった。そして、映画「蝉しぐれ」のHPへ行くと黒土氏が書いた文章が載っていた。映画化を許可しないといわれた藤沢氏から映画化の許可をとる話、企画をもってスポンサーを探すが見つからなかったこと、そうこうするうちに藤沢氏が亡くなってしまったこと、そして、構想から十数年後やっと製作が実現したこと等、黒土氏の執念ともいえる思いが綿々と書かれていた。正直、感動しました。。。そんな黒土氏が作る映画「蝉しぐれ」は是非見たいと思った。そして待つこと一年半(?)、やっと封切りになった。こんなに期待して待った映画も最近ないなぁ〜という訳で、映画館まで足を運んだのでした。

 「親切なクムジャさん」は、映画「オールドボーイ」でカンヌグランプリを取ったパク・チャヌク監督が作ったイ・ヨンエさんの映画だ。チャングムの後、イ・ヨンエさんが挑んだ話題作であり、チャングム(イ・ヨンエさん)のファンとしては注目せざるをえない。今年の初めごろに知ってから待ちに待った映画であった。12日(土)が封切り日だが、土日は時間が取れなかった。一週間待ちきれず、月曜日の仕事を早めに切り上げて見に行った。

 以下はネタバレなので、注意されたし。。。

【蝉しぐれ】

 下記は、「蝉しぐれ」を見てきた直後に記載したメモである。(あとでちょっと追加したけど。)

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映画「蝉しぐれ」 評点:★★★(日本の映画ではもっとも欠けている映像美の点では素晴らしかったので、おまけして)

  • 映像の綺麗さはみごと。それに比べて、俳優の演技やせりふは総じてダメ。これが限界かと感じた。逸平(ふかわりょう)の「腹減ったな〜」が一番良かった。原田美枝子はさすが貫禄だが、まわりの俳優が弱すぎて全体のバランスの中では浮いていた。
  • 子役陣のせりふが下手。
  • 文四郎の父牧助左衛門を演じるのは緒方拳だが、ちょっと年を取りすぎている。もう老人の風貌としゃべりだった。せりふに重みがない。『文四郎はわしを恥じてはならん』はもっと威厳のあるせりふである。
  • 染五郎のせりふがもごもごしてる。表情もダメ。里村佐内に「だまらっしゃい!」とどなるセリフだけが唐突過ぎて違和感。共感できなかった。
  • 木村佳乃はとてもきれいで映像的にはよかった。だが、せりふが軽い(友達感覚、気軽な仲間)
  • 坂で大八車を引く「蝉しぐれ」たる場面で、蝉の鳴声が聞こえなかった。ここは音楽は要らない。溢れんばかりの蝉の声と無音で表現するべきである。ここで蝉しぐれを感じなければ意味がない。また、重たい大八車を引くときは腰で引いて欲しかった。それじゃあ引けんだろうという思いが浮かんで、それが気になってしかたが無かった。
  • 剣に精進して秘剣村雨を伝授されるのは入れて欲しかった。
  • 殺陣がちゃっちい。あの血しぶきはいただけない。免許皆伝で秘剣村雨を伝授された腕前なのだから、もっと強い文四郎として描いてよいだろう。ここだけ妙なリアルさを求めているが、藤沢周平氏が見たら泣いただろう。
  • 観衆が「蝉しぐれ」を良く知っているのが前提となってできている映画。もし、何も知らずに見たらどう感じただろうか?はたして、理解できただろうか??途中、流れが緩慢になってだれた時間があった。原作の場面場面で挿し絵風に断片的に映像化するとこうなるというもので、独立して見せる映画になってない。原作からここの気持ちはこのはずだと想像をして映画に感情移入したというのが実際。
  • 矢田のご内儀はなぜ出てきたのか?意味がない。全面カットでよかった。
  • 文四郎が、ふくをそこまでいとしく思っているように描かれていない。文四郎宅へ行ったふくの切なさが伝わってこない。全体を通して言える事だが、心の動きを表現し切れていない。祭りでふくが袂を持った際に文四郎の反応を描くとか…。祭りでふくをおいて行くときの気遣いとか…。待っていたふくのもとに喧嘩で傷ついた文四郎が戻ってきたときの二人とか…。江戸にいくふくに会えなかった際の心情とか…、何かもっとふくを好きだとの表現がだせなかっただろうか。。。(逆も…)
  • ふくに殿のお手がついたのを聞いた際の文四郎の表情が描かれてない。文四郎は、ただ縁台に座っていただけ。お子ができたとのことをきいた際の葛藤が不十分。難しいのは分かるがそこを表現するのがプロだろうと思うのだが。。。
  • 文四郎とふくは、最後には思いをとげたはずだが、それがはっきりと描かれていない。あれじゃあ、未練を膨らませて別れたというだけではないか。。。
  • やっぱりあれだけの長編を映画にするのは無理なのか?それとも制作能力不足なのか?。これが日本映画の限界なのだろうか?と感じざるをえなかった。

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 という訳で、とっても厳しい評価になってしまった。。。いろいろ書いてあるが、要は一人の観客として鑑賞に没頭できるほど惹きつけられなかったということである。気になる点やもの足りない点が多くて、観客ではなくて評論家にならされてしまった。残念である。本当に残念である。

【親切なクムジャさん】 ??? ??? (Sympathy for Lady Vengeance)

 感想は後で書くにしても、見てきたばかりで印象の強いうちにコメントしておこう。

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親切なクムジャさん 2005.11.14

  • 前半はちょっと分かりにくい。展開の速い映画に慣れてないとフォローできないだろう。
  • 後半というか復讐が始まる辺りから、一気に惹きつけられる。
  • イ・ヨンエさんはさすがだ。特に表情の変化は見事。最後の方でみせる夜叉が泣いている表情は凄い!
  • イ・ヨンエさんの立ち姿がカッコイイ!
  • 隙のない映画、という印象だ。蝉しぐれが隙だらけだったので。。。
  • 万人受けする映画ではないし、楽しい映画でもないので、皆が良いとは言わない映画だ。全体的に分かりにくいし。
  • 随所にあるユーモアの入れ方が粋である。
  • まあ、日本では絶対にできない映画であることは確かだ。レベルの違いをまざまざと感じた。

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 以上は、映画を見た直後のメモだが、以下感想を。。。

「親切なクムジャさん」 評点:★★★★

 今年の初め頃から注目していた映画だけに、早く見たくて早速14日(月)に行ってきた。19:10の回だが、ラッキーなことにゆうこんとボク以外はたったの3人で、貸切状態であり、とっても気分良く見ることができた。さて、さっそく感想などを書いておこう。

  • 楽しい映画ではなく、またテンポの速い映画を見慣れていないとフォローできないし、難解なところもあって万人向けではない。決して皆にお勧めする映画とはいえない。きっと評価もかなり分かれるだろう。
  • 出所するところから始まるが、前半は「親切な」部分を断片的に解説しながら進む。その後からストーリーとして始まるので、なかなか映画に入り込めないが、後半つまり復讐を実行する辺りからは、ぐいぐいと惹きつけられる。
  • イ・ヨンエさんを見るための映画といっても良い。演技、特に顔の表情は見事である(セリフも良いけど)。復讐の最後に見せる「悲しみを抱いた般若」の顔は凄い。眠らされたペク先生の頭を床に押し付けて髪を切った後に一瞬見せる「狂気の表情」も凄い。また、立ち姿が素晴らしくかっこよい。穴掘りのシーンで脇に立っている姿等にグッときてしまった。石鹸をかざしてニコッとする笑顔もたまらない。
  • 随所にもりこんだ笑いの部分がうまい。「改宗したんです」と拳銃の作り方が載っている法句教の本を出すところや、被害者家族の会の面々の様子はとっても面白い。残酷なシーンでも、重く深刻にさせ過ぎ無いような効果になっている。ただ、顔が光るのと「no mother」の雲はちょっとやりすぎでどうかと思うけど。。。
  • 冒頭の「白い豆腐」に対して、ラストシーンでは「四角い白いケーキ」が対になる。「二度と罪を犯さないように真っ白な心で…」と差し出された豆腐を「余計なお世話です」とひっくり返すが、ラストでは自分で作った白いケーキに自ら頭を突っ込む結果になる。被害者の会の皆さんには、丸いチョコレートケーキを出している。赤・白・黒の色を象徴的に使っている。もちろん音楽もとっても良かった。
  • 復讐をテーマに掲げ、復讐を遂げても魂の救済は得られないという結末だが、全編を通して流れているのは、「人の心は解らない」ということだ。そもそも主人公のクムジャさん、ジェニー、吉幾三みたいな神父さん、ペク先生、囚人仲間達、刑事、被害者の会の人々など全員、見た目と実体が異なり、本当の心の内は解らない人々ばかりで、これが真のテーマなのではないかとさえ思える。
  • クムジャの復讐とは何なのか?これが映画の本質部分だが、これが理解しにくい。特にキリスト教の感覚が無い我々日本人にはわかりにくいのではないだろうか。。。「罪を犯したら贖罪しなければいけない。大きな罪には大きく、小さな罪には小さく。」とわざわざ親切にもヒントをくれているのだが、「復讐」という言葉にまどわされてしまう。
    クムジャは、自ら手を下した訳ではないが、子供が殺害された(阻止できなかった)ことに対して贖罪をしようとする。自ら自分の指を切り、そしてペク先生にはそれ相応の罰を与えるのが、クムジャの贖罪としての復讐なのである。「贖罪としての復讐」だからこそ、更なる犠牲者の存在を知った時には、犯罪を阻止できなかった刑事には相応の協力をさせつつ、復讐自体はより適切な被害者の家族に委ねたのだ。クムジャは、あくまでも親切なクムジャさんなのである。
  • ところどころナレーションが入るが、これはジェニーが語っていたということが最後に解る。つまり、クムジャは心の平穏(魂の救済)を得ることはできなかったが、娘のジェニーからの理解(または信頼)は得て、後日心の内をジェニーと語りあえる関係になったということだ。

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  •  気に入っているショットをいくつか紹介しよう。
  • 冒頭、豆腐をひっくり返したシーン。 石鹸をかざしてニッコリ笑う。ここの笑顔、笑顔中の笑顔です。 カメラ目線に一瞬出あう「狂気の表情」。スタッフ一同驚いたとのこと。ミンシク氏も「怖かった」と語ったシーンである。ベストショットの一つ。
    黒のレザースーツに赤いアイシャドウ。何と表現してようか分からないこの表情!。私の最も気に入っている写真だ。 この目線! 穏やか(?)な表情。この映画では珍しい。
    白いケーキに顔を突っ込んだラストシーン。
    青龍映画賞での受賞挨拶 おまけです。クムジャさんとは関係ありません。 これもおまけです。
  • この立ち姿に…!(上)、復讐が終わって最後に見せる般若の表情(中、下)

 (以上、2005.11.23)

  その後、2005.11.29に第26回青龍映画賞の発表がありました。「親切なクムジャさん」は作品賞、主演女優賞(イ・ヨンエさん)を取りました。おめでとうございます。 -2005.11.29追記

  写真をいくつか追加しました。−2006.02.05

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