とりあえずある宿のロビーで落ち着いて、これからどうするかみんなで考えた。当てにしていた、ちょっと高めのこの宿も FULL だそうだ。別の安宿街へ行くにはもう疲れすぎている。このロビーで寝る訳にも行かない。みんなお腹が減っていたので、とりあえず食べてから考えようということになった。荷物だけはここに置いてもらえるそうなので、荷物を預けてみんなで飯を食いに行くことにした。
だが、レストランは軒並み閉店。そして開いているところも凄まじく混んでいる。尋常じゃない行列だ。仕方ない、屋台に行くか。海岸の通りに並んでいる屋台を眺めて歩いた。あんまりうまそうなのがないな。歩いているうちにいつの間にかまた一人になっていた。チキンと玉子が載ったご飯があったので、頼んでみた。一皿できあがった後、受け取っていくらだと聞くと、Rp20,000 とか抜かしやがる! なにぃー! しまったと思った。うっかり、注文する前に値段を聞くのを忘れていた。しかし高すぎる。ちょと上乗せしたというレベルの値段ではない。桁が違う。値段を言ったときのこいつの表情からしても、ボったくろうとしているのがわかる。近くにすわっていた人に、
「こいつはこれが Rp20,000 だと言ってるんだけど、信じられん。おかしい。高いと思わんか?」
と聞いてみた。聞かれた兄ちゃんは困った顔をして、
「すまない。わからない。」
と答えた。ええー? 高いはずだ! おい! 一言「高い、おかしい」と言ってくれ。やっかいな事に巻き込まれたくないから知らないふりをしてるのかな。ええい、仕方ない。私は奴に
「悪いけどこれキャンセル。」
と言い放ってとっととその屋台を離れた。後ろから
「ヘイ! 待って! OK、 OK...」
と奴の声が聞こえたが、そんなのもう食う気がしない。振り返らないでその場を去った。
さて、どうしよう。バスで一緒だった男の人が屋台の前で座っていたので、自分も合流した。焼きそばの屋台だ。あまりうまそうではなかったが、まあいいかと思って注文した。今度は値段を確かめて。となりのジュースの屋台でスプライトを1本買おうとすると、Rp5,000 だと言う。またボったくりだ。高いよと言うと、
「日本人か? 日本人はフレンドだ。」
と急に笑顔になって、Rp2,000 になった。それでもまだ高いんだけど・・・まあ今までより大したことないからいいや。しかし、ここでは全ての屋台がボったくろうとしてくる。大観光地なのは良くわかるが、とても感じが悪い。
焼そば屋台の兄ちゃんと話している彼の横に私も座った。屋台の兄ちゃんはよくしゃべる。声がうるさい。ちょっと黙っとれコラ。しばらくするとさっきまで一緒だった2人の女性も合流して、そこへ座り込んだ。
粗末な夕食を食べつつ、女性の1人が
「そう言えば、あなたの名前聞いてなかったわね。」
と言ってきた。そう言えばそうだ。そして、そこで初めて落ち着いてお互いに自己紹介をした。男の人はフィリップ。ベルギーから来ていて、エアラインカンパニーに勤めているそうだ。この後は中国に行くという。2人の女性はクレア、キャシティ。2人ともイギリス人。この3人は一緒に旅に出た訳ではなく、途中で会って行動を共にしているだけだそうだ。フィリップと私はビールを飲んだ。4人で
「Happy New Year!」
とビンを鳴らした。なにか苦労を共にした仲間という感じだったので、打ち解けることができた。
食べ終わった後は屋台を離れ、フィリップと2人で地べたに座ってビールを飲みながら旅話をした。彼はスラウェシ島にも行ったそうだ。独特の風習のあるところで、とても面白いそうだ。行って見たいなあ。それから、カンボジアのアンコールにも行ったことがあるそうだ。アンコールのあるシェムリアップは東南アジアで最高の場所だ! と意見が一致したりもした。今日は寝ないで、この海岸で1晩明かそう。しかし、うるさいし、酔っ払いが多いな。
しばらくすると、ある酔っ払いがフィリップに声をかけてきた。奴は私たちの前に座り込み、いい店があるとか、女はどうだとか言いはじめた。やばい。こいつ、目がイってる・・・。フィリップは相手を刺激しないように、奴が言うことを軽く受け流していた。ちょっとでも怒らせたら大変なことになりそうだ。奴は完全に酔っ払っている。もしかしたら何かクスリをやってるかもしれない。私はこの危険な雰囲気に居たたまれなくなってしまった。なんとかこの状況を脱しようと思い、ある花火が打ちあがった瞬間に、スッと立ち上がった。いかにも花火に興味があるそぶりで、ちょうど奴と向かい合ってるのと反対方向になる花火の方を見た。そのとき奴が
「おい、どこ行くんだぁ。」
と言ったのでちょっとドキっとしたが、何も起こらなかった。良かった。フィリップが、どうした? という感じで立ち上がって私と同じ方を見た。しばらくすると、奴は何も言わずに立ち上がってフラフラとどこかへ行ってしまった。ふぅー。
フィリップが、
「ここはヤバイな。荷物のある宿に戻ろう。」
と言ったので、ここで1晩明かすのはやめて戻ることにした。
結局、外で寝る場所を探して4人で寝ようということになった。私は寝袋を持っていないので、フィリップが敷くものを貸してくれた。2人の女性が準備している間に彼と話をした。
「日本というのは俺たちヨーロッパの人間にとってとても興味のある国なんだ。日本はとても変わった文化を持っている。柔道、空手、それから、あの計算機・・・なんて言ったっけ。」
「そろばん?」
「そうそう、そろばん。」
「柔道は高校の授業でやったことあるよ。あんまり強くなかったけどね。」
「そろばん使える? あれはどうやって計算するんだ?」
「そろばんは最近の日本人は使わなくなってるよ。」
「電卓?」
「そう。今は電卓。そろばんは今は学校でも教えないしね。私もそろばんはできないよ。」
「あれはどうやって計算するのかわかる?」
「そろばんはビーズが並んでいて、一列のうち一番上は5で、その下の4つはそれぞれ1を表してるんだ。そろばんを使う人は、実際にそろばんが無くても頭の中にそろばんのイメージを持っていて、暗算できるんだよ。」
「ふーん、頭の中でビーズを動かす訳か。」
「そうそう。」
彼は1度だけ日本に行ったことがあるそうだ。全てがとても高かったと言っていた。そうだろうなあ。多分東京ってのは世界で物価が一番高い都市なんじゃないか? それに、成田空港にある店の値段ってさらに高いからびっくりしたでしょ。
そんな話をしているうちに後の2人が来たので、4人で寝る場所へ歩いた。さっき宿探しをしている時に寝られそうなところを見つけていたらしい。旅慣れてるなあ。道は雨で濡れている。ある道の角のところに、下がコンクリートで、屋根のあるところがあった。柱は、例の政党の赤と黒の模様に塗られている。屋根の下には何もない。選挙のキャンペーンなどで使う場所かな。ジョグジャにあったヤグラと同じようなものだろう。3人はここをキオスクと呼んでいた。そのキオスクに4人で並んで横になった。
「今日は大変だったね。」
「New Year をこんなところで迎えるなんてなあ。」
「New Year にこんなところで寝るなんて最低だわ。」
「あぁー、来年はきちんとした服を着てシャンペンのある New Year を迎えたいわ。」
「暖かいベッドもね。」
「そうだね、あははは。」
みんな最悪というようなことを口走っているが、私は内心ちょっと楽しかった。野宿するなんて初めての体験だったからだ。それに1人じゃないから安心だ。苦労を共にすると、仲良くなれる。
すこし雨が降っている。バイクがけたたましい音を立てて目の前を通りすぎる。猫もうるさい。横になってそれほどたたなうちに、あるバイクの集団が「なんだ、あいつら」という感じでこっちに近づいてきた。キオスクの前にバイクを止め、すぐ側に来て座った。
「ここで寝るのか?」
もう半分眠っていたので、ほとんど話をすることもなかった。だが彼らはしばらくそこに居てしゃべっていた。さっきとちがって全然危険な奴らではない。でもうるさい。用もないのにこんな近くに座ってしゃべんなよ。クレアさんが咳払いをした。するとごめんごめんと言い、しばらくして去ってくれた。しかしそれからもしょっちゅう別のバイクが通り過ぎる。猫もうるさい。シーッと言って追い払ったりした。
バリ島では伝統芸能を楽しんだり、ビーチで寝転がって日焼けでもしようと思っていたが、結局そんなことは全然できなかった。「バリ島で年を越した」などと言うととても優雅に聞こえるが、その言葉の印象とはえらく違う現実であった。
結局ほとんど眠れなかった。5:50 に起き、6時に荷物を取りに4人で宿へ向かった。
荷物を担ぎ、とりあえず4人でカフェへ。あまり食べる気はしなかったので私はコーヒーだけ注文した。今日もまた雨だ。「ビーチで日焼け」どころではない。雨宿りも兼ねて、しばらく彼らと話をした。ブロモで一緒だったYさんと私はカップルだと思われていたようだ。だからブロモからここへ来るバスに乗るときに、私に今発つのかと聞いたのだそうだ。ジョグジャからのバスでも、2人で彼らの前に座ってずっとしゃべってたからなあ。Yさんは結婚してると言うと、クレアさんから
「じゃあ、彼女は何で1人で旅行してるの?」
と言われた。結婚してる女性が一人旅っていうのはやっぱり不思議なのかなあ。クレアさんは何やらポストカードを書いていて、マイ・スイートハートにどうたらこうたら・・・と話していた。相手はいるらしい。内心、《じゃあ、あなたたちはどうなの?》 と思ったが、聞くのは止めといた。
彼女たち2人はバリ島の別の場所へ行ってみるそうだ。私とフィリップはデンパサールへ行き、ジャワへ戻ることにした。私は帰らなければならないからなのだが、フィリップはなんでもう帰るの? ここがよっぽど面白くないところに思えたのかな。
「Have a nice trip!」
彼女たちと別れ、8:30、フィリップとベモコーナーへ。すぐ見つけられた。待たずに乗れてよかった。料金は 2000 ルピア。デンパサールのベモ・ステーションに着いてから、彼は先にバスターミナルのあるウブンへ。私はバリ博物館へ行ってみようと思い、博物館まで歩いた。
途中、商店街などをみてまわった。閉まっている店が多いのだが、ちょっと裏へ入ると、きれいな布を売っている店がずらーっと並んでいる通りなどがあった。途中でテレホンカードを買って SQ へ電話。かかったと思ったら、テープの音声だ。早口のインドネシア語の後、早口の英語。電話番号のような数字を言われ、電話は切れた。さっぱりわからない。何度かかけなおして同じ音声を聞いたが、よくわからなかった。多分今日は休みですというようなことを言っているのだろう。言われた電話番号をメモしてかけてみたが、全然かからなかったので、あきらめた。
博物館は閉まっていた。がっかりだ。元旦だからか。でも観光客のために開けといて欲しかったなあ。展示は見られないが、敷地内へ入ることはできた。そこで面白い兄ちゃん登場。いい奴だった。日本語がうまいが、博物館の人ではないそうだ。座り込んでしばらく話をして時間をつぶした。彼の知り合いらしいおみやげ売りの兄ちゃんも横に座って、笛を吹いてくれたりした。別にお金を要求されることもなく、楽しい時間を過した。
博物館を後にし、歩いて再びベモ乗り場へ。そこで昼飯にした。まずいー。え、これがナシチャンプル? うそぉ。ご飯の上にサテが載っていて具はちょこっとだけ。でもご飯は多めだ。
飯の後しばらくしてからベモに乗り、ウブン・バスターミナルへ。12人も乗った。料金は 1,000 ルピアだ。安い。早く着きすぎたな。2時間ぐらい暇だぞ。ぼけーっとする。またバスの来るのが遅い。15:10 ごろやっと来た。乗るとチケットのチェックをされたが、私の名前が名簿にないようだ。まったくどうなってんだよ。これ、ジョグジャで買ったチケットだから、連絡行ってないのかな。結局、チケットの再発行みたいなことをされた。金は取られなかったが、新しいチケットを渡された。
前の席に小さい女の子3人。そのうちの1人は私の隣りの女の子(若いけどお母さん?)の子供のようだ。目を閉じて寝ていたら、バスはいつの間にか出発していた。パンと水を渡されて起きた。バリからジャワへ渡った後は、時計を1時間前に戻す。夜になり、22:30 ごろ夕食。セルフサービスのご飯だ。自分で好きなだけよそった。TEA 付き。結構うまかった。
しかし、私はバリに何をしに行ったんだろう。ほとんど何もしていない。