長い長い列車の旅が終ると、川のある景色が美しいフエだ。この列車は昨日の朝9:00発で、フエに着いたのは今日の11:30ごろであった。つまり26時間半乗っていたことになる。ハードベッドはお尻が痛いと『地球の歩き方』に誰かが書いていたが、私は十分眠れた。
まず部屋を見せてもらってからこのミニホテルに泊まることにし、ホテルのお姉さんに私の他に誰か日本人が来たかどうかを尋ねた。来ていないと言うので待たせてもらうことにした。だが1時間待っても新川さんは現れなかった。
私も時間がないので待つのをあきらめ、まず帰りのチケットを取るためにベトナム航空のオフィスへ向かった。オフィスはあるホテルの1Fにあった。チケットは6日の分まで満席で、ないそうだ。鉄道で帰るしかない・・・。思い浮かんだのはあのまずい飯。いやだー。でも仕方ないか。駅へ向かう途中からシクロの兄ちゃん(まだ15ぐらいに見える)が自分の横を付いて来る。かなりしつこい。いらないってのに。
あんまりしつこいのと歩きつかれたのとで、カフェに寄ることにした。屋根があるだけのオープンな店だ。ここは『地球の歩き方』ではミニホテル18になっているところだ。川岸の見晴らしのいいところに座り、7UPを頼んだ。氷入りのグラスについで飲むジュースはうまい。2本飲んでしまった(250mlぐらいのやつ)。そこのおばちゃんが話していいかと言うので、いいよと横に座ってもらった。英語での会話なのだが、彼女の英語は聞き取りにくい。私には彼女はいないと言うと、娘を紹介しようかと言ってきて返答に困った。また、私はエンジニアだと言うとサイエンスへ話題が移った。面白かったのはおばちゃんは月へ最初に行ったのはソ連のガガーリンだと信じていることだ。アメリカのアームストロングだと私が言っても信じない。ソ連がそう言いふらしたのだろうか。また、ゴーストを信じるかなど、ちょっと宗教がかった話が出て来たりもして楽しかった。
カフェを出るとシクロの兄ちゃんが待っていた。俺は乗らないぞ。駅へ行ってチケットを買うと、今日は$60だった。前は$51だったのに。なんでだ? 駅から引き返すと、途中でまたさっきのシクロが待ちかまえていた。しつっこい。
駅でチケットを取った後はシクロを振り切り、王宮へと向かった。もしかしたらここのシクロはサイゴンのようにタチの悪い奴らじゃないかもしれないが、もうシクロはごめんだ。それに王宮まではそんなに遠くなさそうだから必要ないだろう。観光は今日だけだ。いくら時間がないと言っても、フエに来たからには王宮ぐらいは見とかなきゃ。シクロの兄ちゃんは遠いと言っていたが、全然そんなことはなく、歩いて行ける距離だった。
王宮内は多くの遺跡がベトナム戦争で喪失している。入口の門と主要な2、3の楼閣が残っているだけだ。あとは広い草っ原に古い壁や階段、新しく作ったらしい休憩所のようなものがある。せっかく来たが、あまり感動がない。アンコールを見た後はどんな遺跡もかなわないだろう。アンコールを見る前だったらこのフエの遺跡を見て何かを感じたかもしれないが、これといって特筆すべきものは無かった。フエには他にも多くの寺や廟があるが、それを見に行くだけの時間ももうなかった。カイディーン帝廟などは特にすばらしいと聞いていたが残念だ。
夕日。ノンラーをかぶった人が歩いている。白いアオザイを着た学校帰りの生徒達が自転車で通りすぎる。のどかでいい景色だ。フラッグタワーの前の広場ではみんながサッカーをしている。その景色を暫く眺めてから宿へ戻った。
宿へ帰ると女主人(歳は多分30代、美人だが気が強そう。)にパスポートを渡せと言われた。明日の朝まで預ると言う。なんだ? そんなの聞いたこともない。スッと渡してしまったが、良く考えるとそんなの今までなかった。
「なんで預けなきゃなんないんだ。理解できん。」
と食ってかかった。しかし、なにせ英語力のない私。向こうは《わからん人だねぇ。》と言いたげだ。でもパスポートを手放すことはとても不安だ。何やらポリスのコントロールだとか言ってる。
「パスポートを肌身放さずもっていることはとても重要なんだ。」
と言ったら、
「もちろんそうだ。それはわかっている。」
という答え。必要なのは8時から9時までの1時間だとか。その後返すから、と聞き分けのない子供に説明するように言われた。でもなんで今晩から預けるんだ? 納得がいかん。1晩も預けるなんて、偽造パスポートを作るには十分な時間じゃないか。こんなルール聞いたことないぞ。ホーチミンでは預けろなんて言われなかったし。でも彼女はどうしても返してくれない。不安な夜を過ごした。(結局預けたんかい!)
しかしこの部屋はブレーカーがよく落ちる。また、落ちてもすぐに回復しない。自分で廊下に出てブレーカーをONにしないといけないのだ。めんどくさい。流しは排水管がなくて、汚水がそのまま足もとに落ちてくるし。内装はとてもきれいだがなんか不便だ。
夜は宿近くをうろうろし、バーへ入ってみた。なにか飯を食おうと思ったのだが飲物しかないそうだ。Tiger Beerを1缶飲んですぐ出た。裏通りのほったて小屋の飯屋へ入り、いろいろ載っかってるご飯を食べた。まずくはないが、うまいとも言えない。でも雰囲気が良かった。近くに住んでいて店の人と顔なじみの人しかいないようだ。途中、停電になったりしたが、それもまた楽しい。ろうそくを出してくれた。帰り際におやじが
「コリアンか? ジャパンか?」
と聞いてきたのでジャパンだと答えると、笑顔で
「そうか、またな。」
と言ってくれた。あんまりこんなとこに食いにくる日本人はいないんだろうな。それにしても、この国ではよく「Korean?」と聞かれる。海外旅行してると「Chinese?」と聞かれることはよくあるが、韓国人かと聞かれたのは初めてだ。韓国人旅行者が多いのかな。