第二回 小松寅吉・小林和平作品ツアー 7
小林和平翁 墓参り
和平の生家からそう離れていない山の中腹に、真言宗宝海寺というお寺があり、そこの墓地に和平は眠っています。
お寺と言ってもほとんど農家という趣。入り口の石の門柱は和平の作。
静かな雰囲気のよい墓地で、石に対する興味が強い土地柄なのか、趣向を凝らした墓石や石造物もあちこちに見られました。↓
そんな中、小林家の墓は極めてオーソドックスで、てらいのないもの。
正面の大きな墓石裏側には、和平の経歴が細かく彫り込まれています。
全文を記すとこうなります。
小林和平悟三郎ノ次男幼ニシテ石工タラント志シ淺川町富貴作小松寅吉ノ徒弟ト為リ具ニ辛酸ヲ嘗メ技術ヲ研鑚スルコト多年業卒エテ帰家スルヤ現在ノ地字小金石ニ一家ヲ創建ス時ニ明治四十二年妻ナカ東白川郡社川村大字一色小林多三郎ノ二女明治四十一年嫁シテ一子ヲ挙グ氏ハ名工寅吉ノ藝風ヲ継承シ其ノ技神ニ達シ其ノ藝薀ヲ極ム特ニ狛犬唐獅子等ノ藝ニ至ッテハ近隣之ニ比肩スル者ナク名声*1噴々タリ作風ヲ慕ウテ来リテ嘱託スシモノ地元ハ勿論東西白河岩瀬安積田村石城双葉等ノ遠キニ及ブ興家治産一家泰山ノ安キニアルハ素ヨリ氏ノ余*2徳ノ然ラシムル所昭和廿四年三月廿三日新タニ土蔵ヲ建テ廿九年四月廿三日ニハ大家竣工ノ盛典ヲ催シ會祝者堂ニ満ツ孫登祖父ニ師事シ之ヲ超エント日夜孳々藝道駸々タリ人生倏忽ノ間ニ去ルト雖モ藝術ハ永ヘニ其ノ生命ヲ保チ之ヲ仰グ者ヲシテ粛然襟ヲ正シウセシム氏ノ作品ヲ観テ惟ニ此ノ感ヲ深ウスルノミ
坂本重治撰書
*1「声」旧字体
*2 旧字体?
石工としては存分に力をふるった一生でしたが、私生活は波乱に満ちたものだったようです。
和平は最初の妻・ナカとの間に3人の子をもうけましたが、3人とも夭逝。
墓碑に記された家族の没年を年代順に追ってみると、
明治40年7月19日 長男重利 行年3歳
明治42年2月27日 次男正 行年1歳
昭和2年4月22日 石川高等女学校在学中死去
長女登美子 行年16歳
昭和30年5月18日 妻小林ナカ 行年78歳
昭和35年1月29日 後妻小林ハル 行年67歳
昭和41年3月8日 小林和平 行年86歳
……となります。
子供の行年(数え年)から逆算すると、
1907 明治40 3歳→1905年(明治38)生まれ(長男)
1909 明治42 1歳→1909年(明治42)生まれ(次男)
1927 昭和02 16歳→1912年(明治45)生まれ(長女)
となり、長男は、和平が妻ナカと結婚する明治41年より3年も前に生まれ、結婚する前年に亡くなっていることになります。
3人の子供のうち、最初の男の子二人は物心つく前に夭逝。3人目の娘も、これから人生が花開く16歳という若さで亡くなったわけで、和平の喪失感はどんなに大きかったことか。
石都都古別神社の狛犬建立は、長女を16歳で亡くしてから3年後。そこから立て続けに、古殿八幡、羽黒神社、鐘鋳神社と、狛犬の傑作を造り続けたわけですね。3人の子供を亡くした哀しみを乗り越えることで、和平の仕事に一種神懸かり的な力が加わったのかもしれません。
また、和平最後の狛犬となった川辺の正八幡神社の狛犬は、昭和30年に石工・味原勇が作った狛犬の阿像が壊れて、阿像のみを和平が後から頼まれて彫り、昭和36年4月に建立したものですが、昭和30年は妻ナカが亡くなった年。36年は後妻ハルが亡くなった翌年にあたります。
最後の作品となった正八幡神社の狛犬を建立したときは、和平の妻と子供たちはみんな先立っており、養子・實の息子(自分にとっては孫)の二人が石工修行をし始めていました。そう考えると、あの狛犬を見る目がまた違ってきます。
最後の狛犬を彫り上げたときの和平の胸中はどんなものだったのでしょうか。
妻ナカは姉さん女房。後妻ハルは15歳年下でありながら先立たれてしまい、生涯、二度も妻を送ることになったというのも、いろいろと考えさせられます。
和平が亡くなった昭和41年、私はまだ小学生。狛犬になどまったく興味がありませんでしたし、将来、狛犬趣味を持ち、その行き着く果てに小林和平という石工を知り、これだけ惚れ込むことなど想像できるはずもありませんでしたが、こうして今、墓にまでやってきている……なんとも不思議なものを感じます。

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