神の鑿(のみ) 寅吉・和平の世界

寅吉・和平の世界17

和平開眼す! 石都都古別神社の狛犬誕生

 昭和5(1930)年1月、石都都古別神社の狛犬が建立された。このとき和平47歳。最愛の娘を失った悲しみを乗り越えて彫り上げた大傑作だった。

 石都都古別神社の狛犬は、後ろ脚を大きく蹴り上げ天を滑空しているという構図においては、師匠・寅吉の影響が大きい。一方で、寅吉がひたすら狛犬を「怖い存在」として迫力を追求したのに対して、和平の狛犬は平べったく愛嬌のある母親獅子の顔や、無邪気な子獅子たちの生き生きした表情などがすばらしく、技術だけではなく、芸術性の点で極めて高い評価ができる。
 日本国中に何万という狛犬が存在する中で、これほど生き生きした、ユニークな狛犬は類を見ない。

 石都都古別神社の狛犬を語るとき、どうしても外せないのは子獅子のことだろう。
 子獅子は3匹いて、母親獅子の腹の下でじゃれ合っているのが2匹、顔の横で正面を向いている少し大きめの子獅子が1匹という構図だ。
 この3匹の子獅子に、夭逝した和平の3人の子供たちを重ねて見るのは私だけではないだろう。腹の下でじゃれ合う2匹は長男と次男。母親の顔の横にいる少し大きめの子獅子は長女。和平はこの子獅子たちに、我が子を重ねながら彫り上げたに違いない。その証拠に、これら3匹の子獅子の彫り方がとてつもなく細かい。小さな身体ながら、開いた口の中の舌や歯まで、これでもかというくらいリアルに彫り込んでいる。
   
 石都都古別神社の狛犬を彫り上げることで、石工・小林和平は生まれ変わった。
 この年から毎年一対ずつ、個性的な狛犬を彫り続けたのである。
■昭和5(1930)年1月、48歳。石都都古別神社の狛犬
■昭和6(1931)年6月、49歳。保土原神社の狛犬
■昭和7(1932)年10月、51歳。古殿八幡神社の狛犬。「満州事変皇軍戦捷記念」
■昭和8(1933)年9月、52歳。西白河郡中島村滑津 羽黒神社の狛犬
■昭和9(1934)年9月、53歳。棚倉町一色 鐘鋳神社の狛犬

 この5対の狛犬は、石工・和平の人生の中でも黄金期を築くものだ。
 どれも個性的ですばらしいが、エポックメイキングな作品として記念すべき石都都古別神社の狛犬、アートとして最も完成した古殿八幡神社の狛犬の二対は特に、重要文化財指定をしてもよい傑作と言えるだろう。
 以下、この5対の狛犬を並べてみる。どのように変遷していったかが分かって面白い。
 
↑石都都古別神社 昭和5年



保土原神社 吽  保土原神社 阿
↑保土原神社 昭和6年



古殿八幡神社 吽  古殿八幡神社 阿
↑古殿八幡神社 昭和7年



羽黒神社 吽  羽黒神社 阿
↑羽黒神社 昭和8年



鐘鋳神社 吽  
↑鐘鋳神社 昭和9年




 こうして制作順に並べてみると、尻尾の形や巻き毛の配置などを工夫していることがよく分かる。
 石都都古別神社の狛犬の後、尻尾が寂しいと感じたのだろうか。保土原神社でひとつの実験をしているが、まだデザインとしてまとまっていない。それを古殿八幡神社で完成させている。
 羽黒神社では身体の置き方を縦方向にとる実験をしている。
 鐘鋳神社は妻・ナカの実家のそばにあり、義理の父親なども奉納者のひとりとして名を連ねている。貧しい村にこれだけの狛犬を奉納するのは大変だっただろう。資金集めが何年もかかったことが、台座に彫り込まれた奉納者名や数年に渡る年号から読み取れる。制作にも力が入ったことがよく分かる。

 和平の狛犬芸術は、この5対で集中的に開花したが、これ以降は尻すぼみになる。時代が太平洋戦争に近づき、自由闊達な気風が消えていったこととも重なるのかもしれない。戦後の作品は一気に力が落ちてしまう。
 それにしてもこの5対は地元の宝といえる。すみやかに文化財指定をして、末永く、きちんと保存してほしいものだ。

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