最新技術情報
<REPRODUCTION>牛
の繁殖に関する事についての技術情報です。 |
分娩をコントロールすると言う考え方は重要です。
繁殖は牛次第と考えている人が多くいますが、
酪農においては繁殖はコントロールするべきものです。毎月同じ頭数が分娩するように計画的に授精するべきです。毎月同じ頭数が分娩すると言うことは、人間
が管理しやすいばかりか、乾乳牛舎での頭数も安定し、施設を無駄なく利用でき、かつ牛にとって常に良い飼育密度で飼うことができます。分娩の多いときに事
故牛が多発することは皆さんもよくわかっていることと思います。子牛の施設についても同様のことが言えます。乳量も平均分娩後日数が短くなることで、平均
乳量は増加し、また、毎月の乳量、乳成分も安定しバルククーラの容量を気にすることもなくなります。このように、毎月の分娩頭数を一定にすることは非常に
大きなメリットがあります。
では、どうすればよいのでしょうか? 経産牛頭数が120頭であれば、月に生まれる頭数は10頭であれば良いことになります。月に10頭妊娠させなくては
いけないわけですから、現在の受胎率を考えて、例えば30%とすると、月に30頭以上授精しないといけません。それだけの授精ができるかどうかが問題とな
りますが、ここはホルモン処置などを利用して、授精できる牛を増やす必要があります。また、経産牛だけでコントロールし切れないときには、未経産牛で調整
します。当然、受胎しない牛も出てくるので、そういう牛はある日数で線を引いて、淘汰することも必要です。 (文責 MCCS 武中)
定時人工授精の勧め
繁殖成績を改善することは酪農家にとっ
て大きな課題ですが、高泌乳化にともない発情が見つけづらくなり、受胎率も低下しているのが現状です。発情発見ができなければ授精することができないので
お手上げになってしまいますが、発情発見のできない農家に発情発見をしろといってもなかなか難しいのが現実です。そこでホルモン処理を用いた定時人工授精
(ホルモン注射後、発情の有無に関係なく授精する方法)が脚光を浴びてきています。この方法ではとにかく授精率が100%になるので、発情発見ができない
農家にとってはうってつけの方法です。
ホルモン処置にはいろいろな方法があり
ますが、コストもかかることから状況に応じて良い方法を選択する必要があります。多くの場合、PGばかり使っていても繁殖成績は良くなりません。全体的な空胎日数への影響を考えると、一番高くつく方法
でも、ほとんどの農家で経済的にペイできると思います。受胎率が高ければ人工授精料、精液代なども安くなりま
す。また、高泌乳牛で発情発見がしずらい場合、なかなか受胎しない牛、卵巣静止やのう腫の牛にも有効です。日本の場合、薬剤コストは下表に比べるとかなり高いです
が、空胎日数延長によって生じる経済的な損失(飼料費、乳代、育成コストによって変化)ももっと大きくなるでしょう。
OvSynchでは2回目のGnRHは
半分の量でも受胎率に大きな差はなかったとする報告(Fricke et
al.,1998)や分娩後75日以内の牛ではGnRHを倍量使用すると妊娠率が向上するなどの報告もあります。これらの研究のように今後より経済的で、
より効果の上がる方法が報告されることと思います。常に最新情報をチェックしておきましょう。(文責 MCCS 武中)
表 ホルモン処置の経済効果(Roy
et al. Presented at the 108th Annual Meeting, Minnesota Veterinary
Medical Association, 2005 Feb. 4)
同期化処置
|
妊娠率%
|
頭数
|
コスト/頭
|
平均空胎日数の変化
|
経済効果
|
PG
(2回)
PG、さらに14日後にPG、発情発見して授精
|
35.3
|
306
|
$6.00
|
−22
|
$97.40
|
OvSynch
GnRH、7日後にPG、2日後にGnRH、16時間後に定時授精
|
38.0
|
882
|
$11.00
|
−26
|
$111.20
|
HeatSynch
GnRH、7日後にPG、1日後にE2、発情発見して授精 |
32.0
|
371
|
|
|
|
PreSynch
+OvSynch
PG、さらに14日後にPG、14日後にGnRH、7日後にPG、2日後にGnRH、16時間後に定時授精 |
42.6
|
88
|
$17.00
|
−32
|
$133.40
|
CIDR
+PG
SIDR7日間挿入、除去時にPG
|
37.0
|
|
$12.00
|
−25
|
$105.50
|
CIDR+OvSynch
GnRH、CIDR挿入、7日後に除去してPG、2日後にGnRH、16時間後に定時授精
|
63.8
|
121
|
$20.00
|
−58
|
$252.60
|
CIDR+OvSynchが最も受胎率
が高く、効果があることがわかりますが、この方法はさらに次のようなメリットもあります。
1.CIDR挿入で黄体ホルモンレベルが高くなることから、その後のFSH,LHの分泌正常になり、高泌乳牛でも受胎率が高くなる
2.授精前の性周期12日目の黄体ホルモンレベルが高くなることでその後の授精の受胎率は向上するという報告もあるので、受胎率が向上する
3.次回授精時にもホルモンレベルは正常のまま分泌されるので、その授精でつかなくても次の発情がきっちり来て、授精でき、その受胎率も通常より12%高
いと報告されている。
人
工授精のタイミングは雄、雌の比率に影響を与える?(PART 2)
授精のタイミングにより雄と雌の確率を
変化させられるという話を前回紹介しましたが(ミシガン州立大学のエクステンションDr.Pursley)、これはX精子とY精子の雌生殖器官内での生存時間に差
があることを利用した方法で、Y精子はX精子ほど長く生きられないため、排卵までの時間が長いと生きているY精子は数が少なくなり、雌の確率が高くなると
いうことです。通常では排卵の
タイミングを知ることはできませんが、ホルモン処理をすれば排卵時間をかなり正確に予測できます。 GnRHを注射後7日目にPGを注射、36から48時
間後に再度排卵誘起のためのGnRHを注射します。排卵はGnRHの注射後28時間で排卵するので、普通ならGnRH注射後24時間後に人工授精します
が、それをGnRHと同時に人工授精すると授精から排卵までの時間が長くなり雌の確率は高くなります(約10%)。ただし、受胎率も低下するので(39%
から29%)この方法を取るべきなのかどうかを良く吟味しなくてはなりません。GnRH注射8時間前、注射後16時間も試しましたが、GnRHの注射と人
工授精を同時にした場合、受胎率がまずまずであり省力化につながるのでこのタイミングが良いとのことです。
人工授精のタイミングは雄、雌の比率に影響を与える?
まだ、予備試験の段階であるがミシガン州立大学の繁殖の普及員、Richard Pursley、による
と人工授精のタイミングが雄、雌の比率に影響を及ぼすことが示唆された。それによると排卵前36時間に授精すると65%が雌で、排卵16時間前に授精する
と56%が雌であった。平均的な発生率は46%が雌で、54%が雄なので、その割合が高いことがわかる。雌生殖器官内に長くとどまった精子はXの染色体を
持った精子が受精しやすくなる。授精のタイミングを変えるよう推奨するにはまだデータが足りないが、試験は来年始めには呼び試験結果をお知らせすることが
できるだろう。(Dairy Expo. Seminar, 2003)
分
娩後90日までの潜在性乳房炎は繁殖成績に悪影響を及ぼす。
前にも同じような話がありましたが、今回はその続報です。
テネシー大学の試験によると初回人工授精前の潜在性乳房炎は受胎に要する人工授精回数を大幅に増加させ、妊娠率を低下させる。また、人工的に
Streptococcus
uberisに感染させた乳牛は顕著に卵胞機能が低下した。このことは発情が開始する前に臨床型の乳房炎にかかるとそのほとんどは発情兆候を見せないこと
を示す。臨床方乳房炎は約1周期発情回帰を遅らせる。臨床型乳房炎の牛の卵胞の大きさが対照と同じであっても、発情ホルモンの分泌が少なく、排卵に必要な
LH サージもない。さらに、乳房炎にかかっている牛の血中コルチゾールレベルは高く、大きなストレスを受けていることがわかる。(Dairy
Herd Management 2003年 1月号)
泌乳初期の蹄病の繁殖への影響
蹄病は経済的に大きな損失である。一般的におのおののケースが約$300の損失となり、酪農家においては3番
目に大きな損失をまねく病気である。
最近の研究では、蹄病は実際の歩き方に影響が出てくるよりずっと前に乳量が低下すると報告されている。さら
に、分娩後30日以内の泌乳初期の蹄病は繁殖に悪影響を及ぼすことも報告されている。分娩時はホルモン分泌の変化、飼料の変更、新しい環境、など様々なス
トレスがかかり、これらの要因が泌乳初期の蹄病の発生に関係している。
近年、ヨーロッパの研究者はホルモン分泌の変化が蹄病を引き起こすことを示唆した。彼らの理論は分娩時に骨盤
(産道)を広げるリラキシンというホルモンが蹄もやわらかくしているかも知れないということである。このことが蹄の骨(Pedal
Bone)を沈ませ、蹄底にダメージを与える。よって、分娩が蹄病を誘発しているということになる。さらに、分娩後1ヶ月以内はいぼ(Foot
Warts)が発生する危険性が高くなる。
娩直後は蹄病の危険性が高いのにもかかわらず、その危険性を認識している酪農家は少ない。酪農家は一般的に蹄
病の診断に甘い傾向があり、歩様を4段階評価であらわした時、2以上のスコアをつける割合は研究者の方が酪農家より2.5倍高かった。よって、実際の状況
はかなり悪いと考えられる。
乳牛は繁殖のため泌乳初期に最高の状況である必要があるが、分娩後30日の間に蹄病になった牛は妊娠により多
くの日数を必要とする。蹄病の牛は初回授精率を低下させた。(17.5 VS 42.6%)。さらに蹄病の牛は卵巣嚢種になる確率も2.63倍高くなっ
た。蹄病の牛は繁殖障害なども含めて淘汰される確率も高く(30.8% vs 5.4%)経済的損失は非常に大きい。様々なコストにもよるが、泌乳初期に
蹄病になった牛は繁殖がうまくいかない場合が多く、経済的なことを考えれば、種付けをせずに淘汰することも考慮する必要があるかもしれない。いずれにして
も泌乳初期の蹄病を防ぐことに力を入れなくてはいけない。(Dairy Herd Management 2002年 11月号)
受胎率を上げる要因
Journal of Dairy
Scienceの11月号に掲載された文献に、人工授精のタイミングと、受精率、受精卵の品質の関係についてVirginia
Techにより行われた試験が紹介されている。試験ではHeatwatch estrus detection
system によって発情をモニターし、発情発現後0時間、12時間および24時間に人工授精を行い人工授精のタイミングによる受精率、受精卵の品質を
調査した。その結果、受精率には人工授精のタイミングによる差は認められなかったが、受精卵の品質には発情発現してから時間が経って授精したものほど低下
した。よって、適切な受胎率を得る為には、発情発現後、12時間で授精することが推奨される。(Dairy Herd Management,
Feb. 2002)
良い酪農家では妊娠率(妊娠可能な牛がその性周期=21日間に妊娠する確率)を20%以上に保っているが、そうでないところはまず、発情発見プログ
ラムをきっちりと実行することから始めるべきである。発情発見は1日最低3-4回、6-8時間おきに行わなくてはいけない。研究によると発情の指標である
スタンディングを見せるのは8時間程度であり、その間に平均9回乗駕されるそうで、発情発見の間隔が8時間以上になると見逃す確率が高くなる。
(Dairy Herd Management, Feb. 2002)
雌雄判別精子の利用最前線
雌雄を判別して子牛を産ませることができれば、遺伝的改良の観点から、また経済的な観点から酪農家にとって
は有利になる。ここでは最新の雌雄判別の技術水準を紹介する。
精子にはX染色体をもつものとY染色体をもつものがあり、その割合は50:50である。卵子はX染色体のみ
をもつ。X染色体をもつ精子が受精した場合、受精卵はXXとなりメス、Y染色体をもった精子が受精した場合はXYとなり雄になる。よって雌雄を産み分ける
ためにはX精子とY精子を分離し、好みの精子を授精すればよいことになる。X精子はY精子より大きく、約4%多くのDNAを持つため、蛍光染色を施すとX
精子はより明るく見える。これらの精子をプラスとマイナスの電位差のあるところを通過させるとX精子とY精子を分離することができる。分離精度を高めよう
とすると分離の速度が遅くなる。90%の精度を得るための分離速度は1秒あたり2000−4000個である。よって、授精に必要な精子数を得るためには2
−3時間かかることになり、経済的には合わない。よって、研究は雌雄判別を行った後、凍結、融解し、より少ない精子数(100−300万)で受胎率を向上
させることが検討されている。雌雄判別をした精子の受胎率は雌雄判別をしない精子の場合の70−90%程度になると報告されており、通常の受胎率が70%
である場合は、雌雄判別した精子を用いた場合の受胎率は50−63%程度となる。ほとんどの試験は未経産牛 で行われており、経産牛
では行われていない。これは経産牛
より受胎しやすいためと考えられる。また、ある程度の受胎率を得るためには、ある程度の数以上の精子が必要と考えられており、実際、授精する精子数が多く
なれば受胎率も向上する。ただ、その割合については個体差が大きいため、雌雄判別をした精子を用いるにはより少ない精子数で受胎するBullを用いる必要
がある。米国コロラド州、Fort
CollinsにあるXY Inc.と言う会社では人間以外の哺乳類の精子の雌雄判別を行っているが、乳牛での実用化にはまだ2−3年はかかると見られ
る。ただその場合でも、経済性からある少数の種雄牛に限定される可能性が高い。イギリスのCogentと言う会社では2000年2月から雌雄判別した精液
を販売している。通常と同じ授精方法で90%の確率で生みわけができるとしている。価格は1本$41−52程度で、通常の2.5−3倍くらいの価格となっ
ている。 (The Progressive Dairyman, December 2001)
潜在性の乳房炎は繁殖障
害の原因になる
テネシー大学の試験によると潜在性から臨床症状のある乳房炎に移行した牛は、繁殖成績が劇的に低下すること
を報告しています。正常の乳牛と比較すると、初回授精日で26.1日、空胎日数で110.6日、授精回数で3回多くなったそうです。詳しくはJ.
Dairy Sci.June 2001を参照のこと。(Dairy Herd Management ,October2001)
あなたの牧場の本当の妊娠率
は?
繁殖成績を表す数字は非常に混乱し易いが、以下の例のように何を対象とした数字であるかによって、数字が大
きく異なるので、何を対象にして求めた数字であるのかをを明確に把握しておく必要がある。
発情発見率(HDR;Heat Detection Rate)
=授精した頭数(使用ストローの数)/授精可能性周期数(VWP:Volunteer Waiting
Periodを過ぎて妊娠していない牛すべて)
受胎率(CR;Conception Rate)
=妊娠した頭数/授精した頭数(使用ストローの数)
妊娠率(PR;Pregnancy Rate)
=妊娠した頭数/授精可能性周期数
繁殖関連の数字を計算する例(出展:Dr. Neil Michael, ABS Global Technical
Servises,
WI)
Cow No. |
1周期目 |
2周期目 |
3周期目 |
4周期目 |
5周期目 |
妊娠牛のみ
使用したストローの数 |
現存のすべての牛
使用したストローの数 |
淘汰牛を含むすべての牛
使用したストローの数 |
1 |
発情/授精 |
発情見逃し |
発情/授精、
妊娠 |
|
|
2 |
2 |
2 |
2 |
発情/授精 |
発情/授精 |
発情見逃し |
発情見逃し |
発情/授精 |
|
3 |
3 |
3 |
発情/授精、
妊娠 |
|
|
|
|
1 |
1 |
|
4 |
発情/授精 |
発情/授精、
妊娠 |
|
|
|
2 |
2 |
2 |
5 |
発情/授精 |
発情/授精 |
発情見逃し |
発情/授精 |
発情/授精、
妊娠 |
4 |
4 |
4 |
6 |
発情/授精 |
発情/授精、
妊娠 |
|
|
|
2 |
2 |
2 |
7 |
発情/授精 |
発情/授精 |
発情/授精、
淘汰 |
|
|
|
|
3 |
8 |
発情/授精 |
発情見逃し |
発情見逃し |
発情/授精、
淘汰 |
|
|
|
3 |
9 |
発情/授精 |
発情見逃し |
発情見逃し |
発情/授精、
妊娠 |
|
2 |
2 |
2 |
10 |
発情/授精 |
発情見逃し |
発情見逃し |
発情見逃し |
発情/授精 |
|
2 |
2 |
合計 |
|
|
|
|
|
13 |
18 |
23 |
|
|
|
|
発情発見率
(HDR) |
使用したストロー数/
理論上の性周期数 |
76%
(13/17) |
67%
(18/27) |
68%
(23/34) |
|
|
|
|
受胎率
(CR) |
妊娠頭数/
使用したストロー数 |
46%
(6/13) |
33%
(6/18) |
26%
(6/23) |
|
|
|
|
妊娠率
(PR) |
妊娠頭数/
理論上の性周期数 |
35%
(6/17) |
22%
(6/27) |
18%
(6/34) |
(Hoad's Dairyman,October 10, 2001)
AM/PM法と1日1回授精での受胎率の違い
午前に発情発見した牛はその日の午後に授精、午後に発情発見した牛は翌日の午前中に授精する(AM/PM法)のが良いと一般的に言われているが、ABS
Globalの試験結果によると受胎率は1日1回時間を決めて授精した場合とほとんど変わらないことが報告された。多くの農家ではAM/PM法がうまく機
能しているが、大規模農場などではこのことにより授精業務を効率化させることが可能となる。
AM/PM法か1日1回授精かが未経産牛 の受胎率に及ぼす影響
方法 |
授精頭数 |
妊娠頭数 |
受胎率 |
AM/PM法
1日1回法 |
132
129 |
83
80 |
62.9
62.0 |
Total |
261 |
163 |
62.4 |
(Hoad'sDairyman October 10, 2001)
飼養管理が繁殖成績に最も重要であるが種雄牛選択も
繁殖成績を改善する為には飼養管理が最も重要である。乳牛は適切な栄養管理プログラムと清潔で快適な環境が必要であり、管理者はまず、発情発見を第一の優
先順位とし、すべての従業員をトレーニングする必要がある。
これらの問題を解決した後では、娘牛の受胎率、種雄牛の受胎率によって精液を選択することにより、更なる受胎率の向上が得られるかもしれない。
一般的に人工授精所(AI Stud)ごとの差は小さいが、同一人工授精所内の種雄牛ごとの差は非常に大きい。
種雄牛を選択する際の重要な点として、正味利益として生涯利益(Lifetime
profitability)が高いこと、高いERCR(Estimated
Relative Conception Rate)を持つ種雄牛を使用することが挙げられる。
(Hoads Dairyman August 25, 2001)
繁殖成績の改善に最も重要な項目は
繁殖成績の向上は酪農家が儲けるためには不可欠の要因であるが、簡単ではない。 重要なのはどの項目が受胎にとって最
も重要で、どうすることによって受胎率を向上させられるかを認識することである。下の表はどの項目が受胎率に重要な影響を与えるかを示している。
右上の黄色の部分が重要で、これらのことを適切に実行することにより、受胎率は向上させられる。特に発情発見は重要で通常の場合50%以下の発見率のとこ
ろが多い。テイルペインティング、ホルモン処理による定時人工授精、発情日を予測してそれらの牛を集中的に観察するなどの方法で発情発見率を上げることが
できる。また、発情でないのに人工授精を行っている確率が5-30%あるとされ、このレベルも2%以内に抑えなくてはならない。人工授精技術も大きな要因
で、精液を注入する部位は子宮角であるのが望ましいが、授精師によって差がある。適切に受精が行われているかを把握するためには、牛群内での授精師別の受
胎率を長期にわたってモニターするなどしなくてはいけない。高泌乳は確かに繁殖成績に負の影響を及ぼすが、繁殖成績の低下には高泌乳以外にもっと重要な要
因があり、それらを改善することにより、高泌乳と繁殖成績の向上は両立できる。(Dr. Senger, Washington State
University、The Progressive Dairyman August 2001)
繁殖成績上
重要性高い |
- 気候/季節
- 難産
- 受精卵の死滅
- 卵巣機能
- 胎盤停滞
- 種雄牛の受精率
- 子宮の状態
|
- 正確な発情発見
- カウコンフォート/施設の快適さ
- 暑熱対策
- 授精技術
- 栄養管理/エネルギーバランス
- 凍結精液の取り扱い方法
- 移行期管理(分娩前後の飼養管理)
|
繁殖成績上
重要性低い |
|
|
|
飼養管理上改善が困難 |
飼養管理上改善が可能 |
繁殖成績を把握するには妊娠
率が良い
繁殖管理がうまくいっているかどうかを把握するためには、通常、平均空胎日数や初回授精での受胎率が用いら
れるが、妊娠率(Pregnancy
rate)を見る方が有効である。なぜなら、平均空胎日数は繁殖成績が悪くなってもすぐに影響が現れないし、誤った情報を提供する恐れがあるからである。
なぜなら、空胎日数は妊娠した牛の繁殖成績の結果を計算しているだけなので、その時点での繁殖状態を現すものではない。例えば、暑熱ストレスで妊娠しづ
らくなったときなどでも、平均空胎日数では妊娠するまでは数字に表れてこないので妊娠する牛がいなければ前の数字のまま変化しない。 また、受胎率は授精
頭数が分母になっており、授精できない牛は含まれないので、発情発見がうまくできていなくても数字が良くなる可能性があり、また、通常、授精しても妊娠し
ないため淘汰された牛の数は含まないので、繁殖の状態を正確に把握できているとはいえない。 それに対し妊娠率は牛群に牛が残っていても、いなくても、特
別なグループだけを見る場合でも、21日おきに計算されるためその時その時の状態が反映される。 妊娠率は自主的に授精を行わない時期
(Voluntary waiting
period)以降の牛で、ある一定期間内(21日)に妊娠可能な牛が妊娠する割合(%)で現される。通常、妊娠率が18%以上であればよい成績と言え、
25%を達成する牛群はまれである。(Dairy Herd Management,2001年5月号)
BCSの変化が受胎率に及ぼ
す影響
ほとんどすべての乳牛は分娩後数週間エネルギーバランスが負になり体重が減少することを経験する。この割合
が大きいときは繁殖成績に大きな影響を与える。分娩後から初回種付け時までのBCS減少が激しい牛ほど受胎率は低い。(Dairy Herd
Management 2001年3月号)
BCSの変化 |
+0.51 − 1.0 |
+0.01 − 0.5 |
0 |
−0.1 − −0.5 |
−0.51 − −1.0 |
-0.1以上 |
受胎率 |
56% |
50% |
46% |
43% |
37% |
29% |
定時人工授精プログラムを評
価しましょう
ホルモン処理による定時人工授精を行っていても繁殖成績が依然として改善しない人は以下の事をチェックしま
しょう。
1)ホルモン処理による定時人工授精時、人工授精士が子宮の状態が良くないと感じるとき、その感想を
良く聞き、その原因を追求すること。
2)牛群サイズが大きい場合、定時人工授精も一度に多頭数行わなくてはならない。しかし、凍結精液を一度に
融解してしまっては、融解する水の温度が下がってしまい、受胎率が低下する。
3)凍結精液は少なくとも30秒程度(2分以上はだめ)で融解しなくてはならず、一度解かしたら10分以内
に授精する。(Dairy Herd Management 2001年3月号)
MUNと繁殖成績
オハイオ州での24戸の酪農家のフィールド試験では、MUNが10mg/dl以下の牛は、
15.4mg/dl以上の牛に比べて2.4倍妊娠しやすく、MUNの平均がが10-12.7mg/dlの牛は1.4倍妊娠しやすい。理想は平均で10-
14mg/dl。牛群のローリングハードアヴェレージが10433Kg以上の牛群の平均MUNは13.6mg/dlで、7258Kg以下の牛群では
11.1mg/dlであった。しかし、それぞれの牛群の中でMUNの低い牛は高い牛に比べて2倍妊娠しやすかった。MUNが低くすることで必ずしも高い妊
娠率が得られるわけではなく、場合によっては蛋白不足の場合もある。よって、MUNは全体のマネージメントの中で関連付けて考える必要がある。 (Dairy Herd Management 2001年4月号)
授精後のオキシトシンの使用は止めましょう
授精直後のオキシトシンの使用は早期の胚死滅につながることが1999年6月号のJ.
Prostagrandinsに報告されています。オキシトシンは子宮から血中および子宮内へのプロスタグランジンの放出を促し、ひどい場合は黄体の退行
や子宮収縮によって受胎できなくなります。テネシー大学の試験では人工授精後5-8日に100IUのオキシトシンを1日3回注射した場合の受胎率は33%
で、注射しない場合場合(80%)に比べて大きく低下しました。よって、授精後少なくとも2週間はオキシトシンの注射はすべきではありません。
(Dairy Herd Management、2000年 12月号)
テイルペイントで育成牛の繁殖状況を把握する方法
Agwayの育成牧場では次のようなテイルペイントの方法で繁殖の状況を見分けています。この方X法により90%の発情発見率と50%の妊娠率を達成して
います。育成牛が10.5-11ヶ月令になったら、体重、体高が十分であるかのチェックと繁殖前の検診を行い、条件を満たしていればグリーン色のテイルペ
イントをつけ、繁殖準備ができている印とします。条件を満たしていなければブルーのテイルペイントをつけ、まだ、授精できないことを印しておきます。発情
発見され授精された牛は黄色のテイルペイントをつけられ、授精したことを示し、妊娠を確認した牛は赤のテイルペイントをつけます。すべての授精可能な育成
牛は毎朝連動スタンチョンにロックアップされ、発情サインが確認され、発情牛には授精して決まりどおりの色をテイルペイントします。(Dairy
Herd Management、2000年 12月号)
潜在性および臨床型乳房炎と繁殖障害の関係
泌乳初期の潜在性および臨床型乳房炎が初回人工授精日を遅らせ、空胎日数を増加させることがテネシー大学の研究で明らかになりました。例えば初回人工授精
の前の臨床型乳房炎の発生は平均22.6日初回人工授精日を遅らせ、初回人工授精後の繁殖適期の乳房炎の発生は授精回数を平均1.2回増加させました。し
かし、妊娠後の乳房炎の発生は影響はありませんでした。乳房炎起因菌(グラムネガティブ、ポジティブ)による差、乳房炎の臨床型、潜在性の差は認められま
せんでした。ただ、ここではその理由は明らかにされていません。(Dairy Herd Management、2000年 12月号)
発情発見の効率を上げる8つの要因
Dr.Michael
O'Connorによると牛の発情行動は次の要因によって左右されるので、これらの要因を考慮して効率的な発情発見をすると良い。(Western
DairyBusiness、2000年10月号)。
- 牛舎施設: 牛に自由なStanding,Mountingの行動を許す施設。ただ、フリーストールやルーズバーンでも発情発見のための時間
は必要。
- 牛床: 牛は土の上では100%発情行動をあらわすが、コンクリートの上では少なくなる。滑りやすい牛床は発情発現を抑制する。コンクリート
であれば溝を
切ったりして滑りにくくするか、土の上に出してやるかが必要である。牛を動かすことは新たに発情行動を発現させるきっかけも作る。
- 牛の脚、蹄の健康状態: 脚の状態が悪いと、牛は発情行動を現そうとしない。発情牛の存在:発情牛の数が増加すると発情行動が現れやすくな
る。発情中、ま
たは発情終了後の牛はそうでない期間の牛より発情行動への参加が積極的である。複数の牛への発情同期化は発情発見の確立を高める。
- 牛の飼養密度: 科学的なデータはないが、飼養密度が高すぎると発情行動は抑制されるように思う。逆に、発情でもないのにMountingす
る場合も出て
くる。発情発見の場所がパーラーの待機場だけの場合、誤認の確立は高くなる。
- 環境温度: 気温が摂氏30度を越えると乗駕行動は抑制される。しかし、他の牛を舐めたり、こすったり、あごを乗せたりする2次的な発情兆は
逆に増加す
る。
- 時間帯: カナダの研究者の報告によると発情行動(Mounting)の70%は夜7時から朝7時までの間に発見された。このことは牛は飼料
給与や搾乳な
どに邪魔されない時間帯に発情を発現しやすいとも言えるし、夜間の涼しい時間帯に発情を発現しやすいとも言える。
栄養状態: 分娩後のエネルギーバランス(その程度と時間も問題)がマイナスであれば、その後の発情の回帰は遅れる。体重減少が激しい牛はそうでない牛に
比べるとMounting行動が少ない。しかし、発情回帰した牛の場合は、BCSの減少の激しさが発情行動の強弱に及ぼす影響は少ない。
精液の注入場所を考えよう
受胎率が低下してきたら、人工授精時の精液の注入場所を再確認して見よう。子宮頚管内に注入した場合、精子の多くは後戻りし、排尿や粘液の排出とともに排
泄されてしまう。しかし、精液の注入場所が子宮体がよいか子宮角が良いかについてははっきりした結果が出ていない。確かに子宮角に注入するとそれだけ授精
場所に近くなるが、子宮を傷つけ、受胎率を低下させる可能性が高くなる。よって、多くの人工授精団体は子宮体に注入することを推奨しているが、授精時に子
宮体に到達したかどうかがわからない場合は、子宮頚管に注入するより、あと数cm子宮角に向かって挿入し注入することを推奨する。(Dairy
Herd Management 2000年 9月号)
パラレルパーラーを使用している場合の種雄牛の選び方
パラレルパーラーを使用している場合、種雄牛の選択には次の点を考慮する必要がある。1)牛はパーラーに素早く入り、素早く出なくてはならない。2)ミル
カーを装着するのに後肢の間隔にそれなりの幅が必要。3)乳頭はミルカーの脱落を最小限にするためスクエアになっていなくてはならない。これらの目的のた
めに rear leg/rear view, rear udder width そして thurl
widthが +1以上、 teat placement が+0.5 以上の種雄牛を使用するべきである。(Dairy
Herd Management 2000年 9月号)
暑熱環境下で乳牛は排卵を停止する
ミシガン州立大学の夏に行われた2軒の農家の発情同期化試験で、通常この方法で85-90%の牛が排卵するのに対し、ファンを取り付け暑熱対策を行ってい
たていた農家の排卵率は95%、妊娠率は25%であったが、ファンがなく何もしていない農家は排卵率はわずか55%で、妊娠率は0%であった。乳牛は高温
と十分でない換気などによる暑熱ストレス時、排卵を停止する可能性が高く、また、運良く妊娠した牛でも妊娠を維持するのは困難であったと報告している。
(Dairy Herd Management, August 2000)
授精時に牛を涼しくしてやると受胎率は向上する?
暑熱時に授精しなくてはいけない場合、授精時に牛を涼しい環境に置いてやることが受胎率の向上につながるかもしれない。ジョージア大学の研究者によると暑
熱環境は子宮内の温度も上昇させ,受精卵の生存に影響を与える。特に授精した日とその翌日は影響が大きい。よって、授精日の前後数日間、牛を涼しくしてや
ることで受胎率を向上させることができるかもしれない。しかし,この期間だけ受精卵を生存させることができても、その後分娩まで生存できるかどうかは保証
できない。(Dairy Herd Management, June 2000)
繁殖成績をモニターする5つの方法
繁殖成績を判断するためにいろいろな方法があるが、牛群の平均値だけでは正確に判断できない場合も多くある。たとえばその結果が数字として現れるまでに時
間がかかる場合(未経産牛
の授精が遅れた場合、それが数字となって現れるのは初産分娩月齢として現れる)や、年間の平均値を見る場合などは最近の傾向がどうなっているのかを見るこ
とができない
こと、平均値だけではばらつきがどの程度であるかもわからないことなどが挙げられる。以下にチェックすべき5つの項目について述べる。
1)必要妊娠牛数 (No. of pregnant cows needed)
最大限の生産性を上げるためには常に搾乳牛の数を適正に保つ必要がある。また多くの酪農家では淘汰する牛の数と入れ替わるための経産妊娠牛、初産牛の数が
一致している 必要がある。よって、まず、適正な乳牛数、淘汰数、そして一般的な分娩間隔(13.5ヶ月)を元にどの程度の妊娠牛が必要かを下記の方法に
より計算する。
(適正乳牛数+淘汰数)/分娩間隔 = 1ヶ月に必要な妊娠牛数
2)妊娠率 (Pregnancy rate)
妊娠率は、通常 <発情発見率 x 受胎率>を使う場合が多いが、次の計算方法がより直接的に状況を把握できる。
妊娠牛数 / 21日間に授精できる牛数 = 妊娠率
授精できる牛とは、発情が来ても授精するのを自粛する期間(VWP:Voluntary Waiting
Period、通常、分娩後45-60日)を過ぎてまだ妊娠していない牛で、授精してもまだ妊娠していないものも含む。ただし、妊娠するか、淘汰するか、
本交するかしない限り、この数からはずしてはいけない。この妊娠率の目標値は20%以上である。多くの獣医は妊娠率をモニターする際、1年を21日周期で
17区間にわけ、それぞれの区間でこの方法を使用している。こうすることによりそれぞれの時期の飼養管理が繁殖に対してどう影響しているかを知ることがで
きる(たとえば暑熱時のファンの設置効果など)。
3)発情発見率(Heat detection rate)
発情発見率と受胎率は妊娠達成に大きな影響を与える。発情発見率の計算方法は以下の通りで、目標は55-65%である。
発情を発見した牛数 / 21日間に授精できる牛数 = 発情発見率
この数字を計算するのは非常に困難であるが、簡易方法として、VWP期間を終えた牛のNO.を書き出しておき、21日間に発情を発見し、授精した牛の
No.を消していく。21日後、授精した牛の数を,元のリストの牛の数で割ったものが発情発見率となる。
4)発情発見的中率(Heat detection accuracy)
発情時には黄体ホルモン(Progesteron)が低下するために、授精時の乳中Progesteronを測定することにより、その授精が適切であった
かどうかを知ることができる。この方法では的中率で85%以上が目標である。
5)受胎率 (Conception rate)
受胎率を計算する際、妊娠した牛の数をそれらの牛に授精した回数だけで割った値を見るのではなく、妊娠していない牛に対して授精した回数も含め計算した数
字を見なくてはいけない。過去に、受胎率を50%以上にすることが究極の目的としたことがあったが、実際の目的は牛を妊娠させることなので、これだけに注
目する必要はない。受胎率の目標値は30-40%である。もし、受胎率が30%以下なら、雌牛方の生殖異常、精液側の異常、人工授精方法、発情発見的中率
に問題がないか確認する必要がる。(Dairy Herd Management, July 2000)
流産の原因
ペンシルバニア州立大学のマイケル オコーナーは次のようなことが原因としてあげている。
早期流産(6-7ヶ月より短いもの)
1.自然交配の際はビブリオ(Vibriosis)、トリコモナス(Trichomoniasis)の疑いが濃い。
2.高熱を出すレプトスピラ(Retospirosis)、ヘモフィルス(Haemophilus)。
3.IBR、BVD などのウィルス性の病気。
4.サイロのガス、ひどい硝酸中毒、青酸中毒、毒草
5.カビ毒、尿素中毒、ネオスポラ(Neospora)
6.セレニウム、ビタミンE欠乏症
分娩間近の流産の原因
1.ブルセラ(Brucellosis)、サルモネラ
2.ビタミンA、E セレニウム、沃素 の欠乏
3.IBR、BVD などのウィルス性の病気。
4.サイロのガス、ひどい硝酸中毒、青酸中毒、毒草、カビ毒
5.コルチゾン(Cortisone)、プロスタグランディン(Prostagrandin)を妊娠牛に使用
6.怪我
7.ペットが媒介するさまざまな病気
対策
1.ブルセラ、レプトスピラ、IBR、BVD、ヘモフィルス、ネオスポラに感染していないか血液検査を行う。
2.流産した胎児と胎盤を検査に持っていく。
3.放牧地や水場に硝酸の多い草が生えていないか、住環境をチェックする。
4.尿素中毒、マイコプラズマ、ビブリオ、トリコモナスに感染していないかどうか、綿棒で膣内のサンプルをとり検査する。
5.飼料中に硝酸泰窒素が多くないか、マイコトキシンがないかチェックする。
6.セレニウム、沃素、ビタミンA、Eが足りているかどうかをチェックする。
(Dairy Today July 2000)
高泌乳牛は双子が多い?
ウィスコンシン大学の繁殖生理学者、Dr.Milo Witbank によると、排卵時に高泌乳である場合、Double Ovulation(2個の卵
子が同時に排卵されること)の確立が高くなり、双子の確立も高くなると報告している。試験では平均乳量が112ポンドの乳牛でのDouble
Ovulationの割合は、平均乳量が69ポンドの乳牛での割合の約3倍であることがわかった(20% VS 7%)。ただしDouble
Ovulationが、必ず双子につながるわけではない。また、年をとった牛ほどDouble Ovulationが多いこともわかっており、このことは
高泌乳牛は淘汰されずに残り、年取っていくためとも考えられ、近年、双子の数が多いのは、高泌乳牛が増加していることに関係しているのかもしれない。
(Hoad’s Dairyman June 2000)
初産牛の種付け時期は経産牛ほど厳密でなくてもOK
経産牛での種付けの最適時期は発情開始後、4時間から14時間といわれていますが、初産牛に関しては発情開始直後から発情開始後16時間までの間ではどこ
で種をつけても差がない事がバージニアテック大のDr.Ray
Novelによって報告されました。この理由は、初産牛の生殖器が小さく、より清潔な(感染などない)環境であるため、精子が卵子に到達するまでの障害を
少なくしていると推測しています。(Dairy Herd Management 5月号)
初産牛の分娩を軽くするために、小型の他品種の種をつける事がよくありますが、Hoad's Dairyman
5月10日号でカンザス州立大のDr.
Stevenson
がいい事を言っています。通常、初産牛は牛群の1/3程度を占め、その初産牛から生まれる子牛を後継牛にしないと、更新のために外部からの導入をしなくて
はならなくなります。また、一般的に初産牛は遺伝的能力が最も優れているはずで、その遺伝的能力を無駄にする事は、改良の遅れにつながります。育成牛、初
産牛の受胎率が高い事は一般的に知られている事ですが、最も受胎しやすいこれらの牛に、価格の高い種をつけ、遺伝的能力の高い後継牛生産に役立てない手は
ない、と言っています。そう思いませんか?
繁殖を向上させる飼養管理
繁殖を向上させるための飼養管理として次のようなものがあります。
分娩後30日以内に1-2回の良い発情が来た牛の初回受胎率は高い。分娩後のエネルギー不足の程度と期間が卵巣の活動に重要な影響を与える。特に分娩後初
めの2週間のエネルギー不足の状態が重要で、9週目まで発情が回帰しなかった牛は分娩後2週間のエネルギー不足が顕著であった。無発情、または発情回帰が
遅い牛は分娩後1週目の乾物摂取量が低いだけでなく、2週目に入っても乾物摂取量はさらに低下し続けていた。
また、泌乳初期の顕著なエネルギー不足はその後の受胎率にも大きな影響を及ぼした。分娩後、BCSで0.5減少する牛は繁殖成績が良くない。また、分娩後
100日の段階でBCSが2.5より低い牛は初回授精での受胎率は低い。分娩時の理想のBCSは3.25 -
3.75でそれより高い牛は分娩後の乾物摂取量が少なく、エネルギー不足がより顕著になり、BCSを多く失う可能性が高い。初めの30日でBCS1ポイン
ト減少する牛はそうでない場合に比べて1.5倍、受胎しにくい。逆に、BCSが低すぎる牛は、エネルギーのBCSへの転換効率の高い泌乳後期にBCSを高
めるべきで、乾乳期だけでは短すぎる。乾乳期の牛は体重を減少させるべきでなく胎児の成長のために1-1.5ポンド(0.45−0.68Kg)程度の日増
体量が必要である。
分娩後の健康状態も繁殖にとって重要である。低カルシウム血症は、乳熱、起立不能を引き起こすだけでなく、子宮、ルーメン、第4胃などの平滑筋の収
縮も低下させるため、難産、胎盤停滞、ケトーシス、四変とも密接な関係にある。分娩後、低カルシウム血症の牛は6.5倍 難産になり易く、3.2倍
胎盤停滞になり易く、3.4倍 四変(左方)になり易い。
四変の牛の2/3以上が低カルシウム血症であったと言う報告もある。また、低カルシウム血症はインスリンの分泌を妨げ、細胞レベルでのグルコースの取り込
みを減少させ、体脂肪の動員を引き起こす。このことはケトーシスの危険性を高める。さらに低カルシウム血症は子宮の快復を遅らせる。USDAの
Dr.Jesse Goff
は分娩後10日たってた乳牛の10-50%は臨床症状がなくても、潜在性の低カルシウム血症(分娩後約10日時点での血中カルシウム濃度が
7.5mg/dl以下)であったと報告している。よって、分娩後の血中カルシウムレベルの低下を防ぐ事は繁殖成績を改善する意味でも重要である。
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