監査委員会の逆襲 その2

松 監 第104号           平成14年9月2日

                             

 請 求 人    沢 間 俊 太 郎 様

松戸市監査委員 川村 幸信
同       大川 一利
同       杉浦 誠一
 
 

措置請求に係る監査の結果について(通知)

 地方自治法第242条第1項の規定に基づき、平成14年7月24日付けをもって提出された「松戸市職員措置請求書(市立学校内における敦職員の駐車)」について、同条第3項の規定により監査を実施したので、その結果を次のとおり通知します。

 

1.請求の受理

 本請求は、所定の法定要件を具備しているものと認め、平成14年7月24日これを受理した。

 

2.監査の実施

(1) 請求人の証拠の提出及ぴ陳述

 請求人に対して、地方自治法(以下「法」という)第242条第5項の規定に基づき、平成14年8月22日証拠の提出及び陳述の機会を与え、これを行った。なお、その際、新たな証拠の提出はなかった。

(2) 請求の要旨

 松戸市職員措置請求書及び請求人の陳述内容から、請求の要旨を次のように解した。

ア.市立学校(小学校47校中学校21校高等学校1校の計69校)の用地は、市有地若しくは市の管理地であり、許可なく、あるいは許可があったとしても使用料を支払うことなく、第三者が継続的、定期的に使用することは、法第238条の4第4項に基づき許されないにもかかわらず、長年にわたり市立学校では教職員が許可なく通勤用車両を駐車している。

イ.この教職員の駐車は、児童・生徒の遊び場や教育施設を使用して行われており、法第238条の4第4項に規定する「その用途又は目的を妨げない限度」を超えている。

ウ.教職員が市立学校内に駐車している通勤用車両の正確な台数は不明であるが、1校20台として、69校分の概数I,400台に民間の駐車料月額5,000円(年間分としては60,000円)を乗じて得られた平成13年度分の金額84,000,000円を松戸市長及び松戸市教育委員会教育長から松戸市に返還するよう求める。

エ.今後,教職員の市立学校内における通勤用車両の駐車を禁止するか、若しくは教職員の市立学校内における通勤用車両の駐車に対して,駐車料金の徴収を行う措置を求める。

(3) 監査の対象事項

 監査対象事項は、措置請求書に記載された請求の要旨及び陳述の内容から判断して、次のとおりとした。

ア.市立学校内における教職員の駐車が許可なく行われていることが、違法・不当にあたるか否か。

イ.市立学校内における教職員の駐車が、法第238条の4第4項に規定する「その用途又は目的を妨げない限度」を超えでいるか否か。

ウ.市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車に関して、平成13年度分として教職員から駐車料金84,000,000円を徴収しなかったことは、松戸市長及び松戸市教育委員会教育長松戸市に返還する対象にあたるか否か。

エ.今後の市有地内における教職員の通勤用車両の駐車を禁止するか、教職員から駐車料金を徴収すべきか否か。

(4) 監査の方法

 松戸市教育妥員会教育長から関係書類の提出を求めるとともに、平成14年8月22日、関係者から事情を聴取し、監査を実行した。

 その関係者は、次のとおりである。

 ・教育長 生涯学習本部長 生涯学習本部審議監2名 学校教育担当部長 生涯学習本部企画管理 室長 教育総務課長 敦育施設課長 学務課長 他関係課職員4名

 

3.関係部課等の説明要旨

 市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車に関しては、松戸市教育委員会は許可をしておらず、したがって使用料の徴収も行っていない。

 教職員の駐車に関しては、教育委員会から学校施設の管理に関して委任を受けている実質的な管理者である学校長が、その裁量権限に基づき、従来から慣例的に認めているものである。

 教職員の学校敷地内における通勤用車両の駐車に関して、文部科学省及び千葉県教育委員会からの通達・指導は特になく、近隣他市における状況も松戸市におけるものと同様である。

 学校長は、教職員の駐車を認めるにあたり、校地面積、立地条件等を考慮しながら、児童・生徒の安全上問題がないこと及び学校運営上、児童・生徒の教育上支障がないことを確認している。

 ちなみに、過去10年以上、学校敷地内において教職員の通勤用車両による児童・生徒の事故は発生していない。

 学校長は、教職員の駐車を認めるにあたり、児童・生徒の安全に最大限の配慮をしながら学校運営上、児童・生徒の教育上支障が生じない場所を指定しており、学校施設本来の目的である児童・生徒の教育を妨げている事夷はない。

 請求人が提出している証拠に該当する場所は、市立寒風台小学校に隣接しているグリーンパークと呼ばれる市所有の学校関連施設であり、寒風台小学校長が実質的な管理を行っている。

 グリーンパークにはドッジボール用コートが2面設置されているが、請求人の証拠からも明らかなとおり、教職員の通勤用車両が駐車しているのはドッジボール用コート外の三角形様の残地(雑草地)であり、児童の安全及び教育上に支障は生じていない。

 また、児童・生徒の遊び場について、市立学校においては教職員の管理・監督が行き届く場所(運動場等)を指定しており、児童・生徒に対してもそのように指導し、遊具等もそれらの場所に設置されている。

 市立学校内において、教職員の通勤用車両が運動場等に駐車している例はなく、請求人の「遊び場や教育施設を侵略している」という主張は事実にあたらない。

 市立学校内に駐車している教職員の通勤用単両は、平成14年7月1日現在、小学校862中学校538高等学校55の計1,455台である。

 これらの車両が違法に駐車している事実はなく、請求人が主張する84,000,000円という金額は、その根拠が明らかでない。

 また請求人は、東京都においては費用を徴収していると主張するが、費用の徴収については各自治体の判断によるものである。

 なお、市立学校内に駐車している教職員の通勤用車両は、学校内で児童・生徒の突発的な事故が発生した場合における医療機関への搬送(平成13年度における学校内で発生した事故による医療機関への受診件数は2,190件にのぽる)や気分の悪くなった児童・生徒の家庭への送迎等に使用されているほか、進路指導や生活指導等にも使用されている。

 特に、学校週5日制の導入に伴い授業時間数の確保が重要となっており、通勤用車両の使用は教職員の出張時間の短縮にもつながっていることもあり、千葉県教育委員会も教職員の通勤用車両の出張への使用を認めているところである。

このように、教職員の通勤用車両は結果的、間接的に児童・生徒の教育向上に資しており、教育施設である学校本来の目的にかなうものである。

 

4.監査の結果

(1) 事実関係の確認

 本件請求におけるその事実を調査した結果は、次のとおりである。

 平成14年7月1日現在、教職員が通勤に利用している車両台数は、小学校887台、中学校538台、高等学校55台の計1,480台ある。

 これらの教職員の通勤用車両は、一部の例外(小学校3校において、学校敷地外に教職員が民有地を借りて車両を駐車させているもの。25台)を除き、すべての市立学校において校内に駐車している。(校内駐車1,455台

ア.監査対象事項アについて

 市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車に関して,松戸市教育財産管理規則第14条に基づく教育財産の目的外使用許可申請はなされていなかった。

 教職員の通勤用車両の利用に関して、学校の管理責任者である学校長はその状況を把握しており、校内における駐車についても了承していた。

イ.監査対象事項について

 夏季休業中のため,市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車状況を現認することはできなかった。

 そのため,教育委員会から各学校毎に校内における教職員の通勤用車両の駐車位置を示した図面等を徴して調査を実施した。

 調査の結果,市立学校69校のすべてにおいて、教職員の通勤用車両は児童・生徒の安全及び授業(教育活動)に支障をきたさない位置に駐車していることを確認した。

ウ.監査対象事項について

 市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車に関して、松戸市が教職員から駐車料金を徴収している事実は認められなかった。

(2) 監査妥員の判断

 請求の要旨、事実証明書及び請求人の陳述並びに関係課の説明要旨、関係書類等を総合的に検討した結果、次のとおり判断した。

 地方教育行政の組織及び運営に関する法律第28条(教育財産の管理等)に基づき、教育委員会は地方公共団体の長の総括の下に教育財産の管理を行っているところである。

 また教育委員会は、同法第23条(教育委員会の職務権限)に基づき学校その他の教育機関の管理を行っているが、同法第26条(事務の委任等)により、教育委員会はその権限に属する事務の一部を教育長に、また教育長は、教育委員会から委任された事務その他その権限に属する事務の一部を、教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の職員に委任することができるとされている。

 これに基づき学校長は、法令で規定されているもののほかに、教育黍員会から授権された職務と権限を所持し、松戸市立小学校及び中学校管理規則等に沿って学校管理にあたっている。

 学校長が行う学校の管理とは、学校を維持し、かつ、学校の目的を達成するための一切の行為をさすが、具体的には、学校の人的要素である教職員に対する人的管理、学校の物的要素である施設・設備等に対する物的管理、安全確保等を含めた学校の活動に対する運営管理の三つに分けられる。

 しかし学校長は、学校管理にあたっては、これら三つの管理を個々に行うのではなく、それぞれの状況に配慮し哉量を加えながら総合的に運営管理を行っている。

 ちなみに教職員の駐車に関しては、学校施設の管理という面だけではなく、所属職員の服務監督面における許可・承認という要素も含まれていると考えられる。

 また、学校長は、学校教育法第28条(校長・教頭・教諭その他の職員)第3項に基づき、学校管理に一般的・包括的に職務権限を有し、広範な裁量権を所持しているところであり、学校施設の目的外使用の許可にあたっては、その管理を委ねられた学校長が、児童・生徒の安全上、教育上支障がないかどうかを判断した上で個々に決定すべき事柄であると考えられる。

 以下、監査対象とした事項について判断を示せば、次のとおりである。

ア.監査対象事項及びについて

 請求人は、市立学校内における教職員の通勤用車両が許可なく駐車しており違法・不当であること、また、市立学校内における敦職員の通勤用車両の駐車が法第238条の4第4項に規定する行政財産の目的外使用にあたることを認めるものの、「その用途又は目的を妨げない限度」を超えていると主張しているが、学校施設の確保に関する政令第3条(学校施設の使用禁止)は、「学校施設は、学校が学校教育の目的に使用する場合を除く外、使用してはならない。但し、左の各号のーに該当する場合はこの限りでない」と規定し、同条第1項第2号で「管握者又は学校の長の同意を得て使用する場合」を掲げており、市立学校においては、各学校長はその所属教職員の通勤手段・経路等を把握し、校内における教職員の通勤用車両の駐車についても了承しているところである。

 教育財産の目的外使用については、松戸市教育財産管理規則第14条(教育財産の目的外使用許可申請)及び同第15条(教育財産の目的外使用許可)で規定されているところであるが、市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車については、請求人の主張するようにこれらに規定する使用許可申請はなされていない。

 しかしながら、教育財産のうち学校施設の目的外使用許可申請等については、同規則第16条(学校施設の目的外使用許可申請等)により、前2条の規定にかかわらず別に定めると規定されており、また前述したごとく、学校長が学校教育法第28条(校長・教頭・教諭その他の職員) 第3項に基づき一般的、包括的に学校運営に必要な事務を掌握し、処理する権限及び責任を有しており、学校長には学校管理上広範な裁量権が委ねられていることを考慮すると、学校施設の目的外使用の許可を得ていないということはできない

 以上のことから、請求人の「教職員が許可なく駐車している」という主張は理由がないものと判断する。

 また、夏季休業中のため、市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車状況を現認することはできなかったが、教育委員会から各学校毎に校内における教職員の通勤用車両の駐車位置を示した図面を徴して調査を実施し、市立学校69校のすべてにおいて、教職員の通勤用車両が児童・生徒の安全及び授業(教育活動)に支障をきたさない位置に駐単していることを確認した。

 請求人は、 教職員の通勤用車両が「教育施設を侵略している」と主張するが、請求人が特に言及している市立寒風台小学校においては、請求人の提出した証拠からはその事実は認められない。

 また、請求人は「児童・生徒の遊び場を侵略しでいる」とも主張しているが、市立学校において「遊び場」は、児童・生徒の安全性を確保するため、学校内で教職員が管理・監督できる範囲で学校長が運動場等を指定しており、遊具等もそれらの場所に設置されているところである。

 請求人が言及している市立寒風台小学校においては、防災用受水槽設置工事に伴い、学校長が管理している学校関連施設であるグリーンバークに教職員の通勤用車両の駐車場所を変更したものであるが、その駐車場所は、児童が使用するドッジボール用コート(2面)以外の残地である雑草地であり、請求人の提出した証拠からは請求人の主張する「侵略している」事実は認められない。

 以上のことから、請求人の「児童・生徒の遊び場や教育旋設を侵略している」という主張は理由がないものと判断する。

イ.監査対象事項について

 教職員の市立学校内における通勤用車両の駐車に関して、平成13年度分として84,000,000円松戸市長及び松戸市教育委員会教育長松戸市に返還せよという請求人の主張については、法第225条(使用料)において行政財産の目的外使用に関して使用料を徴収することができると規定されているが、その費用の徴収については財産管理者の裁量に委ねられており、費用を徴収しないことが直ちに違法・不当であるとは解せない。

 また、法第242条(住民監査請求)第1項に規定する「財産の管理」等の財務会計上の行為については、「地方自治体の財産の管理行為のすべてが財務会計行為に該当するものではなく、その行為のうちで、当該財産としての財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財産管理行為がこれに該当すべきものである」と判示(最高裁第一小法廷平成2年4月12日判決)されており、行政財産の目的外使用が形式上、その本来の行政目的を直接達成するものとされていないことをもって、直ちにそれが財産の運用とされるものとはいえず、通常、それは一定の行政目的の実現のための公物管理的側面と財産管理的側面の二つを併せ持つと考えられる。

 このため、この二つの側面を検討することが必要であり、本件市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車については、その具体的な利用状況等を考慮すると、学校施設の管理者がその利用形態を公物の管理として定めたとの側面が大きく、財産の運用としての財産管理面的側面は希薄であるといえる。

 したがって、本件は学校施設の管理という行政目的を主眼としており、財産管理行為とはいい難いものである。

 すなわち、市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車については公物管理上の問題であり、住民監査請求の対象とは認め難いことから、松戸市長及び松戸市教育黍員会教育長が松戸市に84,000,000円を返還せよという請求人の主張には理由がないものと判断する。

  なお、請求人の主張する84,000,000円という金額はその根拠が示されていない推察にすぎず、到底これを採用することはできない。

ウ.監査対象事項について

 において上述したとおり、市立学校内における教職員の通勤用車両の駐車については公物管理上の問題であり、請求人の主張には理由がないものと判断する。

 なお、教職員の通勤用車両を含めた適切な学校管理のあり方については、学校施設の財産管理者である教育委員会と実質的な施設管理者である学校長が、これまでと同様、児童・生徒等の安全確保はもとより、教育活動に支障を生じさせることのないよう留意の上、自ら対処していくべきものである。 以上のとおり、いずれも請求人の主張には理由がないことから、松戸市長及び松戸市教育委員会教育長に対し損害賠償を求める理由もないものと認め、これを棄却する。

 
 
 


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