監査委員会の逆襲 その1
松 監 第103号 平成14年9月2日
請 求 人 沢 間 俊 太 郎 様
松戸市監査委員 川村 幸信
同 大川 一利
同 杉浦 誠一
措置請求に係る監査の結果について(通知)
地方自治法第242条第1項の規定に基づき、平成14年7月24日付けをもって提出された「松戸市職員措置請求書(健康福祉会館関係)」について、同条第3項の規定により監査を実施したので、その結果を次のとおり通知します。
1.請求の受理
本請求は、所定の法定要件を具備しているものと認め、平成14年7月24日、これを受理した。
2.監査委員の除斥
監査委員中西 務は、本監査請求の対象となっている松戸市健康福祉会館(以下「当該施設」という)の建築物賃貸借契約(以下「当該契約」という)に係る業務にたずさわる職にあったので、地方自治法(以下「法」という)第199条の2(利害関係事件の監査禁止)の規定により除斥した。
3.監査の実施
(1) 請求人の証拠の提出及び陳述
請求人に対して、法第242条第5項の規定に基づき、平成14年8月22日証拠の提出及び陳述の機会を与え、これを行った。
なお、平成14年8月12日に新たな証拠が提出された。
(2) 請求の要旨
松戸市職員措置請求書及び請求人の陳述内容から、請求の要旨を次のように解した。
ア.松戸市は、平成10年3月31日、土屋亮平氏(以下「甲」という)との間に当該契約を締結したが、契約書第6条(賃料)と第11条(費用負担区分)との関係から、違法・不当な契約の締結である。
イ.当該契約に基づいて、支出された平成13年度分の基本賃料の一部、火災・設備機械保険料4,659,000円、修繕費24,704,000円及び固定資産税・都市計画税(以下「固定資産税等」という)19,673,976円、合計49,036,976円を当該契約書第6条(賃料)に定める基本賃料の一部として、貸主である甲に支払っているが、いずれも借主である市が支払う必要のない経費であり、これらの総額49,036,976円を松戸市長から松戸市に返還するよう求める。
ウ.当該契約自体か不透明かつ不自然であるので、新たなる契約に変更するよう厳正な措置を求める。
(3) 監査の対象事項
監査の対象事項は、措置請求書に記載された請求の要旨及び陳述の内容から判断して、次のとおりとした。
平成13年度に提出した当該施設の賃貸借料の一部、火災・設備機械保険料、修繕費及び固定資産税等の経費は、違法又は不当な公金の支出にあたるか否か。
なお、本件措置請求のうち、(2) 請求の要旨「ア」及び「ウ」の部分については、次の理由により却下する。
請求の要旨「ア」及び「ウ」について
請求人は、請求の要旨「ア」において当該契約の第6条と第11条の関係から違法・不当な契約の締結であること、また、請求の要旨「ウ」において当該契約自体が不透明かつ不自然であるので、新たなる契約に変更するよう厳正な措置を求めると主張しているが、当該契約は、平成10年3月31日に契約締結を行ったものであり、法第242条(住民監査請求)第2項において、監査請求は「当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と規定されている。
しかるに、請求人が当該契約に関して必要な措置を講すべきことを監査請求したのは、平成14年7月24日であり、請求の要旨「ア」及び「ウ」は、法第242条第2項の規定に基づく監査請求期間を経過している。
また、同項ただし書きの正当な理由にあたるものもない。
(4) 監査の方法
松戸市長から関係書類の提出を求めるとともに、平成14年22日、関係者から事情を聴取し、監査を実施した。
その関係者は、次のとおりである。
・健康福祉本部長 児童家庭担当部長 健康福祉本部企画管理室長 健康福祉会館次長
前民生局社会福祉部長 前民生局社会福祉部障害福祉センター開設室長 他関係職員2センター関係部課等の説明要旨
(1) 当該施設建設の経緯について
当該施設は20年問の賃貸借契約を設定し、松戸市の福祉施設として長期に使用する借上方式を採用することで、双方合意により建設された施設である。
また、当該契約において損害保険料、修繕費及び固定資産税等は、当該契約書第11条(費用負担区分)の規定に基づき貸主側の負担としたものである。
当該施設建設の経過については、次のとおりである。
ア.当該施設は、平成6年3月に策定された松戸市第5次5か年計画(平成6年度から平成10年度)に心身障害児総合通園センター建設計画として盛り込まれた。
イ.平成8年9月議会に、療育センター設置などを内容とする請願第5号「年期療育の充実に対する請願」が教育民生常任委員会に付託され、審議の結果全会一致で採択された。
ウ.同年11月22日、教育民生常任委員会協議会において(仮称)保健福祉センターの設置(案)について説明をした。
工.同年12月議会で一般会計補正予算(第3回)に(仮称)保健・福祉セ ンター賃借料とし て、限度額5,227,200,000円以内に消費税及び地方消費税を加えた額の範囲内、 期間は平成8年度から平成29年度の債務負担行為の設定についてを上程し、原案どおり可決された。
オ.平成10年3月31日、松戸市と甲との間で当該契約を締結した。
力.同年4月1日、社会福祉実現への拠卓のーつとして、こども発達セン夕一、障害者福祉センター及び常盤平保健センターの複合施設「松戸市健康福祉会館」を開設した。
(2) 賃料の設定について
貸主と借主との賃貸借契約は、相互に対等の立場に立った民法上の契約であること及び当該施設が市の要望に基づく保健・福祉施設であり、他に用途を変更し難く、民間では流通性の低い公共施設であることなどから、当該施設を長期間、安定的に使用するという基本的認識のうえで、賃料を設定したものである。
賃料の算定にあたり、経費として減価償却費、維持管理費、公租公課、損害保険料、貸倒れ準備費、空室等による損失相当額等を賃料のなかに算入することが一般的であり、また、不動産鑑定評価基準等にも示されているところである。
このうち、固定資産税等については、定額賃料より分離し、加算方式としたものである。
以上のことから、請求人が主張する諸経費は「いずれも借主が支払う必要のない経費」にはあたらず、平成13年度に支出した賃料は妥当であると考える。
5.監査の結果
(1) 事実関係の確認
本件請求におけるその事実を調査した結果は、次のとおりである。
ア.当該契約における賃料について
当該施設は施設の性格上、半永久的な施設となることから、民法第604条(賃借権の存続期間)の規定に基づき、最長期間の20年を設定したものである。
当該契約における賃料は、当該契約書第6条(賃料)において規定されており、賃料の月額は固定賃料として、投資額の償還費、火災・設備機械保険料、修繕(引当)費等の諸経費を含め、算出したものが19,516,000円である。
これに、土地及び建物に係る当該年度分の固定資産税等の課税額の12分の1の額との合算額が月額の賃料となる。
イ.当該契約に係る平成13年度の予算執行について
当該契約に係る平成13年度の予算執行については、松戸市財務規則第63条(支出負担 行為の決議)及び同規則第64条(支出負担行為として整理する時期等)の規定に基づき、 支出負担行為決議票が平成13年4月1日に年額266,446,668円で起票され、決議されている。
また、同規則第68条(謀出命令)及び同規則第69条(請求書による原則) の規定に基づき、貸主の請求により毎月支払われていた。
(2) 監査委員の判断
請求の要旨、事実証明書及び請求人の陳述並びに関係各課の説明要旨、関係書類等を総合的に検討した結果、次のとおり判断した。
請求人の主張は、平成10年3月31日に締結された当該契約書第6条(賃料)において、基本賃料の一部として定められているなかに、借主が支払う必要のない経費49,036,976円があり、これは、第11条(費用負担区分)の規定による、貸主が負担する費用として公租公課、各種保険料及び修繕費となっている契約条文上の見方をもとにした主張であり、この契約規定内容を根拠に、平成13年度分として支払われた49,036,976円の返還を求めるというものでおる。
これを言い換えれば、第11条(費用負担区分)のなかに貸主が負担する費用として、建築物及びその敷地に課される公租公課、各種保険料及び修繕費が定められているにもかかわらず、第6条(賃料)の賃料年額のなかに、基本的な賃料の一部として修繕費24,704,000円、火災保険料として4,659,000円と固定資産税等19,673,976円、総額49,036,976円を借主が支払っており、これらは、いずれも借り主が支払う必要のない経費であることから返還を求める、というものである。
ア.第11条(費用負担区分)と第6条(賃料)の基本的な見方について
当該契約書第11条(費用負担区分)は、当該施設に係る種々の費用の負担が、貸主側に帰属すべきものか、あるいは借主側に帰属すべきものかを明確に区分したものであり、
(ア) 甲が負担する費用
@建築物及びその敷地に課される公租公課
A施設賠償責任保険料
B建築物に係る火災保険料
C甲の所有に係る設備機械保険料
D自然消耗による建物の躯オ・設備の修繕費
D甲の責に帰すべき設備の修繕費
(イ) 松戸市か負担する費用
@電気、上下水道、ガス等料金
A設備の保守点検費用(法令で定められたものを含む)
B松戸市の希望により取り替えた設備機器に関する費用
と、厳正かつ明確に区分した規定である。
この費用負担区分を基本にして、第6条(賃料)において、借主が支払うべき賃料の額を定めたものであり、その賃料積算のなかに、諸経費として施設に係る損害保険料、修繕費及び固定資産税等が算入されているものである。
請求人は、費用負担区分を定めた第11条の条文と賃料の額を定めた第6条の条文とを同一視するなど、条文の見方を基本的に見誤っており、いずれも借主が支払う必要のない経費との主張は失当である。
したがって、違法性もなく、適正に締結された当該契約書第11条(費用負担区分)において、明確に区分された各種保険料、修繕費及び公租公課を、貸主側が負担する費用とする ことは、妥当であると判断する。
イ.当該契約における諸経費の適正性について
建築物の賃貸借契約における賃料の算定方法については、学説等においても種々の方法があり、唯一絶対の方法は存しないといわれているが、いずれの方法を採用した場合においても損害保険料、修繕費及び固定資産税等の諸経費は、賃料のなかに算入されていることが一般的であり、通説となっている。
松戸市のような地方公共団体と類似したものとして、公団 住宅及び公営住宅等があるが、このうち、公団住宅の賃料については、当時の住宅・都市整備公団法施行規則第4条(家賃の決定)において公団が賃貸すろ住宅の家賃は、賃貸住宅の建設に要する費用の償却相当額のほかに、修繕費、管理事務費、地代に相当する額、損害保 険料、貸倒れ及ぴ空室による損失を補てんするための引当金並びに公租公課を加ええたものの月割額を基準とする旨の規定がなされていた。
また、公営住宅にあっては、公営住宅法施 行令第3条(近傍同種の家賃の算定方法)においても、公営住宅の家賃のなかに公団住宅と同様、損害保険料、修繕費及び公租公課等が含まれている。
さらに、民間における住宅家賃の算定にあたっては、不動産鑑定評価基準に従って行うことが適当であろとされているが、この評価基準のなか必要諸経費として、公団住宅・公営住宅同様、損害保険料、修繕費及び公租公課等が含まれている。
当該契約においては、損害保険料及び修繕費を定額とし、固定資産税等は加算方式とした諸経費として算定したものであり、この諸経費は賃料の一部として算入されているものである。
また、諸経費の負担区分の決定にあたっては、契約者双方の合意に基づき決定されるべきものであり、当該契約に基づく損害保険料、修繕費及び固定資産税等の諸経費を包含した賃料については、債務負担行為として議会の議決を得るなど、適正な事務処理によりなされたものである。
したがって、当該契約における諸経費は適正であると判断する。
ウ.平成13年度の予算執行の適正性について
平成13年度に支出した賃料の一部である火災・設備機械保険料4,659,000円、修繕費24,704,000円及び固定資産税等
19,673,976円、計49,036,976円は、前述したとおり、適正な手続きにより締結された契約に基づき、支払いの義務が生じているものである。
平成13年度の当該諸経費の支払いは、松戸市財務規則第63条(支出負担行為の決議)及び第64条(支出負担行為として整理する時期等)の規定に基づき、平成13年4月1日に年間一括した支出負担行為が決議されておおり、同規則第68条(支出命令)及び第69条(請求書による原則)の規定に基づき、貸主の請求により毎月支払いが行われたものであり、財務会計における事務手続上も適正であったと認められる。
したがって、平成13年度に支払った諸経費は、適法かつ正当に締結された当該契約書に基づき、適正に支払われたものであることから、違法・不当な公金の支出にはあたらない。
以上、それぞれ見解を述べてきたところであるが、請求人の主張にはいずれも理由がないことから、市長に対し賃料の返還を求める理由がないものと認め、これを棄却する。
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