草プロエッセイ

 

丸岡俊行

エッセイ集

渡辺淳一の部屋

丸岡俊行

 渡辺淳一オフィシャルブログ http://watanabe-junichi.net/
 読むと安らぐ。文章がいい。
 最近読んでいるのは渡辺淳一です。何故かと言うと、体質と言うか、文章から感じられる人間性が合うような気がするからです。
 渡辺淳一をずっと読んでいると、滓のようなものが頭にたまってきます。何故だろうと思うのですが、多分、文体のせいだと気がつきます。だらだらと続き、しまりがない感じが次第に膜のように頭を覆うのです。
 とやかく言っても、渡辺淳一の文章が好きなのはたしかで、その気持がなければ、あんなに長い小説やエッセイなどを根気良く読み進めることなど出来るはずがなく、またこうした文章を書くこともない。ただ、ときどき、文章が理屈っぽくなるときがあり、そこは好みではない。その意味では、川端と違う。
 どれが好きかと言われても困る。ただし、エッセイも好きだが、やはり小説に尽きる。数が多いので、どれか一つを選ぶのは難しいが、中でも、たとえば、「無影燈」が印象深い。小説として形がきっちりして、人物の彫りが鮮やかで、ストーリーが巧みである。考えてみれば、どこにでもありそうな小さな病院の中で物語が進行しているだけなのに、引き込まれる。
 思えば、渡辺の小説は、過不足のない簡潔な文章が特徴だが、同時に、派手なストーリー展開をするより、あまり多くない登場人物の人間性を深く掘り下げていくことが多い。「無影燈」も例外ではない。しかも、この作品の場合、話の展開、人物設定、構成、とくに直江の謎が最後になって明かされる推理小説的構成により、より劇的な効果を上げている。

 

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