ＢＡＣＫ

　最近、英国の研究者を中心に、このエキノマスタスとアンシストロカクタスを、あわせてスクレロカクタス属に併合する考え方があります。南米のアンデス西側のカクタスをあらかたエリオシケに統合することが妥当なら、この「スクレロ大統合」もあながち無茶とは言えないかも知れません。しかし、アメリカサボテン界の権威 Anderson や、ドイツのスクレロカクタス研究家 Hochstatter らは、エキノマスタスをいぜん独立属と見なしています。これらのＤＮＡ解析を行った Porter も、スクレロとエキノマスタスは近い関係にあるとしながらも、なお隔たりがあることを指摘しています。
　
　エキノマスタス属はアメリカのカリフォルニア、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサスの各州からメキシコ北部のソノラ、コワウィラ、チワワ、ドゥランゴ州等まで、広範囲に分布しています。自生地の大半は乾燥の甚だしいガレ場などで、このため暑さ寒さには強いが、加湿には弱い。栽培植物としては、英冠、桜丸など特にアメリカ産のものは古くから「難物」の代名詞とされてきました。長年サボテン栽培のエキスパートと呼ばれるひとたちが挑戦しては破れてきた名品でもあります。しかし、これらは栽培にクセはあるものの、現代の栽培知識、技術をもってすれば実生から正木で開花株まで育てることが可能です。ポイントは根がたいへん脆く過湿にするとすぐ傷むため、休眠成長のサイクルをつかんで水を辛めに与える、という点につきると思います。乾燥させておけば暑さ寒さには極く強いものです。よく、高山性なので夏の暑さに負ける、などといいますが、自生地は夏場摂氏４０度まで達する場所です。また冬場は氷点下にさがることもあります。
　私の栽培では、実生５年目以降の株は年に４、５回しか灌水しません。与えるのは２月〜５月に３回くらい、梅雨を休んで７，８月にさらに１，２回といったところ。あとは全休。しかし一度の灌水で吸水成長し、花もつけます。ただし実生の小苗は上記の２〜４倍灌水します。桜丸など、水をやるとよく育つのですが、ふと気づくと根腐れが上にあがり、株元の細い軸の部分がやられるとおしまいです。あれ、動かないな、と思って、ポキっと折ってみると、軸のなかが枯れている。これは根腐れがあがったものです。やっと開花サイズになった頃の苗を、過灌水でよく枯らします。クセがあるのは英冠、桜丸（英栄）、紅廉玉などのアメリカ産で、メキシコ産のラウイや白栄丸などは、根も比較的丈夫でさほど難しいものではありません。
　エキノマスタスは小型ですが、刺・花ともに美しく、それなりの栽培技術も求められる、つくって面白い植物だと思います。ここに掲載したものは大半私が実生したもので、５〜１０年生くらい。比較的開花も早いのぜひ種を蒔いてみてください。

　もうひとつ、英丸（dasyacantus ssp. dasyacanthus)と、桜丸（dasyacanthus ssp. intertexta) は、よく混同されています。一応、産地ごとに区分けされており、桜丸と呼ばれるもののコロニーはテキサス南西部に集まっており、それより西のグループは英丸、というのがざっとした分け方。形態的な差は、英丸が荒く刺を放射するのに対し、桜丸は球体に沿うような刺で、あまり突出しません。しかし、中間的な個体も散見され、両者の差は園芸鑑賞上の区別程度のもののようです。現在では、英丸に統一する考え方が主流です。しかし「桜丸」と呼びたくなるのは、淡い桜色の花弁にピンクの柱頭が生える花姿にとてもフィットするからでしょうか。たしかに、この植物の上品で微妙な色づかいの花はサボテン界でも屈指の美花といって過言ではありません。

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