<属別解説書系>
1. The Genus Sclerocactus
2. The Genus Pediocactus
3. To the Habitats of Pediocactus and Sclerocactus
/ Fritz Hochstatter
1〜3まで、すべて”フリッツ・ホッホステッター”と云う舌をかみそうな名前のドイツ人の著書。彼はアマチュア(今は業者も運営)ですが、のべ数百日の現地踏査を行い多くの新種も記載しています。ペディオカクタス・スクレロカクタス(最近はユッカも)に関しては、もっとも多くの植物を自生地に訪ねている研究者と云えるでしょう。植物分類学といった学問は、薬用植物などをのぞけば直接の産業的価値が乏しいため、研究者の数(予算)がその膨大な多様性に追いつかないのが現状です。そうした意味でも、アマチュアの活躍が大事な意味を持ちます。事実、後述するカッターマンやハマーなど、サボテン多肉植物研究の第一人者の多くが”アマチュア”出身。趣味が高ずれば学問になるのも必然で、そうした意味での”トップアマ”が日本からも沢山出てくるといいと思うのですが・・。
さて、著書の1と2は、それぞれ北米難物サボテンのスクレロカクタス属とペディオカクタス属を専門に解説した書で、数多くの自生地写真とともに、それぞれの特色、自生地、生育環境、栽培法などが詳述されています。飛鳥のナバホア属や月の童子のトウメヤ属は、2のペディオの巻に包摂されています。もちろん、私も繰り返し熟読している本で、難物の魅力にのめり込むきっかけでもありました。なにしろ、こうした北米難物を専門に解説した本は現在ほかにはなく、しかも著者本人が発見した新種もあわせて記載されており、このグループに取り組むひとには必携と云えます。3は、スクレロ・ペディオの自生地を巡る紀行もので、とは云ってもたくさんの開花写真があり1と2の2冊買うのもちょっと、と云う人向けに両属あわせた図鑑としても使えます。また、自生地探訪のガイド書にもなります。いずれもrainbow gardenや、著者が運営するnabajo gardenで購入できますが、難点は少し高価なこと。多くの部数が出るものではないので仕方ないかも知れませんが・・。なんにしても、北米難物サボを扱った専門書の決定版であることは確かです。
Eriosyce / Fred Kattermann
今度は南米チリのサボテンを扱った本の決定版。著者のカッターマンはこちらもアメリカ在住のアマチュア研究家ですが、知られているほぼすべての自生地を踏破し、CITESさえ彼の分類に準拠していると云う、文字通りの権威です。彼の分類の最大の特色は、エリオシケ属を広くとらえることで、そのなかにネオポルテリア、ネオチレニア、ホリドカクタス、ヒルホカクタス、イスラヤなどの各属を取り込み、コピアポア属をのぞくほとんどすべてのチリ産玉型サボテンを含む大家族として再定義したことです。また既存の多くの記載品種をシノニムとして統合して、種の数を減らすという、いまのサボテン分類の流れにのっている(流れをつくった)人でもあります。私など、その”大括り”には少々違和感もあるのですが、特徴がつかみづらく個体差が大きいため滅多やたらと名前がつけられて混乱を呈しているこれらのサボテンを理解するには、彼の整理統廃合は大変有効だったと思います。結果、この本Eriosyceはチリ産サボテンのバイブルとして扱われていて、いわゆる南米モノが好きな人は絶対に手にするべき本でしょう。近く続編が出ると云われ続けていますが、いまだに刊行の知らせはありません。この本で云う”広義のエリオシケ”に含まれるネオチレニア、ヒルホカクタスといったサボテンは、国内ではあまり栽培数が多くないようです。”難物”的側面もあり、とっつきにくいのは確かですが、形、肌色、刺姿、そして花、どれをとっても珍奇でインパクトのある植物揃いです。この本は、そんな彼らの魅力を数多くの写真で雄弁に伝えてくれます。
The Cactus File Handbook 4 "Copiapoa" / Graham Charles
The Cactus File Handbook 6 "Mammillaria / John Pilbeam
いずれも、イギリスのサボテン専門雑誌の別冊として刊行されているもので、シリーズには他にギムノやテロなど色々とありますが、すでに入手が難しいものも多いようです。
まず、一冊目のCopiapoaですが、総ページ80ほどの本ながら中身はなかなか濃くて、現状のコピアポア全種に及ぶカラー写真つきの解説があります。自生地データや栽培法についても種ごとに書かれていて親切です。分類については先のエリオシケ本同様、かなり統廃合がすすめられていますが、この属も同じ場所に生えているモノに名前が色々ついているようなところがあるので、宜なるかな。巻末にKKやFKなどのフィールドデータと学名の参照表がついており、これは自分のところにある番号だけのサボテンの正体を調べるのには大変便利です。著者はやはりアマチュア研究家ですが、このひともかなり自生地を歩いており、写真の多くがコピの故郷アタカマ沙漠でのもの。趣味家的側面も強い人のようで栽培法についてもかなり詳しい記述があります。厚い本ではないですが、良い本です。
同じシリーズのもう一冊、Mammillaria。こちらは多くのサボテン本をすでに書いている著名な営業家が書いたもの。ゆえにやはり栽培法が詳しいです。前項とは対照的に300ページを超える大部で、およそ知られているマミラリアすべてをカラー写真つきで網羅する形になっています。いかにマミラリアが大家族なのかがよくわかります。同時にサボテン全般を網羅的に扱った図鑑類では、マミを語るには不十分過ぎることも。つまり、大半のサボテン趣味家が、実はマミの全貌を知らない、ということですね。同様の本では、かつてClaigと云う人が書いたThe Mammillaria handbookと云う書があったのですが、こちらは写真がすべてモノクロでした。このMammillariaは、今マミを集めようという人には必須アイテムで、写真や記述のボリューム感からいっても満足度が高い本だと思います。
1. Copiapoa in their environment / Rudolf Schulz and Attila Kapitany
2. Uebelmannnia in their environment / Rudolf Schulz and Marlon Machado
どちらもカラー写真が満載された大判の豪華な本で、主著者のシュルツはオーストラリアでナーセリーを経営している人物。タイトルどおり、ほぼ全篇自生地での生態に焦点を絞った本で、サボテンの野生を堪能できる素晴らしい本です。rainbow
gardenのほか、著者が直販もしているようで、ネットで検索すればヒットすると思います。
1は、コピアポア属の故郷でもあるアタカマ沙漠の自然から話が始まります。年間降水量1ミリ以下の極乾燥地で彼らはどうやって生き抜いているのか、いったい彼らはどれほどの歳月を生きるのか、そしてどう死んでゆくのか。また、しばしば語られる、「海から発生する霧」と彼らの生態はどう関係しているのか・・等々、自生地に長期間滞在しての観察と実験、数年に及ぶ定点観測などでコピアポアの神話に迫ります。全頁カラー印刷で、美しい写真のほか自生地の詳細なカラー地図も掲載されており、アタカマ探訪のガイドにもなるでしょう。とにかく、素晴らしい黒王丸はじめ、クラクラするような迫力ある植物がこれでもかと登場します。少々値は張りますが、まさに沙漠の浪漫を形にした内容。
2は、うってかわってブラジルの多雨荒原に生きるユーベルマニアがテーマ。彼らの生きるディアマンティナ台地は、同じサボテンのディスコカクタスのほか、多数のブロメリア、蘭、食虫植物類やベロジアなど、珍奇な植物が多数生育する植物愛好家垂涎の地。あたかもギアナ高地に迷い込んだかと思うような不思議な姿の植物ばかりの植生を描き出しながら、南米サボテンのスター、ユーベルマニアの生態を探ります。雪のように白い石英砂に埋もれながら幼少期を生きる彼ら。頻発する野火を生き延びる彼ら。温室のなかでは知ることの出来ないユーベルマニアたちの興味深い姿です。こちらもカラー写真多数で、ユーベル図鑑としても完璧です。
"Dumpling and his wife" New View of the genus Conophytum
/ Steven Hammer
ここで紹介するまでもなく既に有名すぎる本ですが、「好きなだけのアマチュア」がここまでやれる、という好例として。この本の著者も、元々はピアニストでした。しかし窓辺での栽培からはじまり、やがてメセン種子の世界的ディストリビューター”メサ・ガーデン”で働きながら、たびたび南アフリカの自生地を旅するように。今ではコノフィツムについては文字通り世界でいちばんの研究者です。彼には’93年の前著The Genus Conophytumもありますが、それからわずか10年足らずで、今度は400頁近いまさに”コノフィツム大全”を出版した訳です。彼自身が最近発見した種も含め、既存のすべての種を、彼のフィールド調査や栽培研究をもとに再分類、すべてカラー写真つきで詳述しています。もちろん、各々の種についての栽培ヒントもたくさんあります。彼はコノフィツム好きらしく、植物の個体差(顔の違い)にもとても敏感で、日本人同様、美しい個体を選別、系統繁殖するようなこともしています。そんなこともあって、掲載されている写真はどれも美しく、特徴の明快で魅力的な個体ばかり。葡萄色のラツムや紋様美麗な夜咲き種、そして奇天烈な交配種まで、目の肥えた日本のメセンファンから見ても、涎の出るような色鮮やかな”特選株”がズラリです。最高最強のコノフィツム図鑑で、これを手にすると、コノマニアの道に引き込まれること間違いありません。
Haworthia revisited A revision of the genus / Bruce Bayer
こちらも同じく顔違いが人気を集めるハウォルチア属の専門書。前項のハマーの知己でもあるベイヤーによるもので、彼自身、70年代80年代にそれぞれ本を出しており、’99年に出たこれが今のところ最新版。全編カラー写真で、自生地写真もふんだんに盛り込まれた見て楽しいハウォルチア図鑑です。著者はこの本でかなり斬新な分類を打ち出しており、日本では長年親しまれてきたコレクタやピクタと云った名前が消えてしまっています(別の名前に)。これまでの経緯からするとかなり強引?と思われる種の並べ替えもされており、特に日本ではあまり好意的に受け止められていないようです。しかし、ハウォルチアのように種から種へ、コロニーからコロニーへと特徴が連続する植物にあっては、机上で限られた標本をもとに「葉裏にノギがあるから○△」式の分類をすること自体あまりにも不確かです。塩基配列の徹底解析でも終わるまでの間は、まずはコロニー単位で植物を見ていけばいいのかとも思います。そうした意味では、この本に掲載された様々な顔をしたハウォルチアたちは、それぞれ産地も明確にされており、そうした記録として十分に価値があります。玉扇万象、コレクタピクタなどの他にも、こんなに色々な顔をした美しいハウォルチアがあったのか、と感じさせてくれること請け合いです。実際最近の傾向としては、オモトや東洋蘭よろしく園芸的「優系」を集める蒐集だけでなく、自生地データの明確な植物を顔違いで集める、より研究者的なコレクションを追い求める人も増えているようです。それにともなって、この本に掲載されているような、それまであまり栽培されていなかった様々なハウォルチアたちにも光があたるようになってきています。実に色んな顔があるなあ、と思って眺めているだけでも十分楽しめる本ではないでしょうか。
Gymnocalycium in habitat and culture/Graham Charles
2012年1月追加
この本については、詳細レビューを別ページに記載しています。上記リンクからどうぞ。