Reference works
おすすめの本
ここでは、サボテン・多肉植物に関連する書籍で、役立つもの、興味深いものなど、いくつかご紹介します。大半が英書ですが、2002年現在、新本で入手出来るものに限りました。国内で発行されている本からは得られない植物の面白さを知ることができ、世界は確実にひろがると思います。amazon.com のような大型のネット書店、またはこの分野の書物をネット販売している rainbow gardenwhitestone などで入手することが出来ると思います。興味をひく本があれば検索してみてください。
       
               (2012年1月1冊追加/属別解説書↓一番下へスクロール)

<図鑑・事典系>

CACTI The Illustrated dictionary / Rod&Ken Preston Mafham 


いま、一般に売られているサボテン科全般の図鑑として最良のものだと思います。一般に入手しうるサボテン類をほぼ網羅し1000種以上が紹介されています。写真の水準は高く、開花しているものが多いため同定の助けになります。また学名や自生地の表記も正確で、巻末のシノニムリストも役に立ちます。欠点は洋書なので当然「和名」がないことと、栽培法などは記載されていないこと。また柱モノやウチワ類、孔雀類などが割愛されていることです。価格も安く、アマゾンで手に入ります(2002年現在)。とりあえず必携の一冊。
同じシリーズで多肉図鑑の”SUCCULENTS”の1と2も出ています(著者は別人)。これも良い本ですが網羅度、写真の質などでサボテン篇に比べるとやや劣る気がします。


The illustrated encyclopedia of CACTI / Clive Innes & Charles Glass 

これも上記と似たスタイルのサボテン科図鑑です。柱やウチワ、孔雀サボなど全般を扱っていますが写真の数は上の本より少なめ。玉型サボテンについては網羅性に物足りなさがありますが、写真に自生地で撮影されたものも多いのが特徴です。へえ、このサボテンはこんなところにこんな風に生えているのか、という感動があると思います。ただ写真と学名の不一致が若干あり、付記されている各種の栽培法も??な所が多々あります。上の本とあわせて使いたい本。ウチワや柱、シャコバなど森林サボテンも知りたい、という人には必携。


The Cacti of the United States and Canada / Lyman Benson

アメリカ・サボテン研究の父とも称されるベンソンの1000ページにも及ぶ名著。20年前の本ですが今でも新本で手に入ります。アメリカ合衆国とカナダに産するすべてのサボテン(当時の分類ではありますが)を詳細な分布地図や写真・イラストで紹介しており、記述も詳しい。カラー写真も当時の本としては相当数あります。図鑑というより読むところのたくさんある本で、アメリカ全土の植生区分解説からはじまり、サボテンの生理メカニズムや利用法まで、まさにサボテン大事典です。私が本格的にアメリカ産サボテンに惹かれ、自生地めぐりを始めるきっかけになった本。


CITES Check List Cactaaceae / David Hunt

写真もイラストも一枚もありません。300ページすべて、サボテンの名前がずらっと並んでいます。現在、サボテン科植物の分類では、種や属をどう分けるのかなど様々な考えかたがあり、同じ植物に複数の名前がつけられいます。そこでIOSという国際的組織(実体は「大英帝国」の時代から植物分類の権威の座にすわりつづけている英国王立植物園が中心)がそれらを統廃合し現時点での分類「決定版」をつくった結果がこの本(あくまで現時点の決定版。今後更新されていきます)。ワシントン条約でサボテンを扱うときにはこのリストに準拠します。この本の分類が「絶対」と考えるべきではありませんが、とりあえず現時点の知見の最大公約数として役立ちます。


The Cactus Family / Edward F. Anderson

サボテン科全属全種にわたって、特徴、自生環境などを詳細に記した本で、現在最新(新本で手に入る)のサボテン大事典です。著者はベンソンの弟子にあたり、今のアメリカでもっとも権威ある研究者のひとり。南米もふくめ、大半のサボテンの自生地を自ら歩いています。けれど上記の"checklist"と必ずしも一致しない分類を採用しています。この本はまさに「事典」で、750ページにも及ぶ詳細な記述でサボテン科全般を深く知ることが出来ます。また文章ばかりでなくカラー写真も1000枚くらい掲載されており、自生地で写されたものが多い。分厚くて重いですが素晴らしい本です。


原色サボテン事典 Cactus Hand Book  佐藤勉 

日本語で書かれた本としては唯一の網羅的な図鑑です。写真数はおそらく世界一で、網羅性は極めて高く海外でも評価されているそうです。ただ、写真の大半が栽培下の実生小中苗であるため、その種の特徴、良さが十分出ていないものが大半なのが残念なところ。学名のスペルやシノニムの扱いにも若干のミスが見られます。これも完全な図鑑なので、栽培法などの説明は一切ありませんが、和名の対照にはとても役立ちます。大手書店で注文できると思いますが、日本カクタス企画社で買うことも出来ます。


Caudiciform & Pachycaul Succulents / Gordon D. Rowley

これ一冊だけ、多肉の本です。といっても多肉全般ではなく、塊茎・塊根多肉に限定されたもの。様々な科の植物が横断的にとりあげられており、栽培法なども詳しく書かれています。特筆すべきは写真の質の高さ。栽培・自生地の素晴らしい植物がたくさん登場し、一見地味なイモ・ホネ植物の味わい、魅力をじゅうぶんに伝えてくれます。惜しむらくは少々値段が高いこと。でも、コーデクスが好きなら、ぜひ入手したい本。今後、こういう括りの本が出るかどうかもわからないですし。


A Cactus Odyssey Journeys in the Wilds of Bolivia, Peru, and Argentina / 
James D. mauseth, Roberto Kiesling, Carlos Ostloaza


今年出た本。事典図鑑とはちょっと違いますが、サボテン全般を扱っているのと、是非とも読んでもらいたいので紹介しました。表題のとおり自生地旅日記なのですが、かなり面白かったです。ボリビアの熱帯雨林からアンデス高地、さらにパタゴニアの寒冷地まで、他の本にあまり紹介されないような変わったサボテンたちの生態も自生写真とともに語られます。主著者は解剖学的見地から植物生理を研究しており、たんに刺や花の姿を描写するのみならず、なぜこの場所のこの植物はこんな形になったのか、を執拗に追い求めます。ときには組織標本を得るために数メートルの柱サボテンを切り倒し、あとで落ち込んでしまったりするような人。サボテンの生理や進化についての知見はたいへん興味深く、またサボテン好きなら誰でもこんな旅がしたいと思わずにいられない本です。基本的には読み物ですが、写真も美しく、素晴らしい内容です。


The New Cactus Lexicon / Edited by David Hunt
この本については、詳細レビューを別ページに記載しています。上記リンクからどうぞ。



以上は、サボテン全般、あるいはかなり広範囲の属・種をまとめて扱っている本をあげました。
以下に特定の属などにもう少し絞り込んだ専門書を数冊ご紹介します。

<属別解説書系>

1. The Genus Sclerocactus
2. The Genus Pediocactus
3. To the Habitats of Pediocactus and Sclerocactus
                    / Fritz Hochstatter


1〜3まで、すべて”フリッツ・ホッホステッター”と云う舌をかみそうな名前のドイツ人の著書。彼はアマチュア(今は業者も運営)ですが、のべ数百日の現地踏査を行い多くの新種も記載しています。ペディオカクタス・スクレロカクタス(最近はユッカも)に関しては、もっとも多くの植物を自生地に訪ねている研究者と云えるでしょう。植物分類学といった学問は、薬用植物などをのぞけば直接の産業的価値が乏しいため、研究者の数(予算)がその膨大な多様性に追いつかないのが現状です。そうした意味でも、アマチュアの活躍が大事な意味を持ちます。事実、後述するカッターマンやハマーなど、サボテン多肉植物研究の第一人者の多くが”アマチュア”出身。趣味が高ずれば学問になるのも必然で、そうした意味での”トップアマ”が日本からも沢山出てくるといいと思うのですが・・。
さて、著書の1と2は、それぞれ北米難物サボテンのスクレロカクタス属とペディオカクタス属を専門に解説した書で、数多くの自生地写真とともに、それぞれの特色、自生地、生育環境、栽培法などが詳述されています。飛鳥のナバホア属や月の童子のトウメヤ属は、のペディオの巻に包摂されています。もちろん、私も繰り返し熟読している本で、難物の魅力にのめり込むきっかけでもありました。なにしろ、こうした北米難物を専門に解説した本は現在ほかにはなく、しかも著者本人が発見した新種もあわせて記載されており、このグループに取り組むひとには必携と云えます。は、スクレロ・ペディオの自生地を巡る紀行もので、とは云ってもたくさんの開花写真があり1と2の2冊買うのもちょっと、と云う人向けに両属あわせた図鑑としても使えます。また、自生地探訪のガイド書にもなります。いずれもrainbow gardenや、著者が運営するnabajo gardenで購入できますが、難点は少し高価なこと。多くの部数が出るものではないので仕方ないかも知れませんが・・。なんにしても、北米難物サボを扱った専門書の決定版であることは確かです。



Eriosyce / Fred Kattermann 

今度は南米チリのサボテンを扱った本の決定版。著者のカッターマンはこちらもアメリカ在住のアマチュア研究家ですが、知られているほぼすべての自生地を踏破し、CITESさえ彼の分類に準拠していると云う、文字通りの権威です。彼の分類の最大の特色は、エリオシケ属を広くとらえることで、そのなかにネオポルテリア、ネオチレニア、ホリドカクタス、ヒルホカクタス、イスラヤなどの各属を取り込み、コピアポア属をのぞくほとんどすべてのチリ産玉型サボテンを含む大家族として再定義したことです。また既存の多くの記載品種をシノニムとして統合して、種の数を減らすという、いまのサボテン分類の流れにのっている(流れをつくった)人でもあります。私など、その”大括り”には少々違和感もあるのですが、特徴がつかみづらく個体差が大きいため滅多やたらと名前がつけられて混乱を呈しているこれらのサボテンを理解するには、彼の整理統廃合は大変有効だったと思います。結果、この本Eriosyceはチリ産サボテンのバイブルとして扱われていて、いわゆる南米モノが好きな人は絶対に手にするべき本でしょう。近く続編が出ると云われ続けていますが、いまだに刊行の知らせはありません。この本で云う”広義のエリオシケ”に含まれるネオチレニア、ヒルホカクタスといったサボテンは、国内ではあまり栽培数が多くないようです。”難物”的側面もあり、とっつきにくいのは確かですが、形、肌色、刺姿、そして花、どれをとっても珍奇でインパクトのある植物揃いです。この本は、そんな彼らの魅力を数多くの写真で雄弁に伝えてくれます。



The Cactus File Handbook 4  "Copiapoa"  / Graham Charles
The Cactus File Handbook 6  "Mammillaria / John Pilbeam


いずれも、イギリスのサボテン専門雑誌の別冊として刊行されているもので、シリーズには他にギムノやテロなど色々とありますが、すでに入手が難しいものも多いようです。
まず、一冊目のCopiapoaですが、総ページ80ほどの本ながら中身はなかなか濃くて、現状のコピアポア全種に及ぶカラー写真つきの解説があります。自生地データや栽培法についても種ごとに書かれていて親切です。分類については先のエリオシケ本同様、かなり統廃合がすすめられていますが、この属も同じ場所に生えているモノに名前が色々ついているようなところがあるので、宜なるかな。巻末にKKやFKなどのフィールドデータと学名の参照表がついており、これは自分のところにある番号だけのサボテンの正体を調べるのには大変便利です。著者はやはりアマチュア研究家ですが、このひともかなり自生地を歩いており、写真の多くがコピの故郷アタカマ沙漠でのもの。趣味家的側面も強い人のようで栽培法についてもかなり詳しい記述があります。厚い本ではないですが、良い本です。
同じシリーズのもう一冊、Mammillaria。こちらは多くのサボテン本をすでに書いている著名な営業家が書いたもの。ゆえにやはり栽培法が詳しいです。前項とは対照的に300ページを超える大部で、およそ知られているマミラリアすべてをカラー写真つきで網羅する形になっています。いかにマミラリアが大家族なのかがよくわかります。同時にサボテン全般を網羅的に扱った図鑑類では、マミを語るには不十分過ぎることも。つまり、大半のサボテン趣味家が、実はマミの全貌を知らない、ということですね。同様の本では、かつてClaigと云う人が書いたThe Mammillaria handbookと云う書があったのですが、こちらは写真がすべてモノクロでした。このMammillariaは、今マミを集めようという人には必須アイテムで、写真や記述のボリューム感からいっても満足度が高い本だと思います。



1. Copiapoa in their environment / Rudolf Schulz and Attila Kapitany
2. Uebelmannnia in their environment / Rudolf Schulz and Marlon Machado


どちらもカラー写真が満載された大判の豪華な本で、主著者のシュルツはオーストラリアでナーセリーを経営している人物。タイトルどおり、ほぼ全篇自生地での生態に焦点を絞った本で、サボテンの野生を堪能できる素晴らしい本です。rainbow gardenのほか、著者が直販もしているようで、ネットで検索すればヒットすると思います。
は、コピアポア属の故郷でもあるアタカマ沙漠の自然から話が始まります。年間降水量1ミリ以下の極乾燥地で彼らはどうやって生き抜いているのか、いったい彼らはどれほどの歳月を生きるのか、そしてどう死んでゆくのか。また、しばしば語られる、「海から発生する霧」と彼らの生態はどう関係しているのか・・等々、自生地に長期間滞在しての観察と実験、数年に及ぶ定点観測などでコピアポアの神話に迫ります。全頁カラー印刷で、美しい写真のほか自生地の詳細なカラー地図も掲載されており、アタカマ探訪のガイドにもなるでしょう。とにかく、素晴らしい黒王丸はじめ、クラクラするような迫力ある植物がこれでもかと登場します。少々値は張りますが、まさに沙漠の浪漫を形にした内容。
は、うってかわってブラジルの多雨荒原に生きるユーベルマニアがテーマ。彼らの生きるディアマンティナ台地は、同じサボテンのディスコカクタスのほか、多数のブロメリア、蘭、食虫植物類やベロジアなど、珍奇な植物が多数生育する植物愛好家垂涎の地。あたかもギアナ高地に迷い込んだかと思うような不思議な姿の植物ばかりの植生を描き出しながら、南米サボテンのスター、ユーベルマニアの生態を探ります。雪のように白い石英砂に埋もれながら幼少期を生きる彼ら。頻発する野火を生き延びる彼ら。温室のなかでは知ることの出来ないユーベルマニアたちの興味深い姿です。こちらもカラー写真多数で、ユーベル図鑑としても完璧です。



"Dumpling and his wife" New View of the genus Conophytum
                             / Steven Hammer


ここで紹介するまでもなく既に有名すぎる本ですが、「好きなだけのアマチュア」がここまでやれる、という好例として。この本の著者も、元々はピアニストでした。しかし窓辺での栽培からはじまり、やがてメセン種子の世界的ディストリビューター”メサ・ガーデン”で働きながら、たびたび南アフリカの自生地を旅するように。今ではコノフィツムについては文字通り世界でいちばんの研究者です。彼には’93年の前著The Genus Conophytumもありますが、それからわずか10年足らずで、今度は400頁近いまさに”コノフィツム大全”を出版した訳です。彼自身が最近発見した種も含め、既存のすべての種を、彼のフィールド調査や栽培研究をもとに再分類、すべてカラー写真つきで詳述しています。もちろん、各々の種についての栽培ヒントもたくさんあります。彼はコノフィツム好きらしく、植物の個体差(顔の違い)にもとても敏感で、日本人同様、美しい個体を選別、系統繁殖するようなこともしています。そんなこともあって、掲載されている写真はどれも美しく、特徴の明快で魅力的な個体ばかり。葡萄色のラツムや紋様美麗な夜咲き種、そして奇天烈な交配種まで、目の肥えた日本のメセンファンから見ても、涎の出るような色鮮やかな”特選株”がズラリです。最高最強のコノフィツム図鑑で、これを手にすると、コノマニアの道に引き込まれること間違いありません。



Haworthia revisited A revision of the genus / Bruce Bayer


こちらも同じく顔違いが人気を集めるハウォルチア属の専門書。前項のハマーの知己でもあるベイヤーによるもので、彼自身、70年代80年代にそれぞれ本を出しており、’99年に出たこれが今のところ最新版。全編カラー写真で、自生地写真もふんだんに盛り込まれた見て楽しいハウォルチア図鑑です。著者はこの本でかなり斬新な分類を打ち出しており、日本では長年親しまれてきたコレクタやピクタと云った名前が消えてしまっています(別の名前に)。これまでの経緯からするとかなり強引?と思われる種の並べ替えもされており、特に日本ではあまり好意的に受け止められていないようです。しかし、ハウォルチアのように種から種へ、コロニーからコロニーへと特徴が連続する植物にあっては、机上で限られた標本をもとに「葉裏にノギがあるから○△」式の分類をすること自体あまりにも不確かです。塩基配列の徹底解析でも終わるまでの間は、まずはコロニー単位で植物を見ていけばいいのかとも思います。そうした意味では、この本に掲載された様々な顔をしたハウォルチアたちは、それぞれ産地も明確にされており、そうした記録として十分に価値があります。玉扇万象、コレクタピクタなどの他にも、こんなに色々な顔をした美しいハウォルチアがあったのか、と感じさせてくれること請け合いです。実際最近の傾向としては、オモトや東洋蘭よろしく園芸的「優系」を集める蒐集だけでなく、自生地データの明確な植物を顔違いで集める、より研究者的なコレクションを追い求める人も増えているようです。それにともなって、この本に掲載されているような、それまであまり栽培されていなかった様々なハウォルチアたちにも光があたるようになってきています。実に色んな顔があるなあ、と思って眺めているだけでも十分楽しめる本ではないでしょうか。



Gymnocalycium in habitat and culture/Graham Charles
2012年1月追加 
この本については、詳細レビューを別ページに記載しています。上記リンクからどうぞ。











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