ズッコケ財宝調査隊

原作本あらすじ

解説


<原作本あらすじ>
花山第二小学校の2泊3日の夏期合宿が終わった。
合宿所から帰る途中、ハチベエ、ハカセ、モーちゃんの三人は安井町でバスを降りた。モーちゃんの祖父の妹、玉本ナツというおばあさんの家に泊まりに行くためだった。

モーちゃんの母、時子が生まれた奥田家は、安井町から10キロほど離れた蜂巣村にあったが、昭和27年のダム建設のために村は湖底に沈み、奥田家はよそに移り住んだ。ナツばあさんはこの安井町の玉本家の嫁に来ていたのである。

玉本家の夕食。
三人は、合宿で所長さんから聞いた話をした。それは終戦直前、牛首山の中腹に日本の軍用機が墜落し、兵隊がたくさん死んだので、合宿所にはいまでもその幽霊が出るというものだ。この話を本気にして怖がっているのはモーちゃんだけであったが、ナツばあさんによると、軍用機が墜落したのは本当の話で、しかも、その軍用機に乗っていた呑村大尉、杉野少尉という二人の軍人を助けたのは、モーちゃんの祖父だったという。

また食卓では、時子の兄、総吉のことが話題になった。
総吉は、昭和22年の秋、中学1年のときにがけから落ちて死んでしまった。ナツばあさんによると、そのころの総吉は、モーちゃんにとてもよく似ているという。

ナツばあさんの息子、広平おじさんによると、軍用機墜落の話には後日談があって、事故の翌年春には進駐軍が大勢やってきて、牛首山付近を捜索したのだという。なんでも、墜落した飛行機に重要な品物が積まれていたらしく、奥田家にもアメリカの将校がやってきて家の中を調べられたりして大騒ぎになったということだった。

翌日、三人は近くの川に釣りにでかけることにした。
針と糸とおもりを買い、川にでた。しばらくすると、サングラスをかけた老人がやってきた。三人の釣りの様子を見ている。さっきの釣具店にいた客の一人だ。
この老人は、ハカセが木にひっかけてしまった釣り糸をほどいてくれて、ついでに釣りのしかけも直してくれた。するとハカセのさおにはまたたく間に魚がかかった。このあたりの釣り場にはくわしいようだ。
老人はモーちゃんをながめると、総吉くんにそっくりだという。生前の総吉のことを知っているようだ。モーちゃんはこの老人に名前を聞いたが、答えてはくれず、行ってしまった。

釣りを終えてもどると、総吉の同級生だった作太郎さんという人が来ていた。この人もモーちゃんを見るや、総吉にそっくりだという。
作太郎さんは、総吉ががけから転落死したときのことを教えてくれた。総吉は、いつもは蜂巣村から女の子たちと自転車で学校にくるのだが、その日は女の子とけんかしたとかの理由でひとりだったということ、また、総吉が日本軍の戦争犯罪の証拠をにぎっているという話を作太郎さんにしていたということ。日本軍の飛行機が墜落したとき、その飛行兵たちは総吉のいる奥田家に助けられ、しばらくそこでお世話になっていた。ということは、総吉が日本軍の秘密を知ったとしても不思議ではない。ことによると、総吉はそのために命を奪われたのはないかという。

モーちゃんのおじさんは殺されたのかもしれない。
それを聞いた三人組は、当時のことを調べてみることにした。

午後は広平おじさんと奥田家の墓参りに行くことになっていた。
安井町から川に沿って行くと、いまは湖底にしずんだ蜂巣村がある。墓地はその西側の山の中腹にあった。一行は墓参りをすませ、ダムの堰堤に向かった。ここからは近くの山が一望できる。蜂巣村とは、昔銅山を掘っていたせいで、山のあちこちに洞穴があって蜂の巣のように見えたからこういう名前がつけられたのだという。

そして、総吉が転落死したという、がけのところにも行ってみた。
びょうぶ岩という、切りたった岩の頂上に着くと、そこにはま新しい花束と線香が供えられていた。
そのとき背後で落ち葉をふむ音がしたので、ハチベエが追いかけていくと、さっき川で会ったサングラスの老人がいた。だがハチベエが声をかける間もなく、車に乗って走り去ってしまった。ハチベエはふと足元を見ると、折りたたみ式のナイフが落ちていた。それには「スギノ」と書かれた名札がついていた。

三人と広平おじさんたちは車を止めた場所までもどり、近くのレストハウスに寄った。
そこには、1枚の蜂巣村の絵がかざってあった。ダムができる前に、中学校の先生が村の生徒たちに協同でかかせたというものらしい。その絵の中には、当時の総吉と、その妹の少女の時子もえがかれていた。

レストハウスのおばさんによると、以前ここに墓参りに来た女性がこの絵を見て感激したという。この女性は当時この絵をかいたひとりで、いまはミドリ市で絵の先生をしている熊谷美由紀さんという人だ。彼女は、この絵をいっしょにかいたひとりが、絵が完成した直後に死んでしまった、だからこの絵には悲しい思い出があると言ったという。その死んだひとりというのが総吉のことである。

これまでのことを整理したハカセによると、総吉は、ちょうどこの絵がかかれたころ、なんらかの秘密をにぎったのではないかとのこと。熊谷さんに会えば、その秘密が解明できるかもしれないので、ミドリ市にもどったら、熊谷さんを訪ねてみようということになった。このとき、ハチベエがポケットからナイフを落とした。モーちゃんがそれを拾うと、ハチベエは、昼間がけの近くで拾ったものだという。そのとたん、ハチベエは、このナイフの持ち主が、あの杉野少尉ではないかということに気がついたのである。

翌朝、三人組は釣具店にかけこんだ。
店のおばさんにナイフを見せると、たぶんあの杉野さんのものだという。杉野さんは、現在松野市に住んでいて、この近くにアマゴ釣りに来るという。蜂巣ダムのまわりをよく歩き回っているらしい。三人は、杉野さんの住所を聞き出し、早速松野市へ向かうことにした。

おまわりさんに道をきき、ほどなく杉野さんの家は見つかった。
幸い杉野老人は家にいて、三人は応接間に通された。

ハチベエが持っていたナイフを杉野さんに返し、ハカセが総吉の死に不自然な点があること、総吉が死ぬ直前に日本軍の戦争犯罪について証拠をにぎっていたらしいと話すと、杉野さんは重い口を開いた。杉野さんは戦時中、朝鮮の平壌の陸軍の飛行部隊に所属していた少尉だったという。昭和20年8月12日に極秘任務で、軍の重要人物を乗せて内地(日本本土)へ飛べという命令が下った。呑村大尉が飛行機の操縦にあたった。軍の重要人物という男は、ジュラルミンの大きなトランクを持っていた。
三人の飛行機が本土上空まで来たとき、敵の飛行機に見つかってしまい、牛首山に不時着した。そのとき男は敵の機銃弾に撃たれてすでに死亡しており、呑村大尉と杉野少尉はなんとか助かったが、飛行機はそのまま炎上してしまった。二人はトランクを近くのしげみにかくし山をおり、奥田の家にたどりついたという。
呑村大尉と杉野少尉はそのまま3日間意識を失い、気がついたときにはすでに戦争が終わっていた。それからしばらくして、杉野少尉はしげみにかくしたトランクを蜂巣村の洞窟に移した。かくし場所にふさわしい洞窟をおしえてくれたのは、総吉だったという。

その後、二人はそれぞれ故郷にもどり、杉野少尉は呑村大尉から手紙を受け取った。トランクの場所は絶対にだれにも口外しないこと、いずれ時期がきたら二人で中身を山分けしようということだった。このトランクには財宝がつまっているのだという。

この手紙をだした直後、呑村大尉は何物かに殺されてしまい、杉野少尉は昭和22年の秋にひとりで蜂巣村にトランクを探しに行った。だが洞窟はすでにだれかに掘り出されていて、何も残ってなかった。もういちど探そうと、杉野少尉は松野市に移住したものの、そのときすでに蜂巣村はダムの底に沈んでしまっていた。

翌日三人はミドリ市の自宅にもどった。
そして数日が過ぎ、旅行の写真を見ながら、蜂巣村の絵をかいたという、あの熊谷さんに連絡してみようということになった。
モーちゃんが電話をし、三人は連れだって熊谷美由紀さんの家に行った。
熊谷さんはやせた中年の女性で、アトリエのある洋風の家に住んでいた。
モーちゃんが総吉おじさんが死んだときのことをおしえてほしいと切りだすと、熊谷さんは、自分が総吉を死なせてしまったという。

熊谷さんは、当時蜂巣村の絵のことで、総吉とけんかをしたのだという。
総吉は、蜂巣山の頂上に白い十字架をかいたのだが、そんなありもしないものをかいたということで熊谷さんと対立した。総吉は、蜂巣山の頂上にたしかに外国人の墓があると主張したのだが、熊谷さんは総吉を許さず、謝る総吉に、びょうぶ岩に咲くリンドウの花を摘んできたら許してあげると言った。それを引き受けた総吉は、がけを降りて花を取ろうとしたところ、がけがくずれて転落してしまったということである。

帰り道、三人は、総吉がかいたという十字架について話し合った。
あのこころのやさしい総吉が、みなが一生懸命かいている絵にいたずらなどするだろうか?
もしかすると蜂巣山に十字架を立てたのは、ほかでもない総吉だったのではないだろうか?
そして、その十字架をかいた場所にあのトランクを運び込んだのではなかろうか?

三人は、再び安井町に向かった。蜂巣山の頂上に、宝物の入ったあのトランクがあるはずだ…



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<解説>
ズッコケシリーズ第9作目。1986年出版。

ズッコケシリーズには、冒険物、探偵物のお話がたくさんありますが、意外とあるようでないのが、この宝探しの物語です。

もちろん最初から宝探しの話になるのではなく、まず戦争で失われた北京原人の頭蓋骨の話で始まり、三人組は合宿の帰り、モーちゃんの親戚のうちに泊まりに行くところから始まります。

正確に言うと、宝探しだと思ってしまうのは本の中の三人組だけで、読者にはあらかじめ財宝の正体を知らされています。いやものすごい財宝には間違いないのですが、三人組や杉野少尉が想像している宝石や美術品とは似ても似つかないものなわけですから、読者は三人組と一体になって宝探しのスリルを味わうというのではなく、もし三人組がこれを見つけてしまったら一体どうするのだろう?という、宝探しとは別の次元に関心が行くわけです。この視点のずらし方も実に見事なのですが、それはある程度読書経験を積んだ人の言うことで、初めてこの本を手に取った子どもには、ちょっとこのひねりが理解しきれないかもしれません。

それにしても、この物語は緻密です。物語を展開する上での重要なファクターが、極力さりげなく散りばめられているのです。例えば、この物語で重要なカギをにぎる総吉おじさんの名が登場するところは、玉本家の夕げのちょっとした会話の中で出てきます。また、三人組が釣りをしているところで現れるなぞの老人が、実は杉野少尉であることがわかるのも、ハチベエがたまたま拾ったナイフがきっかけとなるのですが、これも三人組が部屋で話しこんでいるところでハチベエがそのナイフをポケットから落とし、そのとき初めてそれが杉野少尉のものであることがわかるという、実に計画的に偶然を描いています。

この物語の構成は、ちょっと変則的な形になっています。
2つのプロローグとエピローグを設け、章は3つというのは、他のズッコケシリーズにはない組み立てです。また、第2章で松野市の杉野少尉を訪ねて話を聞き、これであらかたなぞが解けたように見せかけておいて、第3章で熊谷さんを訪ねたことから再び宝探しに火がつき、一気にクライマックスに持っていくという、この物語のうねり、たまりませんね。

そして雷雨の中、湖に骨を放り込むハカセとハチベエ、念仏を唱えるモーちゃん。これはもう、単なる宝探しの物語の域を通り越しています。戦争で命を失った人々、そして若くして世を去った総吉を弔っているようにさえ思えます。戦争によるすべての罪業、すべての悲しみを、1つ1つ、湖の中へと放り込んでいくのです。同じ過ち、同じ悲しみを二度と繰り返さないために…。このシーンには、そんなメッセージが込められているような気がしてなりません。

まだまだこの物語にはいろんな要素が詰まっていて、私が寝れなくなるのでとりあえずこれくらいにしておきますが(笑)、内容的にはズッコケシリーズの傑作であることは間違いないと思います。子ども受けはそれほどではないのかもしれません。だったら大人が読みましょう。この本はそれに十分耐えうるものですし、いやむしろ上でも書いたように、ある程度読書経験のある人のほうが、この本の魅力がよくわかるのではないかとさえ思います。(6月23日)



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