とびだせズッコケ事件記者 原作本あらすじ 解説 ドラマについて ドラマ放送後の感想 |
<原作本あらすじ> 花山第二小学校6年1組では、班会議のまっ最中。 週に一度、班ごとにかべ新聞をつくることになったのだ。 ハチベエのいる1班は「週間真実」、モーちゃんの3班は「なかよし新聞」、ハカセの6班は「一・六新聞」という名前の新聞だ。 ハチベエは、「週間真実」の事件記者となって大はりきり。父さんの情報をもとに、さっそく妙蓮寺のくるい咲きのサクラを取材する。記事には「ばかなサクラ」と書いた。 名刺をつくって交番にネタ探しに行くが、おまわりさんには相手にされなかった。おまけに帰り道に下級生とぶつかって、ひざをすりむいただけなのに「全治3ヶ月の重傷」などという記事を書く始末。ハチベエの記事は大幅に直されて新聞に載せられたため、ハチベエは大いに憤慨する。 ハカセによると、ハチベエはおじゃま虫なので、新聞の編集にはかかわらせないために、外回りの事件記者にさせたのではないかとのこと。それを聞いてハチベエは怒り、事件記者なんてやめたというが、授業で先生に記事のことをほめられて、ころっと機嫌を直してしまう。 一方ハカセは、それまで事件記者のハチベエをばかにしていたのだが、まじめすぎる企画ばかり出すものだから班の連中にけむたがられ、事件記者にさせられてしまった。どうやらモーちゃんも同じく事件記者になったという。仲間はずれとなった三人組は、ここで行動をともにすることになった。 三人組は、以前ハチベエが行った交番に足を運んだ。おまわりさんには、新しい事件はなにもないと断られたのだが、そのとき、かん高い声のおばあさんが入ってきた。近所では「探偵ばあさん」と呼ばれる、詮索好きのそそっかしいばあさんらしい。探偵ばあさんは、近くの印刷工場でにせ札をつくっていると通報する。さっそく警官と三人組は、その工場に行ってみたが、にせ札の正体は、ただのバーゲンセールのチラシであった。 また三人組は、6年2組の長井先生と、宅和先生の娘のめぐみさんが駅前の喫茶店「田園」でデートをしている、という話をばあさんから聞く。この特ダネをだれが取材するかをめぐって三人は言い争うが、結局ハチベエが担当することになった。 それぞれ自分たちの記事を書くために、三人組は独自の行動をとった。ハチベエは喫茶店「田園」の偵察、モーちゃんはケーキ屋の「メルシー」と「風月堂」の取材、ハカセはにせ金の研究に没頭した。 モーちゃんは単独行動が苦手だが、その日は思いきって一人で「風月堂」にのりこんで行った。「メルシー」と「風月堂」のケーキ、どちらがおいしいかを記事にするためであった。店員に事情を説明すると、意外なことに、主人が出てきて中に通された。いろいろケーキを試食させてもらい、ついに23個のケーキをたいらげてしまった。 翌日、モーちゃんは学校を休んだ。 ハチベエ、ハカセら6年1組の生徒がモーちゃんの家に見舞いに行く。 モーちゃんは、どうやらケーキの食べすぎでおなかをこわしたらしい。「風月堂」でケーキを食べたあと、さらに「メルシー」で15個のケーキを食べたという。モーちゃんいわく、どちらのケーキもおいしくて、どういうふうに記事にしたらいいかわからないと! ハチベエには、まちにまった土曜日がやってきた。「田園」にやってくるはずの長井先生とめぐみさんの大スクープを取材するのだ。午前中で学校を終えたハチベエは、いそいで昼めしをかきこみ、「田園」に向かった。 喫茶店の客席で張り込みをするハチベエ。 ほどなくして長井先生がやってきた。そしてめぐみさんも…。 息をころして二人の会話を聞くハチベエ。長井先生は、めぐみさんに結婚を申し込んでいる。しかしめぐみさんは、結婚はまだ早いのでは、と決心がつかない様子…。 そのとき、めぐみさんとハチベエの目があってしまった。ハチベエは二人に見つかってしまう。 デートの現場を生徒に見られてあわてる長井先生。しかし、時すでに遅し!すかさず「週間真実」の名刺を出すハチベエ。こんどの新聞に、長井先生たちのことを書きたいときりだすと、めぐみさんは、真実を書いてくれるなら別にかまわないと言う。めぐみさんは、教育者としての長井先生は好きだが、いまは結婚を決める気になれない、気持ちが整理できないのだという。 好きなのかきらいなのか、結婚するのかしないのか、はっきりしないめぐみさんの話で、ハチベエはどのように記事を書けばいいのかわからなくなってしまった。そしてとうとう記事は書けずじまいとなってしまう。 モーちゃんもからだをこわしてケーキの記事は書けず、ハカセは原稿用紙30枚にものぼる「にせ金」研究の記事を書いたものの、新聞には使ってもらえなかった。 新聞記者にこりたハチベエは、ハカセとモーちゃんに、再び探偵ばあさんのところへ行こうと言いだす。 三人組は、ばあさんのアパートのドアをノックするが、中から応答がない。 しかもどこからかガス臭いにおいがしてくる。 いそいでドアを開けてみると、中にはふとんの中で意識をうしなったばあさんがいた… ページトップへ <解説> 「ズッコケシリーズ」の第7作。初版は1983年に出版されていますので、もう18年も前の作品になります。 もともとこのシリーズは駄作が少ないと言われていますが、初期のシリーズは特に粒ぞろいで、この「事件記者」は、「ズッコケ」を知るための基本中の基本の作品と言えるでしょう。 「ズッコケ」作品の1つのタイプとして、作者が筆にまかせて書き進めていったようなものがいくつかあります。ストーリー構成はそれほど緻密ではないものの、つぎになにが起こるのか、書き手も読み手もわからない、といったスリリングな書きぶりが、読み手をどんどんと引き込んでしまうようなものです。 最近の「ズッコケ」では、この手の手法はあまり使われなくなってしまったようです。しかし、このシリーズが発刊以来20年以上たってもいまだにおもしろいと言われるのは、この独特の手法が功を奏しているということがありそうです。 この「事件記者」も、1つのエピソードから話をつぎつぎとふくらませていくという方法でストーリーが成り立っています。テーマ性に乏しいといった批判はなんのその、とにかく痛快で面白い作品です。 この作品、かげの主役は「探偵ばあさん」ではないかと思います。 なぜなら、三人組の取材活動のヒントは、すべてこの探偵ばあさんから得たものだからです。 探偵ばあさんは、にせ札づくりを目撃したと言って交番にかけこんできます。このことをきっかけにして、ハカセは貨幣の研究をはじめるわけですし、モーちゃんは、探偵ばあさんの家で食べたケーキがもとで味くらべの記事を書こうと思いつきます。また、ハチベエの特ダネ取材のネタは、もともとこのおばあさんのうわさ話なのです。 最後には、このおばあさんがガス中毒で倒れているところを三人組が助け出すというシーンもあります。 この探偵ばあさんのキャラクター、なんともコミカルで、この作品を一段と引き立てていますね。 ページトップへ <ドラマについて> まず、原作本の設定と決定的に違うのが、宅和先生の年齢です。 原作本では、宅和先生は定年前の初老の先生ですが、テレビドラマでは、30代(40代?)の独身の先生ということになっています。 したがって、原作ではとなりのクラスの長井先生と、宅和先生の娘であるめぐみさんのことが特ダネの対象なのですが、独身の宅和先生なら、当然娘さんはいないわけで、ドラマでは宅和先生自身が、スキャンダルの対象となっているようです。 あと原作では、ハチベエは結局記事を書くことを断念するのですが、ドラマでは宅和先生のスキャンダルが、まんまと新聞の記事にされてしまうようです。 おそらくこのことが学校中の大問題となって、プライバシーのありかたを考えさせるような内容になっているのではないでしょうか?この点では、原作以上に、ドラマのほうが教育的なのかもしれませんね。 それから細かい点で、ドラマの予告ではハチベエが、「週間真実」ではなく「一・六新聞」の名刺を出していました。 これは、30分という番組の制約上、三人はみな同じ新聞の記者ということになっているのかな?(4月18日) ページトップへ <ドラマ放送後の感想> まず、思い違いがいくつかあったので、記しておきます。 ハチベエの出した名刺は、「一・六新聞」ではなくて、「週間ロクイチ」というものでしたね。 これはドラマのみでつくられた名称です。 6年1組なので「ロクイチ」か…^^; それから、もっと大きな思い違いとしては、宅和先生の記事を書いたのは、1組の新聞ではなく、「プライベートアイ」という2組の新聞でした。 三人組が宅和先生をすっぱ抜いたのではなかったので、私の予想は大幅に違ってしまいました…^^; ところで、宅和先生はめぐみさんにふられたのだということを知って、三人組は先生を気の毒に思い記事を書かなかった、というところがありましたが、私はこれを見て、ああなるほどと思いました。 以前、「ズッコケ三人組2」で「ゆめのゴールデンクイズ」というお話がありましたね。 ここでは三人組がテレビのクイズ番組でズルをするのですが、そもそもこの企ては、クイズで稼いだ賞金を、お金のない宅和先生にあげようと起こしたものでした。宅和先生にお金がないというのは、三人組の勝手な思い込みだったのですが、ズルしてでも先生のために賞金を稼ぎたい、というのは、曲がりなりにも三人組の先生に対する思いやりだったわけです。 このように、ドラマの三人組はあわれな?宅和先生に同情してるようなふしがあって、これは三人組の、もっと言えば子どもの持つ優しさがよく描かれている部分ではないかと思うのです。 こういう先生と生徒の関係は、那須さんの原作にはないものですが、どこかイケてない宅和先生とズッコケ三人組が、お互いなにか共感しあっているようで、ちょっぴりおかしくて、同時にほほえましいものです。 結局特ダネは記事にできず、おばあさんを助けたことで、逆に自分たちが記事の対象となってしまいます。これはまさに「ミイラ取りがミイラになる」状態なのですが、これは原作にもドラマにも共通する見事なオチだと思います。(4月22日) ページトップへ |