ズッコケ愛の動物記 原作本あらすじ 解説 |
<原作本あらすじ> 4月。学校の帰り道、モーちゃんは箱の中に入った1ぴきの子犬をひろった。 できることなら自分で飼いたいところだが、モーちゃんの家は市営アパート。動物を飼うことは禁じられている。せめて新しい飼い主を探してやろうといろいろたずねまわるが、雑種の雌なので飼ってくれるという人が見つからない。 飼い主が見つかるまでと、アパートの倉庫で飼おうとしたが、ほどなく近所の人に見つかってしまった。 どこか人に見つかりにくいところで飼うしかないと言うハカセに、ハチベエはそれなら絶好の場所があると言う。花山駅の北側にある廃材置き場だ。飼い主が見つかるまで、三人組はここで子犬を飼うことにした。この子犬にはムックという名前をつけた。 よく朝、ハチベエはムックの朝食を持って廃材置き場に行くと、ムックの入っている箱の中には、いつのまにか2ひきの黒い子ネコがいた…。 一方、6年1組の田代信彦の家にはニワトリがいるのだが、鳴き声がうるさく父親が処分したいと言っているらしい。信彦は、そのニワトリをこの廃材置き場で飼えないかと持ちかけてくる。三人組は不承ながらもここで飼うことにした。 また、ムックの箱に子ネコを入れたのは、3年生の坪谷玲二とわかった。 家の飼いネコが子どもを産み、処置に困ってここに入れたのだと言う。 こうして廃材置き場は、動物小屋と化したのだが、それもつかの間、ほどなくして子ネコはいなくなり、ムックも老夫婦に飼われることが決まって、残ったのはニワトリのピーくんだけとなった。 動物がいなくなってさびしい廃材置き場となったところに、ハチベエは、学校で生まれたウサギをここで飼うと決めた。連れて来られた2羽のウサギは、パンダとブラという名前がつけられた。 安藤圭子がハチベエに頼みがあるとやってきた。 リスザルを飼わないか、というのである。 なんでも、となりの家が引っ越したときに、圭子の家でもらい受けたものの、弟がぜんそくになってしまい、家では飼えなくなってしまったのだという。 圭子に言いくるめられたハチベエは、断ることができなかった。 廃材置き場は、再び動物たちでにぎわうことになった。 玲二はヘビのアオダイショウを、ハカセはイモリ、トカゲ、オタマジャクシを持ち込んできた。 ハチベエは、ひそかに花山動物園計画を立てていた。たくさん人を呼べば、きっともうかるにちがいないと考えたからである。 モーちゃんはといえば、ムックがいなくなってからというもの、自分の世話する動物がいなくなってさびしいらしい。なにか動物がほしいという申し出に、ハチベエは、新たにハムスターとジュウシマツを手に入れてきた。 ところが、ついにこの廃材置き場も追い出されることとなった。 動物小屋が地主に見つかってしまったのである。この土地は売られることになって、1週間のうちにすべての動物を立ち退かせなければならなくなった。 ウサギはハチベエが両親と交渉して、自分の家で飼ってもらえることになった。イモリやトカゲはハカセが、ハムスターとジュウシマツはモーちゃんが飼うことになった。アオダイショウは逃がしてやることにし、リスザルはペットショップを通じて引き取ってもらえそうだ。 しかし、ニワトリの引き取り手がいない。 信彦の父親は、ニワトリを戻すことは絶対に許さないという。 そんな矢先、ハチベエは信彦の母親から、信彦が家に帰ってこない、という電話を受ける。 小屋にいたはずのニワトリも姿を消している…。 ページトップへ <解説> ズッコケシリーズ第32作。初版は1995年。 「ズッコケシリーズ」は、子どもをとりまくさまざまなことを題材にして書かれていますが、この本は生き物を飼うことに焦点があてられています。 子どもと動物には深いかかわりがあることは、言うまでもないことと思います。 だれだって、幼少のころに一度は動物園に連れて行ってもらったこともあるでしょうし、動物を飼ってみたい、または実際に飼っていた人も多いはず。そのことを考えれば、だれでも気軽に、かつ自然にこの物語の中に入っていけると思います。 作者の那須さんは、子どものころ昆虫採集に夢中だったらしく、「ズッコケ」にも昆虫が出てくる部分がいくつかあります。でも昆虫に限らず、生き物についての知識はすごいですね。この本を読むと、作者の経験知の豊富さに舌を巻く思いがします。この本のあとがきにもあるように、物語に出てくる動物で飼ったことがないのはリスザルくらいなもの、ということですから、那須さんと生き物がいかに親しい関係にあるか、容易に察することができるでしょう。 また、動物に対する作者の愛情は、この本を読んでいてもよくわかります。 最初の部分の、モーちゃんが拾った捨て犬の描写を読んだら、だれでもこの愛らしい子犬がほしくなってしまうと思います。 また、ハチベエは気持ち悪がって関与しませんが、ハカセが世話をしているトカゲやイモリなども、飼ってみれば意外と楽しい生き物かもしれない、と思えてしまうのです。 この物語は、生き物を飼うことの意味とか責任とか、そういうかたくるしい話ではありません。ハチベエはただ単純に、動物をいっぱい飼って、動物園でも開いたらもうかるだろうなと思っていますし、ハカセはハカセらしい研究熱心さで爬虫類を飼います。モーちゃんもその独特の愛情を動物たちに注ぎます。ただ、ハチベエの思う、いっときの夢のような動物園構想は、現実の社会においてはしょせん実現しないのだよ、というメッセージはあるような気はします。 強いて言うならば、この本は、生き物を飼う喜びを描いている反面、人間と動物が共存していくことの難しさ、厳しさを描いているのかもしれません。 ページトップへ |