柚月裕子著 『弧狼の血』

 

              2017-07-25



(作品は、柚月裕子著 『弧狼の血』   角川書店による。)

          

 初出 「小説 野性時代」 2014年3月号〜2015年2月号。
 本書 2015年(平成27年)8月刊行。

 柚月裕子(本書より)
 
 1968年、岩手県生まれ。山形県在住。2008年、「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年「検事の本懐」で第15回大藪春彦賞を受賞。他の著書に「最後の証人」「検事の死命」「蟻の菜園−アントガーデン」「パレートの誤算」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」がある。  

主な登場人物:

日岡秀一(25歳) 広島大卒の学士様。交番勤務1年、機動隊2年を経て呉原東署の刑事に。大上章吾巡査部長に気に入られる。

大上章吾(おおがみ)
(44歳)<ガミさん>

呉原東署二課の暴力団係の班長。尾谷組の一ノ瀬守孝若頭や、瀧井組の瀧井銀次組長と懇意。県警内部で凄腕のマル暴刑事として有名な人物。
呉原東署(くれはら)

・斎宮(いっき)正成 二課の課長
・暴力団係友竹啓二係長、警部補。
  大上班長
  土井秀雄班長
・知能犯係 笹谷学係長
・毛利克志 署長 キャリアの警視正。30代半ば。

晶子(あきこ) 「小料理や 志乃」の女将(45歳)。大上の行きつけの店、大上とは25年来の付き合い。
尾谷組

戦後まもなく立ち上がった老舗の博徒。日本最大の暴力団である明石組に近い。
・組長 尾谷憲次
(68歳)現在鳥取刑務所に服役中。3ヶ月後出所予定。古武士の評。
・若頭 一ノ瀬守孝
(30代半ば) 大上と師弟のように仲がよい。

五十子会(いらこかい)

呉原最大の暴力団。過去に何度も尾谷組と港湾荷役の利権や縄張りを巡り抗争を繰り返す。
・若頭 浅沼慎治

瀧井組

・瀧井銀次 組長。仁正会の幹事長。大上とは古くからの知り合い、二人の間には一線を越えたつながりが?
・妻 洋子 銀次は洋子には頭が上がらない。
(補足)仁正会は県下最大の暴力団。五十子会、旧・綿船組、瀧井組、加古村組の構成からなるも一枚岩ではない。

加古村組

五十子会の傘下。
・組長 加古村猛。五十子会の浅沼慎治と兄弟分の杯を交わす。・苗代(なわしろ)加古村組の幹部。

上早稲(わせ)二郎 呉原金融(フロント企業、社長は堅気だが実質加古村組が運営している)の経理マン。刑務所帰り、勤めてまだ1年だが今年の春から行方不明。加古村組が必死に探している。
高坂隆文 安芸新聞社報道部次長。広島県警の裏金問題を調査してたら、島根に飛ばされ、この4月戻ってくる。
吉田カツ

加古村組の向かいにあるたばこやの店主、老女。大上には世話になった。
孫のシンジは五十子会の準構成員。

物語の概要:(本書の紹介文より抜粋。)

 昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員失踪事件を追う…。心を揺さぶる、警察vs極道のプライドを賭けた闘い。   

読後感:

 今回は今まで余り読まなかった警察とヤクザ間の抗争を扱った作品で、何か得るところがあったかと思ってもどだい無理なこと。感情移入をするような所は期待しようもない。
 ただ日岡という新人刑事が大上という、刑事でありながら、暴力団の組のトップの人間とよしみを通じ、日岡から見ても刑事としてあるまじき行為をしながらも、二つの暴力団抗争に発展しないため身体を張って止めに入る姿に黙って従う様子は致し方なしとみている。

 それにしても男世界を扱ってどきづくならず、さっぱりとして時に義理と人情の世界をうまく描写している。
 そんなことを感じながらも、ラストの辺りでは読者を大いに引き込ませる内容が展開している。
 煙草を欠かさない大上があまり手に入らない貴重品の銀色のジッポー、狼の絵柄が彫りこまれているライターを気に入り購入。そのライターを日岡に預け五十子会の事務所に向かう大上。そのライターが本の表紙に使われている、行く末を暗示するかのようで意味深。

  

余談1:

 柚月裕子なる作家、子供の頃から男の世界と言われる物語が好きで、少女時代からシャーロック・ホームズの大ファン、横山秀夫に傾倒とか。なるほど今回の物語も全くの男の世界を描いていることに感服。「孤狼の血」で第154回直木賞候補作品とは知らなかったが、選評を読んでなるほど。 

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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