辻原登著 『Yの木』

              2018-01-25


(作品は、辻原登著 『Yの木』      文藝春秋による。)

          

  初出 たそがれ     「新潮」2013年5月号
    首飾り      「すばる」2015年3月号
    シンビン     「新潮」2014年6月号(「観戦」より改題)
    Yの木      「文學界」2014年10月号

 本書 2015年(平成27年)8月刊行。 

 辻原登:
(本書より)
 
 1945年、和歌山生まれ。1985年「犬かけて」でデビュー。1990年「村の名前」で芥川賞。1999年「翔べ麒麟」で読売文学賞。2000年「遊動亭円木」で谷崎潤一郎賞、2005年「枯葉の中の青い炎」で川端康成文学賞、2006年「花はさくら木」で大佛次郎賞、2010年「許されざる者」で毎日芸術賞、2011年「韃?の馬」で司馬遼太郎賞を受賞。同年、紫綬褒章を受章。2013年「冬の旅」で伊藤整文学賞を受賞。他の著書に「父、断章」「寂しい丘で狩りをする」など。 

主な登場人物:

<たそがれ> 姉と西九条駅で待ち合わせUSJに遊びに行くことに。静男がひとりで電車で向かう途中アクシデントに出会い遅れる。姉の好意の実は・・・。
脇田静男 和歌山の稲原中学2年生。
脇田文乃 姉。大阪でOL。父親の借金返済に、静男の帰りに特急で帰れるようにお金を差し出す姉。勤め先のビルを静男に車中から説明するも・・。
<首飾り> ヴェローナの「アィーダ」観劇にイタリア旅行行きとなったが、Yから、妻に内緒で銀座のママ宛てのネックレスを買って欲しいと頼まれた彼だが、大変な失敗を・・・。


本業は作家。週に一回横浜線沿線の私立大学で創作コースの学生と授業。旅に関しては面倒くさがり屋。
・妻は音楽大ピアノ科出身。長らく高校の音楽教師、今は専業主婦。

教師 Y

彼の通う大学の英語・英文学の教師。父親の遺産を相続して悠々暮らし。彼とその妻を海外旅行に誘う。
・妻は彼の妻と仲良し。

<シンビン> 秩父宮ラグビー場で関東大学対抗戦を観戦しながら携帯で関係書類の処理を指示。隣の女性とラグビーの話題を交わしていたが・・・。
野上悦子 大卒、大手証券会社勤務で、法人対象の「ファンド」営業を担当。バブル崩壊後会社は倒産。小さなベンチャーキャピタルを設立。
<Yの木> 出版社勤めから作家家業に入ったが、次第に時流に合わず、妻の死もきっかけに次は自分の番と考え出す。犬の散歩の途中に見初めたYの木で大瀬渉の自死の様子を思い浮かべながら・・・。



犬 ウー

もの書き。新聞記者志望だったが、中堅どころの雑誌出版社に入る。駆け出しの編集者だった頃、大瀬渉と出会い大瀬氏の仕事ぶりに惹きつけられた一人。
・妻 ヤマハ教室のピアノ教師。子供いない、犬を飼おうと。

大瀬渉(おおせ・わたる) 三重県立医学専門学校卒業するも、文学に志し創作活動を続け、28歳の時文學界新人賞に「ガラスの壁」で最終選考まで。その年の芥川賞にノミネートされる。
角田恒子(つねこ) 彼より5〜6歳年上、出版社の新年パーティーで5年前に新人賞を取りデビューした女流作家。家庭小説を書く。
亜里沙 彼が少年少女小説で評判をとり、銀座キャバレー「紅いバラ」に接待されたときに知り合ったホステス。駅伝出場のためマラソンをやり、普段は八丁堀の不動産屋での派遣社員。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 Yの形をした木に目をとめた男。彼はこの木を見て、奇妙な方法で自死した作家のことを思い出す。表題作ほか、人生の重要な瞬間を描き出す短篇3作を収録。どこでも見たことのない感情に、あなたは、ここで出会う。 

読後感:

 <たそがれ>は中学生の弟が和歌山から一人で姉が居る大阪にUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行くために待ち合わせ、不測の事故で遅れてしまう。待ち時間も多いテーマパークには少ししか経験しなかった。姉の脇田家への仕送りや帰りに特急列車を利用する様に小遣いを与え、自分は高層ビルの総務課で働いていると電車の窓から指さす様子に何の疑問も持たなかったが、その実の姉の姿には衝撃を隠せなかった。

 <首飾り>では、イタリア旅行でのオペラ観劇やホテルでの様子と旅行記のような描写が続き、いよいよ頼まれたアクセサリーを密かに購入。日本に帰ってきてとんだ失敗の落ちが愉快。

 <シンビン>は自分がラグビー好きなことから、描写されているラグビー用語などの内容は良く理解できていて、4つの作品の中では一番理解できた内容だった。落ちも愉快。

 <Yの木> 主人公は出版社勤務からもの書きとしてデビューすることから、描写される内容は色んな作家の作品が出てきて面食らうこと。
 特に大瀬渉の作品に影響を与えた作品のことや、自殺の詳細模様を、自分が死を覚悟したときに思い出し、小島信夫が大瀬渉の作品にコメントしていた「大瀬氏の小説はアイディア倒れ。アイディアを支えるディテールが決定的に不足」のことを実感する。

 彼自身、もの書きの才能も時流に合わなくなり、妻の死をきっかけに、そして愛犬のウーの老いも目の当たりにし、自分の番と死を考える。
 その後の行動描写ははっきり言って良く分からない。
「Yの木」の章はページ数も多く、本の題にもなっており、メインと思われるが一番わかりにくい内容であった。 
  
余談:

 特に「Yの木」にある様に、物書きとはいかに沢山の作品を読んでいるのだなあと感心することが多い。さらにどんな小説を書くかの選択で時流に合わなくなると方向を変える必要があり、そちらのことで悩むこともあるだろうし。一方、読む側として知らない作家の作品を何の情報もなく手に取るのはこれまた勇気がいること。ましてや購入するとなると。そんなことを考えていたら、作家家業も大変だ。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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