遠田潤子著 『雪の鉄樹』



              2017-10-25



(作品は、遠田潤子著 『雪の鉄樹』   光文社による。)

          
 
 本書 2014年(平成26年)3月刊行。書き下ろし作品。

 遠田潤子(とおだ・じゅんこ)(本書より)
 
 1966年、大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒業。2009年、「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2011年、弊社刊行の圧倒的な熱量を放つサスペンス「アンチェルの蝶」(第15回大藪春彦賞候補)が話題となる。近刊に「鳴いて血を吐く」。   

主な登場人物:

曽我雅雪(32歳)
祖父 清次
父 俊夫
(としお)

曽我造園の三代目。曽我造園は“たらしの家”呼ばれるように、祖父と父は女たらしの人間。
雅雪は祖父に対し、「親方として尊敬しています。でも人間としては軽蔑します」と。
・祖父は曽我造園の創業者。雅雪にとって親方。「私には情というものが理解できない」と。
・父は庭師としての腕は雅雪よりも劣り、親方からは見放されている。父の苦悩。
・母親は雅雪を生んですぐに出て行く。

島本遼平
祖母 文枝(63歳)

13年前、遼平の両親が殺されたとき、赤ん坊だった。
雅雪はその償いで何かと遼平の面倒を見るが、文枝からは許されることはない。
・島本文枝にとって雅雪は遼平の両親が殺されたあの事件の敵。

細木老
孫 隼人
(はやと)

祖父とは長い付き合いの施主にあたる。何かにつけ雅雪の理解者であり、頼りにしている人物。
・隼人は島本遼平と同じクラス。サッカー部のエース的存在。どうしようもなく乱暴で、遼平をいびる。

原田 鍼灸師、40過ぎの独身。13年前のあの事件を知る一人。雅雪が遼平の面倒を見ていることに「あんたの罪滅ぼしは間違ってる」と苦言。

真辺郁也
(まなべ・いくや)
舞子
母親

郁也と舞子は一卵性の双子の兄妹。
郁也はバイオリニストを目指しレッスンで母親と東京にしばしば出かけている。扇の家に住み、その庭を曽我造園が面倒を見ている。
郁也と雅雪(当時高校3年生)は、祖父と父の見習いで庭の手入れに行った時に知り合う。
・舞子 大阪でばあやと過ごしていたが、ばあやが亡くなり、戻ってくる。舞子は母親から無視されている存在。
・母親は美人で上品。父の俊夫がのめり込む。真辺家の実態は・・・。

永井 扇の家の後釜で購入し、細木老からいい庭師として曽我造園を紹介される。
刑事 ・本田 生活安全課の刑事。
 補足:本の題名にある“鉄樹”とは蘇鉄のことで鉄蕉(てつしょう)ともいう。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 肉親から徹底的に無視され成長した男。今、彼は少年を育てつつ、愛した女を待つ。13年間。犬のように。心の傷と、凄惨な過去を見つめながら…。人の残酷さと優しさが織りなす、凍える魂の救済。

読後感:

 曽我造園の家系で、物語の最初の方では祖父がちょっと変わっているがいかにも庭師らしいところがあると思っていた。やがて父親の俊夫が自殺したことが出てきたり、雅雪がどうして島本遼平の面倒を献身的に見ている一方で、祖母の島本文枝が雅雪に対して理不尽なくらいにつらく当たるのか分からない。

 遼平に対し、細木老の孫の隼人が意地悪をする理由も分からない。遼平が雅雪を慕ったり、隼人から聞かされた過去のことで、雅雪に嘘呼ばわり、だまされていたと粗暴になったりするも、やがて雅雪に本当のことを雅雪から聞きたいと言い出す。
 そこから後半にかけ13年前のあの事件の真相や曽我造園の祖父と父、雅雪の家族関係の内情が、さらに真辺家の家族の内情が展開され、様々な事情が赤裸々に明かされる。

 それだけで終わらず、遼平と雅雪のこれまでの生き様が語られ、自殺した郁也の苦しみ抜いた事情が吐露されると共に父親の自殺の理由も明かされていく。
 ラストのシーンも読者をドキドキさせるサスペンスもあり、注目の作家にまたひとり出会った感じである。
  
釣忍:
小説の中で雅雪が大事に育てていた造作。
余談:

 庭師の修行についての描写を読んでいると、思い出す小説が頭をよぎった。そう木内昇「櫛挽道守」。
 そして雅雪が食事を終え、料理の乗っていた空の皿に吸い殻を山盛りにした行為を舞子にとがめられ、何故悪いか分からない雅雪に、細木老から話を聞いて反省する姿が素直ですがすがしい。
 また舞子が家庭の中で母親に無視されている事を知り真辺家の兄妹の育ち方、曽我家の祖父と父親の関係の難しさ、特に庭師とか音楽家の才能の有無によって人生が変わってしまう恐ろしさが痛ましい。
  
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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