物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
石川一登は、妻と思春期の兄妹の家族4人で平凡な暮らしを営んでいた。ある日、高校生の息子・規士の友人が殺された。息子は犯人なのか、それとも…。相反する父と母の望みが交錯する。比類なき心理サスペンス。
読後感:
石川規士の家族におきた友人の、倉橋与志彦の殺人事件に巻き込まれた事件で、父親や母親、娘の雅に降りかかってきた災難。規士の行方は知れず、警察の加害者扱いの様な扱い(被害妄想かもしれないが)、マスコミの執拗な取材攻勢に加害者なのか、あるいは被害者なのかの夫婦の見方の不一致。さらには加害者の場合の将来への不安と言った、一見自分にも日常起こりうるシチュエーションに遭遇したときの恐ろしさが想像でき、そんな時自分ならどんな対応をしなければならないかと考えてしまう。
日頃警察に対しては、自分たちの見方と思って見ているけれど、一端自分に降りかかってくると、何の頼りもない個人に対し、大きく襲いかかってくる権力に果たして立ち向かえるのかと不安になってくることは、例えば交通違反で職質を掛けられたときの権力に対する個人の弱さを経験したことがあるので、その後は警察に対する恐ろしさ、冷たさは理解できる。
またマスコミに対する容赦の無い取材攻勢には本当に腹が立つ思いでこの石川家族の思いも理解できる。
規士が行方不明で、情報は警察からはほとんど知らされず、マスコミと、真実か否か分からぬネット情報や噂ばかり。父親と母親の息子に対しての考えは、父親は、規士は人殺しなどする人間ではない、むしろ被害者と思いつつ、取り上げた切り出しナイフが無くなっていることに揺らぐ気持ち。一方母親は、むしろ加害者として親が受け入れ、受けて立とう、ただ生きていて欲しいと願う親心。雅は兄が加害者だと自分の将来はどうなるのかと心配する。
世間の嫌がらせやマスコミ攻勢に身も心もズタズタにされながらも、体の弱い貴美子の母親の言葉に慰められ、許された思いに。
ミステリーという意味でもラストまで、真実がどうであったか、その結果どんな風になったか興味のあるところ。
現実に起こりうる題材でぐいぐい展開する話は、現代の世の中の様をあぶり出しているようである。
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