桜木紫乃著 『氷の轍』

 

              2017-02-25



(作品は、桜木紫乃著 『氷の轍』   小学館による。)

          

  初出 1節〜4節 「STORY BOX」2016年3月号〜2016年10月号
     5節〜10節 書き下ろし。

  本書 2016年(平成28年)10月刊行。

 桜木紫乃(本書より)
 
 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール読物新人賞を受賞。07年同作を収録した初の短編集「水平線」が新聞書評などで絶賛される。13年「LOVE LESS(ラブレス)」で第19回島黄清恋愛文学賞を受賞。他の著書に映画化された「起終点駅(ターミナル)」、「凍原」「ブルース」「霧(ウラル)」「裸の華」などがある。 

主な登場人物:


大門真由(だいもん)
父親 史郎
母親 希代
(きよ)

道警釧路署刑事課強行班係の巡査長。
・父親は刑事課から交通課にいて退職して5年、脳梗塞で倒れて1年言語障害、左半身召されてリハビリ中。真由は実父。
・母親は元婦警。子育てと介護の連続。真由とは血のつながりはないが。読書家。「誰が生んでもうちの娘」と。

片桐周平

釧路署警部補。万年現場主義が肩書きの捜査官。昇進に興味なし。滝川信夫殺しで、真由との期待されていないコンビ。

松崎ヒロ 釧路署の数少ない女性のひとり、真由の先輩。
北浄土寺の和尚

生まれてすぐにお墓に捨てられていた真由を大門史郎、希代夫婦に預ける。
剣道の師匠でもあり、片桐とは40年来の付き合い。

滝川信夫(80歳)
弟 和郎

札幌市南区真駒内で一人暮らしの元タクシー運転手。釧路の千代の浦海岸で季節的に違和感のある麻の半袖シャツで上がる。
・和郎は八戸で滝川治療院を営む。

米澤小百合
夫 仁志
息子 太一

宏美とよし美は双子の姉妹。ふたりとも宗教法人“徳創心教”のお徳様の役職。小百合に入信するよう説いている。

兵藤恵子
夫 郁男

30年前夫が保険代理店を開業。夫亡き後保険外交員として継ぐ。
恵子は米澤小百合一家と家族ぐるみの付き合い。(夫の仁志とは別に)

加藤千吉 米澤小百合の養父。青森出身。

行方佐知子(なめかた)

青森十和田で老人ホーム「ホーム潮風」に。北原白秋の詩集を送られるも手放し、くしくも滝川老人宅で滝川信夫蔵書と署名された本が見つかる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 北海道釧路市の千代ノ浦海岸で他殺死体が発見された。被害者は滝川信夫、80歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁をひもといてゆく。

読後感:

 先にテレビドラマで「氷の轍」を見ていたが、本作を読んでいるとドラマの内容が思い出せない。どうも似ていない印象がわき上がり思わずネットで予告編を見てしまった。
 原作は原作、異なっていてもそれはそれ。
 小説はやはりいい。登場人物の思いも表現されているし、役者のイメージとは違って自分のイメージで膨らませるから。

 小説で釧路から青森八戸に被害者の滝川老人が何故殺されなければならないのかを求めて、素性探しに赴く描写は情景が目に浮かぶようで雰囲気を感じられ印象深い。
 場末の女座長の生き様を描写するところの情景は、いかにも時代を反映していて忍ばれる。特に釧路と海を隔てた青森八戸の雰囲気の違いといい、水上勉の「飢餓海峡」の印象が絡み合って胸に深く響いてきた。

 大門真由の、生い立ちも自分のルーツも気にしないで、母親希代と真由の間は、血のつながりのないながら二人のやりとりには味のある会話が交わされる。
 兵藤恵子と真由が釧路に戻るフェリーの中で、恵子の話を聞き、真由が自分も養女であることを告げ、やりとりするシーンは何か達観させるような響きで“真実ひとりは堪えがたし”のフレーズが胸を打つ。
 滝川老人の老いて後悔をし、旅番組の画面に映し出された女性に会いに行く動機よりも、兵藤恵子の、小百合に対する思いの方に感情移入が起きるのはまともなのかと思ったり。

  

余談:

 相方の先輩片桐の雰囲気は以前読んだ乃南アサ著の「凍える牙」等の音道貴子の相棒刑事滝沢保の印象に近い感じで結構楽しめた。
覚え書き:
 他と我   北原白秋
 二人デ居タレドマダ寂シ
 一人ニナッタラナホ寂シ
 シンジツ二人ハ遣瀬ナシ
 シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。  

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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