物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
北海道釧路市の千代ノ浦海岸で他殺死体が発見された。被害者は滝川信夫、80歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁をひもといてゆく。
読後感:
先にテレビドラマで「氷の轍」を見ていたが、本作を読んでいるとドラマの内容が思い出せない。どうも似ていない印象がわき上がり思わずネットで予告編を見てしまった。
原作は原作、異なっていてもそれはそれ。
小説はやはりいい。登場人物の思いも表現されているし、役者のイメージとは違って自分のイメージで膨らませるから。
小説で釧路から青森八戸に被害者の滝川老人が何故殺されなければならないのかを求めて、素性探しに赴く描写は情景が目に浮かぶようで雰囲気を感じられ印象深い。
場末の女座長の生き様を描写するところの情景は、いかにも時代を反映していて忍ばれる。特に釧路と海を隔てた青森八戸の雰囲気の違いといい、水上勉の「飢餓海峡」の印象が絡み合って胸に深く響いてきた。
大門真由の、生い立ちも自分のルーツも気にしないで、母親希代と真由の間は、血のつながりのないながら二人のやりとりには味のある会話が交わされる。
兵藤恵子と真由が釧路に戻るフェリーの中で、恵子の話を聞き、真由が自分も養女であることを告げ、やりとりするシーンは何か達観させるような響きで“真実ひとりは堪えがたし”のフレーズが胸を打つ。
滝川老人の老いて後悔をし、旅番組の画面に映し出された女性に会いに行く動機よりも、兵藤恵子の、小百合に対する思いの方に感情移入が起きるのはまともなのかと思ったり。
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