恩田 陸著 『錆びた太陽』

 

              2017-06-25



(作品は、恩田 陸著 『錆びた太陽』   朝日新聞出版による。)

          

 初出 「週刊朝日」2015年6月12日号〜2016年3月18日号。
 本書 2017年(平成29年)3月刊行。

 恩田 陸(本書より)
 
 
1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒。92年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補となった「六番目の小夜子」でデビュー。2005年に「夜のピクニック」で吉川英治文学新人賞と本屋大賞をダブル受賞。06年には「ユージニア」で日本推理作家協会賞、07年には「中庭の出来事」で山本周五郎賞、17年には「蜂蜜と遠雷」で直木賞を受賞。著書に「ネクロポリス」「きのうの世界」「六月の夜と昼のあわいに」「EPITAPH東京」「消滅−VANISHING POINT」「失われた地図」「終わりなき夜に生まれつく」他多数。
 
 

主な登場人物:

財護徳子 人間。国税庁の調査員、30歳未満。3日間の予定でマルピーの実態調査に立ち入り制限区域にやってくる。

ヒューマノイド
(人型ロボット)

7人の屈強な男たち。伝説のウルトラエイト。立ち入り制限区域のパトロールの役目をベースキャンプで行っている。
・ボス 
・デンカ  七三分け。言葉は女形。
・マカロニ 肩までの長髪。
・ジーパン パンチパーマ。
・ヤマ   リーゼント。
・ゴリ   スキンヘッド。
・チョー  三つ編みのお下げ髪。
・シンコ  八人目の、水越事件の後行方不明の隊員。

トンボ 建物に組み込まれた人工頭脳(女性)。あらゆる情報が集まっている。
アルジャーノン ネズミ。新種の化学物質に敏感。ガラスケースの中にいる。
マピオンの一部

・湯川真奈美 老婆。眼球の動きで入力できるキーボードを操り会話が出来る。九十九(つくも)生命科学研究所の「最後の事故」で行方不明になっていた博士。
・島津健人 大人の方、耳は聞こえるが、話すことは忘れてしまった感じ。
・北里航平 子供の方。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 人間が立ち入れなくなった地域をパトロールするロボット「ウルトラ・エイト」。彼らの居住区に、ある日、人間が現れた。彼女の目的は一体、何なのか…初回限定メッセージカード付き  

読後感:

 読み始めはSFもどきの作品かと思った。ところが確かに近未来に起こりうるかも知れない原発の爆発に伴う立ち入り制限区域での人型ロボットによる監視部隊とマルピーという放射線被害を受け変形してしまった(?)ゾンビ、そして財護徳子なる人物とのミステリアスな物語である。
 わずか3日間の出来事が人間世界の出来事のように展開、とにかく財護徳子のキャラクターが面白い。

 マルピーの実態を調べたいと乗り込んできた若い女性、でも人型ロボットの7人のヒューマノイドのボスとの関わりで、知識としては素晴らしい物を有しているボスたちに、感情とか人間くささ、こころといった人型ロボットには持っていない面を次第に感じさせるやりとりが物語を魅力ある物にしている。またボスには、徳子がどこかで見たような顔、さらにまだ秘密を持っていそうなミステリめいた物を感じさせられたり、徳子の言う事柄に驚かされたり、天真爛漫な言動に振り回されたり。
 わずか3日間の交わりなのに何ヶ月も一緒にいるような感覚を味わってしまうところは筋の運びが優れている証拠。b
 この所著者の恩田陸は「蜂蜜と遠雷」での直木賞と本屋大賞のダブル受賞と飛ぶ鳥を落とす勢い、やはりその人の作品と言うことで多少バイアスが掛かっていたり。
 挿入されている挿絵がいかにも謎めいた絵が随所に挿入されていてこれもまた面白い。
 

  

余談:

 恩田陸作品は以前「夜のピクニック」を読んでいた。「蜂蜜と遠雷」は読んでみたいが、図書館の予約数は多数で当分読める見込みはなし。たまたま新作のリクエストで新作を手にすることが出来たわけである。気になって直木賞の選評を見てみたが、
・「長尺にも拘らず、一気に読めるのは作者の筆力故であろう。(桐野夏生評)
・「インターミッション」まで読んだところでインフルエンザで寝込んでしまいました。何とか体調が戻ってまた読み始めた際、そこまでの話の流れや登場人物たちのキャラクターが細部まで心に焼きついていたので、まったく中断の影響を感じませんでした。その時点で、この作品の受賞を確信しました。」(宮部みゆき評)
 作品の内容は別にして特に印象深い。また幾度となく直木賞候補作品として上がっていたこともあることも。 

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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