奥田英朗著 『沈黙の町で』

 

              2017-07-25



(作品は、奥田英朗著 『沈黙の町で』   朝日新聞出版による。)

          

 初出 朝日新聞 2011年5月7日〜2012年7月12日。単行本化に際して、加筆修正。
 本書 2013年(平成25年)2月刊行。

 奥田英朗(おくだ・ひでお)(本書より)
 
 1959年生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て、1997年「ウランバーナの森」でデビュー、作家活動に入る。2002年に「邪魔」で大藪春彦賞、04年「空中ブランコ」で直木賞、07年に「家日和」で柴田錬三郎賞、09年に「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞。著書に「最悪」「イン・ザ・プール」「マドンナ」「我が家の問題」「噂の女」など多数。 

主な登場人物:

<桑畑市立第二中学> 北関東に位置する内陸の小さな都市、桑畑市の中学。
2年A組

・担任 飯島浩志(国語の教師、30歳)
・市川健太
(13歳)テニス部。明るい性格でクラスの人気者。目立ちたがりや、流されるタイプ。母親: 恵子。
・坂井瑛介
(14歳) テニス部。大柄で木訥なしゃべり、3年の不良グループにも一目置かれている。母親:百合、40歳。母子家庭。
・安藤朋美
(ともみ) 勉強が出来て活発。坂井瑛介に好意を持っている。

2年B組

・担任 清水華子
・名倉祐一
(13歳) テニス部。地元で有名な呉服店の息子。小柄で気の弱そうで、いじめを受けそうな男の子。一方で女子には威張る。構内の部室棟側の側溝に血を流して倒れていた。
母親:寛子・金子修斗
(13歳) テニス部。
・藤田一輝
(14歳) テニス部。父親は地元建設会社の役員。
     母親の父は県会議員富山誠一。
・中川愛子 安藤朋美と仲良し、1年生の時は同じクラス。
・井上拓哉 二年生の不良グループのリーダー。

その他の桑畑中学関係者

・宍戸潤一 校長
・後藤 テニス部顧問。1学年の担任。
・中村 2年の学年主任。
・米田 3年の不良グループの番長。

警察関係者

<桑畑警察署関係>
・駒田 署長、警視正。4月に赴任してきたばかり。
・島本 副署長、警視。広報を担当。
・豊川康平 刑事課の刑事
、30歳。飯島浩志とは高校の元同級生。
・石井 新任の刑事。
・古田 刑事課の課長。
<県警>
・小西 捜査一課長、警視正。

地検関係者 ・橋本英樹 東京地検での集合教育と京都地検での1年間の見習い期間を経て新任明けとして北関東にある地方検察庁に赴任の28歳、独身。
報道関係者

・高村真央 全国紙の中央新聞記者、24歳。昨春大学卒業して入社、地方勤務に。
・長谷部 一国新聞。高村とは同大学、同学部出身で顔見知りの地元記者。

その他

・名倉康二郎 名倉祐一の叔父、名倉呉服店の専務。「ちょっと変わった親戚」の評価。
・堀田 ヤメ検(検事から転身した弁護士)。藤田一輝の弁護士。坂井瑛介の弁護も兼ねる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 転落死した男子中学生をめぐって、被害者家族、加害者とされる少年たちとその親、学校、警察までも巻き込んで、それぞれの感情と思惑が錯綜する…。朝日新聞連載時に大反響を呼んだ衝撃の話題作、ついに単行本化。   

読後感:

 仲間の口裏合わせを防ぐために早々と障害で逮捕に踏み切った警察、しかも14歳の二人は逮捕、13歳の二人は児童保護所預かりと少年法の年齢による差が明暗を分ける。
 少年を扱う事案は世間からは厳しい目で見られる。

 物語は警察側、学校側、報道関係そして加害者と被害者さらには生徒たちの側からと複合的に展開、その背景を描き出している。
 しかも障害は認められても、死に至る致死傷については目撃証人が見つからず、崩すことが出来ないまま事態はなかなか収束を見ないで時間が過ぎてゆく。

 今日もいじめの問題でこの種の出来事が頻発しているが、物語では実にそれぞれの立場で展開、描写があり、それぞれの立場で理解が得られる内容で、果たして事件はどのような結末が待っているのか興味津々である。

 被害者の名倉寛子は子供を亡くし、真相を知りたくても学校側からも、警察からも知らされず、精神的にも疲弊し学校側に難題を要求する。学校側ではその対応で職員室は分裂状態に。また逮捕、補導された家庭の中には夫の、仕事にかまけて関心の薄さに亀裂が入ったりと、それぞれの日常は元に戻ることがない。

 物語は名倉祐一が生存していた頃の状況描写を挟みながら若い検察官の時間をかけた加害者とされる生徒との聞き取りと、警察の全校生徒への地道な聞き取りから次第に背景が明らかにされていくが、中学生という大人とは別の感覚を持つことでなかなか真実を話していないことが・・・・
 死の真相は明らかになるのだろうか・・・。

  

余談:

 扱っている相手が中学生となかなか難しい年頃のこと故、親のしつけや家庭の雰囲気がいかに大事であるか、また事が起きたときにどう対処するか、その生き方、考え方をしっかり持っていないといけないとつくづく感じた。
 母子家庭の坂井瑛介の母親百合は不安ながらもしっかりしていて、子供に言った言葉がしっかり瑛介に届いていることに心意気を感じた。
 

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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