荻原 浩著 『さよなら、そしてこんにちは』

 

              2017-06-25



(作品は、荻原 浩著 『さよなら、そしてこんにちは』   光文社による。)

          

 初出 さよなら、そしてこんにちは 「小説宝石」2007年10月号
    ビューティフルライフ    「小説宝石」2003年3月号
    スーパーマンの憂鬱     「小説宝石」2005年4月号
    美獣戦隊ナイトレンジャー  「小説新潮」2003年6月号
    寿し辰のいちばん長い日   「小説すばる」1999年7月号
    スローライフ        「小説宝石」2003年9月号
    長福寺のメリークリスマス  「小説宝石」2004年1月号

 本書 2007年(平成19年)10月刊行。

 荻原 浩(本書より)

 1956年生まれ。広告制作会社を経て、1997年、「オロロ畑でつかまえて」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。軽妙洒脱、上質なユーモアに富んだ文章には定評があり、行間に人生の哀歓が漂う。次々と新しいテーマに挑む、現在最も注目されている作家。2004年10月刊行の、若年性アルツハイマーを扱った「明日の記憶」で第18回山本周五郎賞を受賞。渡辺謙主演の映画も大ヒット。「あの日にドライブ」は第134回直木賞の候補に。本書は二作目の作品集で、時代に翻弄される人々を描く。著書は他に「なかよし小鳩組」「噂」「誘拐ラプソディー」「母恋旅烏」「コールドゲーム」「神様からひと言」「メリーゴーランド」「俺たちの戦争」「さよならバースディ」「押し入れのちよ」「四度目の氷河期」「千年樹」「サニーサイドエッグ」他。  

主な登場人物:

<さよなら、そしてこんにちは>

妻の出産とその病院で亡くなった若い娘さんとの悲喜こもごもの場面に遭遇した葬儀社の陽介・・・。

尾崎陽介
妻 純子
娘 明日南
(あすな)

葬儀社「華岡典礼」の社員。仕事歴4年半。
・純子 臨月で産婦人科に入院中。
・明日南(あすな) これから生まれてくる赤ん坊の名前。

<ビューティフルライフ> リストラされ農園経営にと東京から引っ越してきた家族。子供たちにとっては新しい環境は希望通りではなかったが・・・。

朝岡晴也
父 政彦
母 律子
姉 ひかる

不登校の中学3年生、14歳。果たして登校はどうなる?
・政彦 半年前リストラされ、農園経営を目指して引っ越し。
・律子 
引っ越しに賛成していたが、物価の高さにヒステリー。
・ひかる ぽっとん便所に、携帯つながらないなど東京に帰ると。

鈴垣
ちか

300メートルは離れたお隣さん。
・ちか 中学3年生の切れ長の目の女の子。

<スーパーマンの憂鬱> 主婦をターゲットの高視聴率の情報番組で紹介される商品がもたらす仕入れの悲哀。

松田孝司
妻 亮子
(りょうこ)
娘 美里

スーパーマーケットの食品課・非生鮮係長。加工食品や菓子などの売り場の責任者。
・美里 小学5年生の反抗期。

<美獣戦隊ナイトレンジャー>

姑の目も気にし、息子を餌に週末のひとときの恋の逃避行。ナイトレンジャーのカズマに会いに行った先で知ったことは・・・。

由美子
夫 雅之
息子 秀太
娘 鞠萌
(まりも)
姑 久子

二児の母。毎週金曜日の夕方、テレビの「美獣戦隊ナイトレンジャー」のひとりカズマの大ファン。
・雅之 家電メーカーで埼玉地区の販売店担当営業。
・秀太 この春小学生に。携帯ゲームのロールプレイイングゲームに夢中。
・鞠萌 もうすぐ10ヶ月。

<寿し辰のいちばん長い日>

本当の職人気質の辰五郎、店に来た“グルメ評論家?”と覚しき男に・・・。

松崎辰五郎
息子 健司

35年寿司を握って、腕に覚え、魚を見る目も確かな孤高の芸術家。
・健司 暴走族上がりの下働き。

<スローライフ> イタリアでの4年暮らしで得た物が・・・、時代の風向きが変わり「スローライフ」「スローフード」が花盛り。

湯村美也子
夫 尚之
娘 玲乃(れの)

料理研究家、文筆業の兼業主婦。イタリアで4年暮らし。
・夫の尚之 商社マン。
・玲乃 イタリアにいたとき生まれた、今は高校1年生、15歳。

<長福寺のメリークリスマス>

お寺の僧侶、クリスマスを祝えるのか? 眼の中に入れても痛くない娘の願いをどうする?

覚念
妻 絵里奈
娘 うてな

田舎寺の由緒ある長福寺の住職になって5年。
・絵里奈 9歳年下の妻。「なんで、うちは、クリスマスをしないの?」と。
・うてな 3歳、舌がまだ回らない状態で母親の言葉を繰り返す。

慈海老師 長福寺に推挙してくれた恩師。正照寺の住職、2年前に奥さん(光子)を亡くされ酒をたしなむように。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 テレビ番組の健康コーナーを日々チェックしながら仕入れに追われる、スーパーの食品売場責任者。若い妻と愛娘にクリスマス・パーティをねだられる住職。プロフェッショナルの悲哀を描く著者独壇場の傑作集。  

読後感:

 七話の短編集であるが、それぞれユーモアとウイットに富み、現在の風潮を皮肉も込めて取り上げた素材がいい。
 特に印象深かったのは
<さよなら、そしてこんにちは>
 人は誰でも死ぬ。葬儀社の話は自分にとってもすごく身近なことで、葬儀屋さんの行動、内容には関心がある。ラストの妻の出産、新しく生まれてくるだろう娘の将来を夢見てる陽介と実際に今扱っている仕事のアンバランス、そして生まれてきた娘の喜びと一方で若くして闘病そして死を迎えた家族に相対することになって、どう行動したか。そしてその相手のすてきな言葉が素直にほっこりと受け止められた。

<長福寺のメリークリスマス>
お寺でのクリスマス、どうする?。3歳の娘と、妻の絵里奈の願い。娘の満足に話せないまでもその話す言葉や行動にボロボロ。妻の絵里奈のこれまた発する言葉がなんとも若々しくて親密感があって善い。恩師である慈海の、妻を亡くした後の行動も人間味があって法話も聞かせる。
もうひとつ<ビューティフルライフ>
 田舎暮らしに舵を切った父親、娘や息子の不満を受け止めながらもせっせと自らもくたくたになりながらなだめる父親像。いとおしくなってしまう。
 息子の不登校もあっけなく解消してしまう力はやっぱりこんなところだったか。


 印象に残る場面:
 
<長福寺のクリスマス> 慈海老師の法話の一部
 お釈迦様の不可思議な言葉
「この子の病を治すには、芥子の実が必要だ。家々を訪ねて、もらってきなさい。ただし、その芥子は、いままでに死人を出したことのない家からもらってくるのだよ」と。
 だが、女には芥子の実がひと粒も手に入らなかった。今までに死人を出したことがない家など一軒もなかったからだ。そこで女はようやく気づいたのだ。お釈迦様の言葉の意味を。
「生あるものには、必ず死がある。いつかは死が人を分かつ。それを受け止めて生きていくのが、人生というものじゃ」

  

余談:

 
荻原浩作品、軽妙洒脱という言葉がぴったり。先に読んだ「明日の記憶」とはまた別の、普段の風景から著者のセンスが伺え心が温まる。 
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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