荻原 浩著 『あの日にドライブ』

 

              2017-07-25



(作品は、荻原 浩著 『あの日にドライブ』   光文社による。)

          

初出 「小説宝石」の連載(2005年6月号〜10月号)を著者が再構成し、大幅に加筆・訂正。
本書 2005年(平成17年)10月刊行。

 荻原 浩(「さよなら、こんにちは」より)
 
 1956年生まれ。広告制作会社を経て、97年、「オロロ畑でつかまえて」で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。軽妙洒脱、上質なユーモアに富んだ文章には定評があり、行間に人生の哀歓が漂う。04年10月刊行の、若年性アルツハイマーを扱った「明日の記憶」で、第18回山本周五郎賞を受賞。本作の主人公は、人生の岐路すべてで誤った選択をしたと思っている。テーマは、人生のやり直し。次々と新しいテーマに挑む、現在最も注目されている作家。著書は他に「なかよし小鳩組」「ハードボイルド・エッグ」、「噂」、「誘拐ラプソディー」、「母恋旅烏」、「コールドゲーム」、「神様からひと言」、「メリーゴーランド」、「俺たちの戦争」、「さよならバースディ」がある。  

主な登場人物:

牧村伸郎(43歳)
妻 律子
(44歳)
娘 朋美
息子 恵太

タクシードライバーになって3ヶ月。メガバンクではないが、それなりのなぎさ銀行に20年間勤めた後、上司へのただ一度の不服従の一言で辞めた。
・律子 
小さな食品販売会社に勤務していた時に伸郎と知り合う。
・朋美 中学1年生。なにかと潔癖な年頃。
・恵太 小学3年生。

わかばタクシーの人間

・山城 相番(同じ車両を使うパートナー)ギャンブル好き。
・隊長さん(通称) 最高齢のドライバー。定年後も元気な内は仕事をしたいと。

なぎさ銀行時代の人間

・松野 最初に配属された品川支店の直属上司。上司には頭を下げた反動のように、部下の前ではふんぞり返る。
・徳田 日本橋支店の支店長時代、牧村伸郎を辞めさせる因となる人物。

村岡恵美 伸郎とは大学時代同じサークル。聡明でセンスがよく、きれいな娘。サークル内では似合いのカップルで通っていた。卒業後はデパートに総合職として就職。既に結婚。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 人生、今からでも車線変更は可能だろうか。元銀行員のタクシー運転手は、自分が選ばなかった道を見てやろうと決心した…。「明日の記憶」の著者による、哀愁と感動の傑作長編小説。 

読後感:
 
 大手級のなぎさ銀行を上司(徳田支店長)への暴言が元で出向させられ、退職。車が好きだったことでとりあえず選んだタクシードライバーの道。小さなタクシー会社に就職して、二種免許を会社の支援で取得、慣れない運転、厳しい条件にノルマをクリアーするにはとうてい届かない日々が続く。
 タクシー運転手の厳しさを味わい、隊長と呼ばれる、ノルマをこなし、時にはトップの営収を上げる老運転手の車を尾行してそのわけを知ろうとしたり。

 試行錯誤の中で学生時代に付き合っていて、その後疎遠になってしまった、桜上水に住む恵美の実家の周辺に通い、昔のことを思ったり、結婚し、子供とのことを夢想したり、自分の人生の曲がり角を違った道に進んでいれば・・と現実と夢想の間を行ったり来たり。
 客を拾うこつを次第につかんでくると余裕が出てきたのか、さらに夢想が・・・。

 そして夢に抱いていた恵美の実像を目の当たりにした時、やっと気付く。今の生活はちっとも悪くないことを。この辺りのユーモラスなシーンは著者の真骨頂か。
 ラストの因縁の徳田支店長を乗せて向かうタクシーの中でのシーンも、人間の裏をのぞかせる姿に哀感を感じたり、先の読めない人生のわからなさを暗示していたり。何かほっとする余韻を残すものだった。
 

  

余談:

 本作品は第134回直木賞作品の候補に挙がっていて、参考に選評を見てみた。「印象としては程よく描かれているが、インパクトが弱い」、「上手な作品である。一頭地を抜く迫力が・・・」、「小説らしい小説。わたししか推さなかったのは意外」など。そりゃあ、読者の人生とどれだけ関わりがあったかによって感じ方も変わると思うけれども。 

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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