小川糸著 『つるかめ助産院』




 

              2017-04-25





(作品は、小川糸著 『つるかめ助産院』   集英社文庫による。)

           

初出 2010年12月、集英社より刊行。
本書 2012年(平成24年)6月刊行。

 小川糸(本書より)
 
 1973年生まれ、著書に小説「食堂かたつむり」「喋々喃々」「ファミリーツリー」「あつあつを召し上がれ」、絵本「まどれーぬちゃんとまほうのおかし」、エッセイ「ようこそ、ちきゅう食堂へ」などがある。2011年「食堂かたつむり」でイタリアのバンカレッラ賞を受賞した。
   

主な登場人物:


小野寺まりあ
<私>

人と関わるのが面倒で、ずっと人付き合いを避けながら生きてきた。高校を卒業してすぐに小野寺君と同棲、20歳で入籍、ほぼ専業主婦。1ヶ月半前小野寺君が突然姿を消し、私は彼を探して南の島に。私は捨て子。

鶴田亀子
<つるかめ先生>

南の島の“つるかめ助産院”の先生。年の頃なら50前後の女の人。
パクチー嬢 助産院の正式なスタッフ。ベトナムからの研修生の若い女の子。私と同い年。
エミリー 助産院の正式なスタッフ。
サミー ボランティアスタッフ。世界一周の途中の旅人。置いてもらっている代わりに畑仕事など。
長老 50代前半の歯抜けのボランティアスタッフ。海の男。
他に島の人たち

・艶子(つやこ)さん
不眠症で拒食症の妊婦。先生は私に艶子さんの“手当て”を依頼、才能を見いだしてくれる。
・サヨリちゃん(妊婦)と彼氏のコウジ君
・「パーラーさすらい」のオーナー

安西夫婦 娘(聡子)さんを海で亡くし、小学4年生の私を引き取っての育ての親。
小野寺君 まりあが高校生の時の家庭教師で恋に落ちる。デザイン事務所を辞め、突然姿を消す。一度まりあと南の島に来たことがある。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 辛い出生の秘密を抱えるまりあは、ある日突然失踪した夫を探して、南の島を訪れる。島の助産院の先生から予期せぬ妊娠を告げられて…。「食堂かたつむり」の小川糸が、全ての命に贈る誕生と再生の物語。

読後感:

 時に小川糸のような作品を読みたくなる。うる覚えながら南の島の映像が印象的でNHKテレビドラマで見たことがある。そんなことで集中してでなく、時折時折で読みつづった。
 さすが出産シーンは映像では見づらいシーンもあったが、小説だとこういうものだったのかと知ったり。
 
 まりあが、自分だけが不幸な人間と思い上がっていたことがそれまで本気で言い合いをしたことがなかったのに、自分をさらけ出して相手とぶつかり、その時はお互い傷つけ合ったりしたあと、先生の言葉に反省したり、命を落とした長老の思いを先生から聞かされて人の優しさに触れたり、安西夫妻からの思いを知らされたり。

 助産院での出産の様子を目の当たりにし、自分もお腹に赤ちゃんを宿し、大きくなっていくお腹を抱えながら、心境が変化していく様子が、いかにも南の島の環境が変えさせてくれている様で胸にじ〜んとしてくる。


印象に残る言葉:

「パーラーさすらい」のオーナーの言葉:
「大きい木には大きな影ができるし、小さい木には小さな影しかできないの。亀子は誰が見ても大きくて立派な木よ。でも、あんなに明るくて元気だからこそ、その内面に真っ黒い影を包んでいるのかも知れない」

 しんみりとした声でマスターは言った。私は今まで、先生の光の部分しか見ようとしてこなかった。けれど、影の部分も含めて丸ごとその人を受け入れるということが、本当に愛するということなんだと思った。マスターはきっと、心から先生を愛している。

「一つだけ、いいことを教えてあげる」
 マスターは、茶目っ気のある目で私を見た。なんですか?と目で問いかけると、
「人生で一番悲しいことってあるでしょう? それを話せるってことが、その人を愛している証拠なの。残念ながらアタシは、ヨメにはきちんと向き合えなかったから・・・」
 人生で一番悲しかったことを、私もまだ小野寺君に話していない。 

  

余談:

 文庫本の最後に特別対談が掲載されていた。宮沢りえさんと小川糸さんの。
 本作の主人公のモデルというか彼女と会ったことから生まれてきたこと、出産の際の感情の裏話を知った。また「食堂かたつむり」の初期作品のことを知り、次に読みたくなった。
 ちなみに携帯電話に対する思いを知り、自分と同じような思いでいることに親しみを感じた。
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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