本書 2008年(平成20年)1月刊行。書き下ろし作品。
小川糸:(「つるかめ助産院」より) 1973年生まれ。作詞家・春嵐として音楽制作チームFairlifeに参加。 著書に絵本「ちょうちょ」(講談社)。ホームページ「糸通信」
主な登場人物:
倫子(25歳) <私>
ルリコ <おかん>
根岸恒夫 (通称 ネオコン)
熊さん (本名 熊吉)
物語の概要:(図書館の紹介記事より。) 衝撃的な失恋とともに声を失った倫子は故郷に戻り、実家の離れで食堂かたつむりを始める。ここの料理を食べると、恋や願い事が叶うという噂とともに、食堂は評判になるが…。 読後感: 物語の出だしから、痛烈なショック状態に見舞われた倫子は祖母のぬか床を抱え、10年振りに小さな人口5千足らずの静かな村に戻らざるを得なかった。嫌いなおかんの元なんとか豚の“エルメス”の世話係として住むことを許され、料理店を開店するために高い利息をつけておかんから金を借り、店作りに取りかかる。 料理店といっても一日一組しか取らず、お客の希望を事前に聞き取り、それでメニューを工夫するとは,そんなことでやっていけるのかとちょっと心配になるぐらい。 でもその料理メニューのバラエティーというか、素材に対する知識とかは、豊かで理想的でまさにファンタジーといったところ。 さらには倫子はショックが元で声が出ないハンディまで背負っているとは。でも物語の中の倫子はそんなことは何も感じさせないぐらい自然な振る舞いに気になることも感じさせない。 村人の気持ちも優しさが溢れていてこんな世界があったらこんな幸せはないだろう。 感動的なのは、豚のエルメスの最後である。全く人間と同じ扱いの臭いと人間味(?)が感じられて思わずうるうるときてしまう。 ふくろう爺の種明かしも騙された! そして嫌いだったおかんとの関係もかくもありなんとの納得状態で・・・。
先に読んだ「つるかめ助産院」(集英社文庫)の最後に掲載されていた宮沢りえさんと小川糸さんの特別対談を読み返したら、小川糸の書きたかったリアルさのイメージや、宮沢りえさんの感動シーンの表現はさすがに作家さん、俳優さんの感覚なんだなあと改めて感心させられた。