貫井徳郎著 『宿命と真実の炎 』

 

              2017-08-25



(作品は、貫井徳郎著 『宿命と真実の炎』   幻冬舎による。)

          

 初出 「ポンツーン」2014年2月号から2015年7月号に掲載された原稿を元に、新たに構想を練り直して全面的に書き改めた、書き下ろし作品。
 本書 2017年(平成29年)5月刊行。

 貫井徳郎(本書より)
 
 1968年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞最終候補作となった「慟哭」でデビュー。2010年にて第63回日本推理作家協会賞受賞。「後悔と真実の色」にて第23回山本周五郎賞受賞。「愚行録」「乱反射」「新月譚」「私に似た人」で直木賞候補に選ばれている。その他「失踪症候群」ほか症候群シリーズ、「転生」「さよならの代わりに」「悪党たちは千里を走る」「プリズム」「追憶のかけら」「ミハスの落日」「灰色の虹」「北天の馬たち」「壁の男」など多数の著作がある。  

主な登場人物:

西條輝司(こうじ)
元妻 秋穂
娘 玲衣子

警備員、不倫を週刊誌に叩かれ、警察を追われた後、見つけた職。その後退職して、兄の誘いで系列会社の総会屋対策として秘書室所属の仕事に。
容姿に恵まれ、頭は切れる。浮いていてもしっかり結果を残していた人。

村越幸三郎

本庁捜査一課九係の刑事、警部補。小川刑事殺しの捜査本部(野方署)に参画、高城理那とコンビを組む。
助平親父風、その実結構厳しい人。

三井厚(あつし)

本庁捜査一課九係の刑事。話術に長ける。
・相方 大野

綿引和行 本庁第二機動捜査隊所属、警部補。
その他捜査一課九係

・野田係長 個性的な九係メンバーのまとめ役として信頼されている。
・金森 一度見た顔は二度と忘れない特殊能力の持ち主。
・五味部屋長 係の中で一番の良識派。

高城理那(32歳)
父親

野方署刑事課の刑事、巡査。小川道明警官殺しの捜査本部で村越の相方に。
容姿は平均的水準を下回っていることを自覚している。村越の親父ギャグに閉口しながらも次第に村越を評価するように。
・父親は元警察官。母親は膵臓がんで没。緑内障から失明したことで理那は将来に閉塞感を感じることに・・・。

杉本宏治(こうじ)
元妻

戸塚署交通課勤務19年目の白バイ警官。自損事故死?
・妻はミニパト勤務の元警官。離婚して小学6年の娘と暮らす。

小川道明 巣鴨署交通課所属の巡査部長、46歳。独身。今は内勤。雨の降る夜住宅街で背中を刺され死亡。
梅田武雄 警察官、40歳。愛人とホテルで会う約束、向かう途中商店街で刺され死亡。
千葉義孝(よしたか) 小川道明の後輩。45歳で自死?

大柴康輔(こうすけ)
子供 悟
(さとる)

15年前スピード違反のバイク乗り、逃げようとして大型ダンプの横原にぶつかり死亡。当時39歳。妻と二人の子供がいた。
・悟 梅田殺しの最有力容疑者。前科あり。

吉岡正昭

18年前交差点での右折時直進の白バイ警官と接触、死なせてしまう。被害者側の信号赤の主張は認められず、実刑判決で刑務所入り。両親は離婚、子供二人は連れ子でもあり、別々に。
・別れた妻は竹井英惠(はなえ)、子供の名前は竹井英司。

渕上誠也 警察の腐った体質に運命を狂わされ復讐を計画。
レイ モデル。誠也は親戚に引き取られ、レイは母親に引き取られた。誠也とふたり復讐に。
小柳美央 誠也と同じ職場の女子社員。誠也に好意を持っている。

古本屋の店主
娘 今原晃子
(あきこ)

西条のなじみの店の店主。西条が寄る度に読むにふさわしい本を紹介。
・娘晃子の相談にのることに。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 事故か他殺か判然としない警察官の連続死に、捜査本部は緊迫する。事件を追う所轄刑事の高城理那は、かつて“名探偵”と呼ばれた西條の存在を気にしていた。彼だったらどう推理するのか…。『後悔と真実の色』の続編となるミステリ長編。 

読後感:

前作「後悔と真実の色」は読書録に上げたのが1925年(平成年)、しかし既に読んだことを忘れていて数ヶ月前に読み返していた。なかなか群像劇で読み応えがあったので、続編と銘打った本作品も楽しみであった。

 前作の主役であった西条、村越、綿引、三井といった猛者連が今回は脇役的に登場している。特に村越の相方となる高城理那とのコンビが、前半の主役としてその絡み合いが本筋とは別に面白い。
 親父くさい村越に対する毛嫌いをしている所轄の刑事理那が、捜査一課の刑事というものの凄さを少しずつ理解、尊敬していく姿はユーモラスでもあり親近感が湧いてきて好ましい。

 後半になると理那が綿引や三井と言った支援を頼りに、そして何より警察を去った西条の頭脳と励ましを支えに、次第に口上の厚かましさを増し、覚悟をもって単独の捜査を続ける姿は、前作とは違った趣が感じられこれまた満足感の残る作品であった。

 警察官連続殺しの犯人を追い詰めるに、関連性がいまいち迷走し絞り込めないで誤った方向に進もうとするなか、理那の疑問に西条の推理を得てひとり汗を流す姿、警察を辞め、兄のおかげで転職を繰り返す西条も古書店主の娘の手助けをするエピソードも織り込まれたりと長編を飽きさせることなく読者を惹きつけていく手腕はさすが。

 なんとなく池渕誠也とレイの存在が事件とどう結びつくのかと思っていたら、遂に後半になって明かされていく。そして高城理那と再び結成された村越のコンビが颯爽と姿を現し、いかにも成長を遂げた人物として真犯人を問い詰めるシーンは溜飲を下げる思いである。
 さらにラスト、西条と野田のやりとり、理那と父親とのやりとりは何ともほっとするやりとりが長かった物語の終焉として暖かなものを残してくれている。
 

  

余談:

 殺伐とした事件には中にほっと心を和らげるものが無いと救われないものである。だから小説の中にはユーモアとか人間味のあるやりとりとか、そんなものがないといたたまれない。
 本作品にはそういうものが用意されていて読んでいて飽きさせないし、そういう人物に愛着が湧いてくる。なんか続編が出てきそうな予感。
  

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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