貫井徳郎著 『微笑む人』



              2017-10-25



(作品は、貫井徳郎著 『微笑む人』   実業之日本社による。)

          
 初出 月刊ジェイ・ノベル 2011年6月号〜2012年2月号。
 本書 2012年(平成24年)8月刊行。

 貫井徳郎(本書より)
 
 1968年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒業。1993年、鮎川哲也賞に応募した「慟哭」で衝撃的なデビューを果たす。2010年、「乱反射」で第63回日本推理作家協会賞、「後悔と真実の色」で第23回山本周五郎賞を受賞する。著書に「失踪症候群」「迷宮遡行」「空白の叫び」「ミハスの落日」「夜想」「明日の空」「灰色の虹」「新月譚」ほか多数。   

主な登場人物:

小説家。仁藤俊美が「本が増えて手狭になったから、妻子を殺した」と自供する意外性に興味を抱き、その真実をドキュメンタリーとして書こうと取材を続ける内に仁藤が関係していそうないくつもの事故死を知る。

仁藤俊美(にとう・としみ)
妻 翔子
(しょうこ)
娘 亜美菜
(あみな)

大学卒業後、大手都市銀行に入行、渉外課に所属。
穏やかに微笑む人。丁寧な人、物腰が柔らかい人。いい男、信頼できる大人の人。と多くの人の評価は似たり寄ったり。
・妻の翔子とは同じ職場で働く。明るく快活な人。

<安治川事件関係者> 2009年4月11日妻子殺害で仁藤、殺しを自供、拘置所行き。
香坂 仁藤と同じ銀行勤め、同期。支店の子絵実子(後香坂と結婚)、仁藤、翔子と付き合う仲。仁藤と翔子の仲を取り持つ。

<宮ヶ瀬ダム白骨事件関係者>

2年前の2007年5月11日失踪の梶原、頭骨の白骨が見つかる。

梶原敬二郎
母親

仁藤と同じ銀行勤務。梶原が居なくなり、1年前倒しで仁藤が課長代理になる。梶原は人から嫌われるタイプの人間、ごますり、上に媚び、下には威張る。母親との二人暮らしの苦学生。

布施昭典(あきのり)
田辺陽人
(はると)

田辺の仕事の手柄を梶原に取られたのに憤慨、梶原に苦言呈するも拉致開かず、仁藤に相談、梶原の謝罪を勝ち取る。
<大学時代の事故死関係者> 11年前、大学同級生の松山は大型ダンプの左折に巻き込まれて死亡。

松山彰(あきら)
中里

仁藤と大学での同級生。松山、中里、仁藤の三人での付き合い。
松山が人気で品薄のゲーム機を持っていたが、事故死後、仁藤がゲーム機を持っているのを中里、不審に思う。

上国料(かみこくりょう) 元多摩中央警察署刑事。仁藤に嵌められ退職を余儀なくされたと私に話す。
<中学時代の出来事> 隣の、犬を飼っている住人の交通事故死。
山崎 中学時代の仁藤の同級生。テニス部で一緒。仁藤の犬嫌いのエピソード。
三笠 中学3年で仁藤と同じクラス、1年から3年まで部活一緒。
堀内

仁藤の実家周辺の住人。犬がいて仁藤、転がされて区大会に出られず。堀内の主人、大型ダンプ左折時に巻き込まれて事故死。

<小学時代の出来事> 義父が階段から転落死。
カスミ 赤羽の飲み屋街のホステス。仁藤を知るショウコという女性の居場所を求めて私は訪ねる。
ショウコ

小学3年から6年仁藤と同じクラスで、家庭の事情を仁藤に話した相手。義父を転落死させた話を私に。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
エリート銀行員が、意外な理由で妻子を殺害、逮捕・拘留された。この事件に興味をもった小説家は、ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める…。貫井ミステリーの最高到達点。

読後感:

 今回はノンフィクションの小説を書く為、私が取材を重ねるということで仁藤俊美という妻子殺しの犯人と目される人物に焦点を当て、その動機の意外性、周りの人が仁藤を見る評価とのギャップにどうも納得がいかず、関連する事件を追う内に、仁藤が人を殺す(?)異常さの奥にあるものを探し求める。
 今までにない異常さが次第に明らかにされていく展開に引きずり込まれていく。
 根源は幼い頃に何か原因があるのではないかとたどり着くと、やっと書けると確信に近づいたと思ったが、待ち受けていたのは・・・。

 “そもそも、仁藤にまつわる諸々の証言、あれらはすべて、周囲の人間の主観でしかなかった。相手の心の奥底まで見通すことができない限り、人は自分の見たいようにしか他人を見ない。ある人は仁藤を善人として見て、ある人は異常な殺人鬼と見る。私は仁藤を、理解できない価値観の持ち主とみた。
 そして偽ショウコを仁藤の同級生と思い、ふたりが負ったトラウマを知って納得した。すべて、私というフィルターを通した虚像だ。虚像は虚像であって、真実ではない。”
 自分が納得できるように事態を単純化しただけの思いが残っただけであった。
  

  

余談:

 最後の章「真実」で仁藤の根底にあるバックボーンが理解できたかと思いきや、それを覆す発言に真実は何なんだと、残り少ないページを見ながら決着はつくのかなと思ったら。
 結局本作品はノンフィクションとしての作品なのか、フィクションの作品なのか悩んでしまった。
  
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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