西加奈子著 『サラバ!』 (上)、(下)


              2018-01-25


(作品は、西加奈子著 『サラバ!』(上)、(下)      小学館による。)

         

  本書 2014年(平成26年)11月刊行。

 西加奈子:(本書より)
 
 1977年5月、イラン・テヘラン市生まれ。 大阪育ち。 2004年に「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞受賞。「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。ほかに「きいろいゾウ」「円卓」「舞台」など著書多数。
 本作品は第152回(1942年下)直木賞受賞作品。 
  

主な登場人物:

<圷家>

圷歩(あくつ・あゆむ)
(主人公)
<僕>

人の顔色をうかがい、事を荒立てないように生きている。空気を読む能力に長ける。イラン(首都テヘラン)で出産、その時母27歳。
姉 貴子(たかこ) 特異な性格。母とはお互い相容れない。マイノリティを求め友達もいない問題児。両親がイランに行く前に生まれる。僕と4つ違い。

母 奈緒子
(旧姓 今橋)
父 憲太郎

気の強さ、子供っぽさ、ダントツの俗物。
・父 石油系の会社勤務、父29歳、母21歳の時出会って結婚。海外勤務を希望。イラン(テヘラン)、帰国、エジプト(カイロ)、帰国と。

祖母 今橋家の母親。ゆるい人。
今橋家三姉妹

・好美おばさん 息子二人(義一 僕より12歳年上)
            (文也 僕より9歳年上)
        娘一人 (まなえ 姉と同い年)
・夏枝おばさん ひとり身。
・奈緒子 僕や姉の母親。

矢田のおばちゃん 「矢田マンション」の大家。独身、50歳位。あっという間に姉を手なづけ、地域の王様のような存在。”サトラコヲモンサマ”という祭壇を設えている。
バツール イラン(テヘラン)でのメイド。テヘランでの4年間は、母親とは信頼関係が出来、家族皆和やかに。
ゼイナブ エジプト(カイロ)でのメイド。母はゼイナブと仲良くなり母、輝きを増す。
ヤコブ エジプトでの僕の親友。エジプシャン。ヤコブとは自然と言葉も通じ合い、僕の心の支えの人物。「サラバ!」
牧田さん

エジプトの日本人学校でのクラスメイト。姉の初めて恋の相手?
姉に対し「素敵な服だね」と褒められる初めて経験で。

大津 (「オーツ」) 小学5年生、大人になりかけの僕らの親友。
須玖(スグ) 高校時代の僕の親友。サッカーがうまく、偉ぶらず、練習後は物静かで謙虚、小説を読み、映画や音楽に詳しい。
僕の恋人or女友達

・有島美優 中学2年生で始めての女友達。一見すると地味な子。・裕子 高校時代初めての女友達。文化祭に女子校から。
・晶(あきら) 大学時代の1歳年上の恋人。
・鴻上なずな(こうがみ) 大学のサークルに入ってきた股のゆるい子。但し僕の人生において初めての女友達。
・沙智子 写真家を目指す優しい彼女だったと思っていたが・・。・久留島澄江 2つ年上、いい人、でもいい女ではなかった。

アイザック 姉より6つ年上、ベジタリアン、ユダヤ教徒、チベットで姉と出会う。

補足:「サラバ。」 僕とヤコブの間での別れの言葉。アラビア語の「マッサラーマ」と日本語の「サラバ」を組み合わせた「マッサラーバ」それを、ヤコブは単純に「サラバ」を気に入った。
 僕らの「サラバ」は果たして、「さようなら」だけでなく、様々な意味をはらむ言葉になった。「明日も会おう」「元気でな」「約束だぞ」「グッドラック」「ゴッドブレスユー」、そして、「俺たちはひとつだ」。
「サラバ」は、僕たちを繋ぐ、魔術的な言葉だった。(作品の(上)での表記より)

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 (上)
 1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに…。

 (下)
 一家離散。親友の意外な行動。恋人の裏切り。自我の完全崩壊。ひとりの男の人生は、やがて誰も見たことのない急カーブを描いて、地に堕ちていく。絶望のただ中で、宙吊りにされた男は、彼の地へ飛んだ。 

読後感:

 主人公の圷歩(あくつ・あゆむ)がイランでのこと、帰国後のこと、そして今度はエジプトのこと、帰国してのことと、家族の様子をつまびらかに語る形で圷家、両親の離婚後の今橋姓に戻っての様子が事細かに描写されていく。
 そして僕が生まれてから37歳になって初めて自分の歩む道をみつけるに至るまでの様子が克明に記述されているというか、小説の内容だったと言うことか。

 圷家の家族のそれぞれの性格の特異さ、特に母と姉の特異さは格別。それは生まれ落ちるときの様子がその後の母親の姉に対する思いに繋がっているのか。一方姉にとっては母親に構って欲しいと思う気持ちからなのか、お互いの感情は行き違いを・・・。
 ただ、初めて父親の転職でイランに家族揃って行った場所での状況はようやく家族らしい生活が戻って来たようにも思えたのだが・・・。

 (上)での、両親の離婚により母親側に引き取られた姉と僕と母親との生活模様は、以前にも増して姉が離れていき、学校に行かなくなり、宗教に興味を持ち始め、矢田おばちゃんの”サクラコヲモンサマ”(宗教ではなさそうだが)に祈るようになる。

 (下)になると父と姉が海外勤務を終え帰国、再び圷家に波乱が起きる。祖母の死、母の再婚、姉のある種自分を見つけたかと思ったことからの転落、父の出家と僕を取り巻く環境はまたしても大きく変貌を・・・果たしてこの後の成り行きは???。

 (下)で頂点に持って行くために、(上)があったと思われる。姉の変貌、母親の変貌ぶりのわけ、出家した父親の山奥の寺で僕に話してくれた離婚のわけ、結局僕が一番悩み多き人間として戸惑っている姿があからさまに。そして自分が信じるものを見つけるために心の支えであった友に会いにエジプトに。
   
余談:

 本小説「サラバ!」を読み出したときは何か海外での生活が描かれているのかと思っていたら、なんというか僕と圷家の一生が描かれていて、思い起こすと佐藤愛子の「血脈」を読んでいる風にも感じた。
 母の奔放な生活ぶり、父親の懐が深いのか、優しすぎるのか、家族のために尽くし働く男、姉のこれまた奇異な性格、その中で一番普通と思っていた僕。
 下巻の中程を過ぎる頃、本作品が素晴らしいという思いになった。直木賞作品であることが理解できた。たぶん評価を読まなくても。恐ろしくて読めないけれど・・・。
 ラストを読んでいると、ふっとマーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」の作品の印象が頭に浮かぶこととなった。

背景画は、森、木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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