長岡弘樹著 『時が見下ろす町』




 

              2017-04-25





(作品は、長岡弘樹著 『時が見下ろす町』   祥伝社による。)

         

初出 第一章 白い修道士 「小説NON」2015年7月号(「這えない絵の具」改題)
   第二章 暗い融合  「小説NON」2015年2月号(「見えない図形」改題)
   第三章 歪んだ走姿 「小説NON」2013年7月号(「飛ばないロケット」改題)
   第四章 苦い確率  「小説NON」2013年11月号(「冴えない奴ら」改題)
   第五章 撫子の予言 「小説NON」2013年3月号(「売れないブローチ」改題)
   第六章 翳った指先 「小説NON」2014年9月号(「冴えない指先」改題)
   第七章 刃の行方  「小説NON」2016年1月号(「砥げない凶器」改題)
   第八章 交点の香り 「小説NON」2014年4月号(「見えない香り」改題)

 本書 2016年(平成28年)12月刊行。

 長岡弘樹(本書より)

 1969年山形県生まれ。筑波大学第一学郡社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞し、05年「陽だまりの偽り」でデビュー。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。13年刊行の「教場」は「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門1位「本屋大賞」6位などベストセラーとなり、話題を呼んだ。他の著書に「赤い刻印」「白衣の嘘」など多数。  

主な登場人物:


<白い修道士> 抗がん剤治療中の祖父、介護の祖母の所に来た孫娘が提案した内容は・・。

祖母 箱村和江
祖父 新造
孫娘 さつき

化学療法で苦しむ夫のため、本を買い色々研究するも方策なし。絵画教室に通い水彩画をたしなんでいる。
・さつき 高校二年生。スマホでゲームに夢中。煙草も。

<暗い融合> 痴漢の疑いを受けた野々村の妹の自殺騒ぎの原因は不倫だった。痴漢を装わせたのは・・・。精神科医と患者の融合が・・・。

野々村康史(やすふみ)
妹 日菜子

時世堂百貨店の顧客サービス課の主任でクレーム処理を担当。会社の方針で週一、御子柴のクリニックを受診している。
・日菜子 ”メンタルクリニック”で内科医院に勤務。

御子柴肇(50近い)
妻 貴枝

”メンタルクリニック”の精神科医。
・貴枝 野々村の課長。

<歪んだ走姿(フォーム)>

仁井田
藤永晶之
(あきゆき)

県警陸上部の先輩。駅伝の選手、アンカー。怪我で実業団駅伝大会に出場できず,代わりを探している。
・藤永 先輩の仁井田の推薦で陸上部に入れられる。資産家の御曹司。

野々村康史
雁屋守

「アケボノ製鞄(セイホウ)」(ランドセルを作っている中小企業)の社員。六区のアンカー。大会の常連。
・雁屋 今年の3月までアケボノ製鞄の駅伝部監督の雁屋が解雇され、4月から県警陸上部の監督に。

坂辺 地元テレビ局の取材クルー。 藤永とは同じ高校で一緒に陸上部所属。
<苦い確率> ギャンブル必勝法・・・。
丑倉組の人々

・和久井組長 組織の経営破綻をきたしている。一発勝負に。
・五木敬真(けいま) 営業部長 借金返済に汲々。
・市谷(いちたに) 業務部長 白内障手術中に地震、盲目同然。
・寒川 経理部長 複雑骨折で電動椅子生活。

<撫子(ナデシコ)の予言>
新井智久(ともひさ) ドラッグストア“エックス栄町店”勤務。
七波杏子(きょうこ) カフェ“撫子”勤務。智久の恋人。
門脇将実(まさみ) 黒い毛糸帽子の男。ドラッグストアのレジで「合わせておけっ」の言葉を残して不機嫌に去る。“撫子”にもレジの紙幣をわしづかみにして逃走。
仁井田刑事 前述
<翳(カゲ)った指先> 金を要求されている息子のとった策は・・・。

ぼく(安積伸士)
父親 伸一

門脇将実の脅しに金を要求されている未成年。パソコンとプリンターを金に換えようと丹下の店に・・・。
・父 半年前まで「カドワキ商事」の夜間警備を担当していて泥棒に入られクビに。学生時代ボクシングを経験していた。

丹下 中古屋「ガジェットハウス」の店主。
<刃の行方> 「病気を忘れるときに病気が治る」。その最良の薬が・・・。

わたし
(土屋孝典
(たかのり)

フリースクールの教師。ガン治療の為学校を辞めようとしていた矢先、生徒の五木敬真が行方不明に,責任を感じ治療をしながら方々を探している。

五木敬真
父親 昌和
(まさかず)

敬真の父親は医者、土屋の主治医。
<交点の香り> 空き巣に入った家での空き巣と家人のスリリングな体験で・・・・。
箱村新造(39歳) 空き巣の常習犯。“モミの木ごども園”児童養護施設にボランティア。
町元和江(34歳) 箱村が空き巣に入った家の主。“モミの木ごども園”児童養護施設で働いている。障害年金搾取をしている。
雁屋守 “モミの木ごども園”の小学5年生。読書好き。
若林秋久 掘手署刑事課の巡査。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 その時計台はすべてを見ていた。祖母が祖父を介護する家に居座る孫、唐突に同棲を快諾した恋人、鉢合わせした住人に違和感を抱く空き巣…。ひとつの町を40年にわたって描く、連作ミステリー。

読後感:

 何とも奇妙なお話の連続である。それも各章での登場人物の名前が既に登場している名前が出てきて、おやっと思わせる。特に最初の<白い修道士>で祖父母の名前が<交点の香り>では泥棒と被害者の関係であったりと。初出の事情を見てなるほど時間の経過があったことに頷けるところもある。そこまで考えた配列、考察があったのか。

 一番印象的な物語は最初の章の<白い修道士>であった。祖母の箱村和江の覚悟が後になって切なく迫ってくる。そして孫娘の一見現代っ子の感覚でいて、その実、するどい感性の持ち主であったことが読んだ後にこれも鮮やかな光を放っていることに。

 その他にはどの章もちょっと自分にはしっくりとこない内容であったが、もう一つは<暗い融合>に関しては、読んだ後何となく複雑な感情がおきてきた。精神科医と患者の感覚の融合は理解できるも、妻の貴枝が夫の不倫を止めさせようと仕掛けた痴漢騒ぎの後味はちょっとついて行けなかった。
 章の全体を通してなかなか考えられたストーリーという印象である。読んでいる段階での印象が、ラストの変遷でよく考えられた展開であったこと、読み返してみてなるほどと考えさせられる運びに著者の練られた作風を感じる。


印象に残る言葉:

 <刃の行方>での土屋の主治医の言葉:
 医学の世界での言葉「病気を忘れるときに病気が治る」。

  

余談:

 初出の際の各章の表題と今回の表題を見ていかにも洗練された表現になっていると思わざるを得ない。編集者のなせる技か?それとも???・・・。

追記:「病気を忘れるときに病気が治る」と言う言葉、“病気は気から”とよく言われるが、心に留めておきたい言葉である。年をとるとさおさらいっそう思い起こす言葉である。

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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