長岡弘樹著 『赤い刻印』

 

              2017-07-25



(作品は、長岡弘樹著 『赤い刻印』   双葉社による。)

          

 初出 「小説推理」
    赤い刻印         2009年7月号(「白い線」改題)
    秘薬           2012年4月号
    サンクスレター      2013年4月号
    手に手を         2014年3月号(「そのとはまで」改題)
    単行本化にともない、大幅に加筆修正。

 本書 2016年(平成28年)5月刊行。

 長岡弘樹(本書より)
 
 1969年山形生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。08年「傍聞き」が選考委員会絶賛のもと、第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同作を収録した短編集「傍聞き」は40万部を超えるベストセラーとなる。他の著書に「陽だまりの偽り」「波形の声」「群青のタンデム」「線の波紋」「教場」「教場2」がある。 

主な登場人物:

<赤い刻印> 物置でたまたま見つけたアルバムに葉月が生まれたときの手形。毎年の春啓子宛に届くサテンの生地で作られたお守り。それらに秘められた謎とは・・。

羽角葉月(はずみ・はつき)
母親 啓子

中学3年生。母親に二人の母親がいることを知り老人ホームに会いに行く。
・啓子 1昨年盗犯係から強行班に引く抜かれた刑事。「お宮入り防止月間」で葉月が実母に会いに行くときに渡した品の目的には・・・。

秦野チサ

啓子の実母(生みの親)。老人ホーム「あらたまの里」に入所している。
啓子を手放したわけとは・・。

<秘薬> 人の健康を預かる仕事に就けるわけがない高次脳機能障害を患った千尋のとった行動は・・・。
水原千尋(21歳)

K女子大の医学部の3年生で、臨床実習生として大学付属病院に勤務中。眼球の奥を針で突く痛みに倒れる。
そのとき以来記憶が一日分しか持たないように。久我医師から3日に一度カウンセリングに来るよう言われる。

久我良純(よしずみ) 脳神経外科の医師。大学では医学科長、地域医療論の教授。

平吹さやか(ひらぶき)
(23歳)

抗不安薬と咳止めの大量服用で意識混濁、精神神経科病室に入院中。実家は薬局を営んでいて、本人も大学で薬学部に在籍していたが中退、実家で引きこもりの生活。

<サンクスレター> 感受性の人一倍強い葛木大輝が3階から飛び降り自殺をした。意中の女子の名を記したメモ帳をなくしたのが原因と考えられる。
城戸万友美(まゆみ) 小学5年3組の国語教師。初めての学級担任。葛木大輝の担任。

葛木克典
息子 大輝

葛木小児科医院の医者。学校側に真相究明を執拗に要求。聞き入れられずに出た行動は・・。
・大輝 人一倍繊細な5年3組の生徒。

丹波芳也
父親

小学5年3組の生徒。胆道閉塞症で肝臓移植をして4ヶ月。まだ体調は回復していない状態。
<手に手を> わたしは二人の介護に明け暮れて疲労困憊の状態。二人寝ている母親と弟の寝姿を見、首に手をかけそうに・・・。

和佳(わか)(59歳)
(わたし)
母親 鈴子
弟 久登
(ひさと)
(57歳)

病弱で認知症の母親と、人の手を借りずには生きられない弟の介護に婚期を逃し、今はビル清掃のパート従業員。
・鈴子 認知症を患って寝たきりの老人。毎週火曜の夕方の蛯原の往診を受けている。
・久登 父親の死を機に2年前からわたしや母と同居するように。体重百キロ超え。授産所に通っている。何をするでもなくぼうっとしていることの多い久登だが、蛯原から教わった自ら進んで漢字の書き取りに取り組む姿が見られるように。

蛯原要
(えびはら・かなめ)

町医者。この地域ではそれなりの尊敬を勝ち得ている。
わたしとは小学校の同級生で幼なじみ、50年以上の付き合い。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
刑事である母に毎年届く、差出人不明の御守り。秘められた想いが、封印された過去を引き寄せる…。40万部超の大ヒット作「傍聞き」から8年。あの母娘が、再び登場する待望のミステリー集。

読後感:

 <赤い刻印>
 最初さらっと読んでしまい、覚え書きを作るつもりで再び読み返しているとあの「傍聞き」で感じた印象が再びよみがえってきた思いであった。途中に何気なく描写、放たれた言葉があとになって真相を見事に再現、読み手にじぃ〜んと迫ってくる哀感はこの著者の持ち味ではないか。
 中学3年生の葉月と母親の啓子とのやりとり、実母の祖母チサと葉月のやりとりは冷たいようでいてその内にある優しさ、思いやりが溢れていて涙する思いが響いてくる。
 
 <秘薬>
 やはり再読しないとうまく理解できなかった。実に良く推敲された作りになっている。さやかの存在、久我の深い読みが主人公の水原千尋の行為を防いでいたことを思い知らされた。
 
 <サンクスレター>
 この作品もまたよく練られたものだった。
 少年がマジックに凝っていたことがさらりと後で効いてくるし、葬儀での棺以外の重量がこれも隠し味として効いてくるなんて。

 <手に手を>
 介護に明け暮れる主人公に幼なじみで50年来の付き合いの町医者が色々とアドバイスをしている。(どういう病気か分からないが)人の手を借りずには生きられない弟の行為に秘められた謎(ラストの部分が良く理解できなかったが)が、主人公の気持ちを転換させる。現在の課題を象徴するような問題である。

  

余談:

 <赤い刻印>を読み、まさに帯文にあるように”「傍聞き」がこの20年で最高の傑作と言われたならば、本作はこれから20年で最高の傑作”にふさわしいのではないか。”と。
 そして全編を通して感じるのは、やはり帯文にある”哀切と情愛を巧みに映し出す、隙も無駄もない見事な”企み””に感服。 
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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