宮本輝著 『長流の畔』
       <流転の海第8部>
               


              2017-12-25



(作品は、宮本輝著 『長流の畔』<流転の海第8部>   新潮社による。)

          

 初出 「新潮」2014年6月号〜2016年4月号(全20回)
 本書 2016年(平成28年)6月刊行。    

主な登場人物:

松坂熊吾(66歳)

柳田元雄から頼まれたシンエー・モータープールの管理人の契約はあと1年。中古車の販売業“中古車のハゴロモ”を営む。
関西中古車事業連合会の立ち上げと此花区千鳥橋に工場跡地を借り大阪中古車センターとして中古車販売会社の車預かり計画に注力。
従業員の玉木則之に金を使い込まれ、松田茂に借金をし、約束の期限までに返却を迫られているが・・。
博美との別れ話を決心するが、佐竹夫婦の姿に影響されたのか・・・。家庭の不和へと発展。

松坂房江(52歳) シンエー・モータープールの諸々の雑務を一手に引き受けている。借金先の松田茂の母親から返済がらみで熊吾のいやな話を聞かされ再び隠れて酒に手を出す様に。
松坂伸仁(16歳)

高校2年生、父親の浮気のことで母親に手を上げた父親にxx
今は画家を目指して修行中。

シンエー・モータープールの人々

柳田元雄が運営する会社。管理人を松坂熊吾に任せている。
・田岡勝己(22歳)
・佐古田 癖のある人物。板金塗装に従事。柳田社長に拾われ恩を感じている。

“中古車のハゴロモ”の従業員たち

松坂熊吾が開業した中古車販売の店。
玉木の持ち逃げで商売は苦境に。店じまいも余儀なくなり・・。
・神田三郎 シンエー・タクシーを辞め、(熊吾の支援もあり)会計学を学ぶため大学の夜間に通いながらハゴロモの店を手伝う。
・黒木博光 中古車の仕入れ、査定を任されている。

丹下甲治 サクラ会の理事長。千鳥橋の工場跡地の野良犬の始末を相談される人物。戦後はタンゲ工務店の社長で工場と倉庫の建築を請け負っていた。

佐竹善国(42歳)
妻 ノリコ(35歳)
娘 理沙子(6歳)
息子 清田(5歳)

丹下が熊吾に引き受ける条件として、工場跡地の管理人として雇われることになった人物。肘から先がない右腕。
・妻 主夫役として外に働きに出ている。

柳田元雄

柳田商会の社長。松坂熊吾が路頭に迷っている時5年間の期限で手を差し伸べた熊吾にとっては恩人。
今はゴルフ場経営の夢に邁進中。

森井博美

元美人のダンサー(西条あけみ)。脳卒中の沼津ばあさんの世話と、ばあさんの小料理屋を手伝っている。
松坂熊吾をお父ちゃんと慕っている。

水沼徳 松坂伸仁の友達。大阪に集団就職で来て能登の実家に毎月仕送りをしている。自動車修理工を目指すも、螺鈿(らでん)細工に魅せられ、守屋忠臣に弟子入りを願う。
東尾修造

元銀行の専務。柳田元雄にゴルフ場建設のために銀行から引き抜かれた男。しかし役目は終わったと辞めて、熊吾に松坂板金塗装会社を私に手伝わせてくれと。
島本奈緒子を経理担当に雇うが、奈緒子は修造の愛人。
小切手や手形での取引を始めやがて・・・。

松田茂
母親

柳田商会の人間。柳田元雄から興産のオープンするゴルフ場へ移るため、小野ゴルフ倶楽部に住み込みで整備の勉強に。
・母親 房江に借金返済を、あえて人の多いところで罵倒できる機会を待っていたかのように迫る。

丸尾千代麿
(55〜56歳)
妻 ミヨ
引き取った子
 美恵と正澄

運送店を営む社長。初めて熊吾の仕事をしたのは昭22年、伸仁が生まれて半年ほど。今は昭38年、人柄と誠実な仕事ぶりで大事なお得意先はなんとか維持しているらしい。
・美恵は妻に内緒で付き合っていたおんなの子。
・正澄は浦辺ヨネが上大道の増田伊佐男の子を宿し男の子。
今はすっかり丸尾家の子。

麻衣子
娘 栄子

城之崎で”城崎蕎麦”店を営んでいる。
周栄文の娘、城崎に住み妻子もある町会議員の子を産んだ。

木俣敬二 キマタ製菓の社長。チョコレートクラッカーの成功で地道に商売に励んでいる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 
昭和38年、66歳の松坂熊吾は金策に走り回っていた。大阪中古車センターをオープンさせるも、別れたはずの女との関係を復活させ、それが妻に知られてしまう…。渾身の自伝的大河小説、いよいよクライマックスへ。

読後感:

 宮本輝の「流転の海」第1部を取り上げたのが2006年(1994年)3月だったことを考えると第8部で12年近く経つことになった。作品中に出てくる過去の人の名が出てきても思い出せないのもあるし、思い出す名もあるが、懐かしく思えるのは作品の中で感じたこと、印象深かったことの多い少ないの様だ。

 そしてもうひとつ、自分が中学時代に過ごしてきた大阪梅田の土地勘、雰囲気が今は関東に来て50年以上なるのに未だに胸に刻まれていること、そして松坂伸仁が小さい頃の梅田付近での生活ぶりが懐かしく思い出される為でもある。

 第8部では松阪熊吾の人生も、妻の房江にとって”私の夫は終わった”と感じさせるほどの変化を見せてしまう。
 熊吾は相変わらず事業と人望の両方を得たく、前進と破滅と反省を繰り返している。
 そんな妻の房江の心境は、周りの色々な死や浮き沈みを見、よそに女が出来た夫に嫉妬、自身自殺未遂に終わった強運を体験、二度目の人生を決意し新しく動き出す。

 一方伸仁は相変わらずなのか、父親の不倫に目を合わそうとしなかったり、口を利かなかったり、母親の自殺には「お母ちゃんは、僕を捨てたんや」となじる。
 伸仁の大人である感覚は未だしの感があり、果たしてどのような変化を遂げていくのか。

 本の最後で熊吾が、今までの房江でない姿をそっと影で見てつぶやく言葉が果たしてどのような展開になっていくのか、糖尿病を患い、熊吾も死の瞬間を味わい、それでも助かった身の強運の持ち主。果たしてラストの第9部の展開はどのようになっていくのか興味が尽きない。
  
余談:

本のあとがきに著者の心境が記されている。第七部のあとがきでは、第八部「長流の畔」を書き始めていること、第九部で完結するとあった。ところが第八部を書き終えて臆病風に吹かれてしまったと。
 確かに伸仁が20歳になるまで親の役目を果たさないと死ねないと熊吾は考えていた。
 だから読者としては本作では未だ16歳から17歳なので次につながるしかないと思ってしまった。第九部が出版されるまであと何年かかるのか、自分は果たして手にすることが出来るのだろうかと考えてしまった。
 

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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