今野 敏著 『 確証 』



 

              2017-05-25



(作品は、今野 敏著 『 確証 』   双葉社による。)

          

 初出 「小説推理」2011年5月号〜2012年4月号
 本書 2012年(平成24年)7月刊行。

 今野 敏(本書より)
 
 
1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て執筆活動に入り、ミステリーから警察、伝奇、格闘小説まで幅広く活躍。2006年「隠蔽捜査」で吉川英治文学新人賞を受賞。08年「果断―隠蔽捜査2―」で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。 

主な登場人物:

萩尾秀一(48歳) 警視庁捜査第三課盗犯捜査第5係 盗犯一筋の巡査部長。
武田秋穂(35歳) 同上、巡査部長。萩尾の相方。やる気はあり、職場を明るくする雰囲気を持つ。
警察関係者

・猪野勝也 警視庁捜査第三課盗犯捜査第5係の係長、警部(51歳)。
・須坂 渋谷署刑事、巡査部長。萩尾と同年代の顔なじみ。
<捜査一課>
・田端守雄 捜査一課の課長。ノンキャリア、人望あり。
・苅田
(かりた) 捜査一課強盗犯捜査第3係、巡査部長。エリート意識丸出しの35歳。(萩尾にとって苅田は鼻につく相手)
・菅井
(すがい) 同上、ベテラン刑事。(萩尾にとって腹が立つ相手)

迫田鉄男(さこた) 町工場経営も倒産後泥棒稼業に転向、65歳。今は半身不随の車椅子生活。萩尾の情報源。優秀な技術者。

六郷文也(ろくごう)
娘 美由紀

町工場時代迫田に次いで偉い人物。職人肌。
・美由紀 迫田を慕う、40歳。迫田の女弟子(噂)。

本田稔 町工場時代での一番若い従業員。美由紀を好きに思っている。
(補足) 3つの事件:

・渋谷高級ブランドの時計を扱う販売店の強盗事件。(捜査一課扱い)
・渋谷の宝飾店の窃盗。値打ちの商品(ダイヤとプラチナのネックレス)一点のみ盗まれる。金庫は暗証番号と指紋認証装置付き。(盗犯係扱い)
・赤坂の宝石店で強盗殺人事件。(捜査本部立つ)?

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 強盗犯を追う捜査一課との軋轢と駆け引きの中で、萩尾は何を見、何を考えるのか。小説の職人が、盗犯捜査の職人を活写する、円熟の警察小説。新たなる「相棒」の誕生。注目の新シリーズ開幕。 

読後感:

 読みどころに2点あり。
 ひとつは主人公の盗犯係萩尾と相棒の秋穂のやりとりというかコンビの性格の違いの機微。
 萩尾が盗犯係の生え抜きとして自らの経験からくる勘を信じ、相手にこびることなく突き進むパワー、ただ相手かまわずでもなく反省心もあり、相棒の意見も聞き入れる姿には好感。一方、相棒である秋穂は萩尾を尊敬すると共に、相手に対して臆せず自ら意見も述べたり、何よりも明るさが雰囲気を和ませる役得を持っていること。

 刑事物の小説でも女性を相棒にしたものはそのキャラの設定で読み物を生かしたり、殺してしまったりするもの。本作品は面白く読み応えある作品である。

 さて、肝心の物語の中身だが、強盗殺人を扱う捜査一課の捜査本部に呼ばれた盗犯専門の第三課であるが、ものの見方に違いがあり、捜査本部をまとめるノンキャリで人望のある捜査一課田端課長の人物の大きさがなんとも小気味よくてうならせる。

 相対してエリート意識ぷんぷんの菅井や苅田とのやりとりで、萩尾たちとのマッチアップも面白い。
 今回は渋谷で起きた高級時計店の強盗事件と宝飾店の窃盗関係での関連性、赤坂の強盗殺人事件との見方に関して、捜査一課と盗犯係との間で見方の違いが表面化するが、情報源を含め犯人の人間関係に迫る内容で、「盗人の気持ちを理解する」という萩尾の言葉が事件解決に功を奏した結果になった。
 田端課長のほかにも、もう一人立場は違うが中間管理職ともいえる、萩尾たちの上司に当たる猪野勝也係長の言動も上と下の間に挟まれ、つらい立場を見事に演じていてつらいなあと思わせる。

 

  

余談:

 工場を倒産に追い込まれ、そのことでばらばらになった迫田を巡る関係者たちの行動が事件となって展開するが、自暴自棄になった犯人が警察の執拗な取り調べで殺人も自分がやったと白状する。そんな筈はないと萩尾たちは考えるが、手の打ちようがない。そんな状態がラストまで残り少なくなって果たしてどう展開するのかと心配になった。読者としてもなんだか窃盗犯に同情してしまう状態になってしまった。一か八かの萩尾と秋穂の行為がかなったのか・・・。第2弾を読みたくなった。

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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