古処誠二著 『いくさの底』
               


              2017-12-25



(作品は、古処誠二著 『いくさの底』   角川書店による。)

          

 初出 「小説すばる」2016年11月号に掲載された作品を加筆修正したもの。
 本書 2017年(平成29年)8月刊行。

 古処誠二(本書より)
 
 1970年、福岡県生まれ。高校卒業後、様々な職業を経て、航空自衛隊入隊。2000年4月「UNKNOWN」で第14回メフィスト賞を受賞し小説家デビュー。資料精査の果てに、従来の戦記文学を超越し、戦争体験者には書けない物語の領域を切り拓き続ける。03年「ルール」、04年「接近」で山本周五郎賞候補、05年「七月七日」、06年「遮断」、08年「敵影」で直木賞候補、10年、「線」をはじめとする一連の執筆活動に対して、第3回「(池田昌子記念)わたくし、つまりNobody賞」を授けられる。近著に「中尉」。    

主な登場人物:

依井

将校待遇の通訳、30過ぎ。扶桑綿花の社員でシヤン語が流暢。
ビルマの闘いが始まって1年。ビルマに暮らして6年。戦闘が始まり、妻子は日本に帰している。

賀川少尉

にわか編成の警備隊の若い隊長。さし当たり2週間の駐屯予定。
7ヶ月前にもヤムオイ村に駐屯していたことがあり、村人たちとも知り合い。前回の駐屯では不始末があり連隊に戻され、連隊本部付きとなっていた。

警備隊員

・杉山准尉 隊の次席。隊の最高齢者。身分上は下士官。
・近見崎
(ちかみざき)上等兵。
・高津 上等兵。

上條 連隊副官の青年将校。賀川少尉が暗殺されたことから連隊より派遣される。
<ヤムオイ村の住人たち> 北部シャン州の、いわゆるビルマルートを東へ外れた山の中の村。
ビルマ戡定がなった直後から重慶軍の侵入が見られる一帯。

村長

この村の本物の村長はオーマサではとの疑念。村長は偽物?
賀川少尉暗殺の次の日、村長も同じように殺される。

助役
(日本人が付けた呼名)

・オーマサ 副官に対し、支那兵がずっと監視しているに違いないから、出来るだけ早く撤収するのが警備隊のためと。
・コマサ 助役の様子を見てコマサは小間使いの様との評価あるも、「村長殺しは自分である」と副官と依井に。
・イシマツ 見るからに体が強く、度胸がありそう。

補足)・第二次世界大戦 1939年〜1945年の6年間。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 第二次大戦中期、のどかなビルマ山岳地帯の村で起きた青年将校殺し。私怨か、内紛か…。疑心暗鬼に陥り、村は分断を余儀なくされていく。人間倫理の根源を足もとから問う戦争ミステリー。 

読後感:

 読んでいる内に、戦争をテーマにしている中でこんなミステリー作品が描けるものかと感心した。そこに潜む人間というか人種というか、軍隊の、民間人の、軍属のもの考え方、受け止め方が描写されていてなかなか面白く読めた。
 日本軍がビルマ全土を戡定(敵を討って乱を鎮める)し、ヤムオイ村に駐屯する賀川少尉指揮する歩兵小隊に付き添っている通訳役の主人公依井が軍隊の中で民間人であることが存在感を示していて、村の助役の信頼感を醸し出している。

 賀川少尉を暗殺したのが誰か、村長を殺したのは誰かという中で、何故殺されなければならなかったのかで副官と依井のやりとり、依井とイシマツのやりとりがいい。
 それに重慶軍の存在、支那人、華僑、ヤムオイ村の人びとの警備隊を見る見方、疑心暗鬼、近づき方、対応の仕方と思惑の絡み合いも興味深い。

 一方、賀川少尉の素顔が次第に暴かれていくこと、村長の素性も興味深いし、助役たちの人間性もこれまた興味深い。
 特にラスト近くでイシマツが依井に語る真相と苦悩が胸を打つ。
 ということで、ミステリーさといい、人間ドラマとしてもなかなか面白い作品であった。
  
余談:

 本作品を読む前は須賀しのぶ著の「また、桜の国で」を読んでいた。第二次大戦初期頃のポーランドでの外交官書記生や新聞記者、xxxがらみの内容だった。今回はどういうわけか第二次大戦中期のビルマの小村を舞台にしたミステリー事件であった。
 作品中「支那人は100年先を考える。目先の勝ち負けに一喜一憂し、個人の名誉不名誉にこだわる日本人とはものの考え方がまったく異なります」とのイシマツの言葉が印象深い。
 
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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