鏑木 蓮著 『白砂』



              2018-02-25


(作品は、鏑木 蓮著 『 白砂 』      双葉社による。)

          

  初出 「小説推理」2009年6月号〜2010年5月号。
 本書 2010年(平成22年)7月刊行。 

 鏑木 蓮:
(本書より)
 
 1961年、京都生まれ。仏教大学文学部国文科卒業。塾講師、広告代理店などを経て、92年、コピーライターとして独立する。2004年、第一回立教・池袋ふくろう文芸賞を、短編ミステリー「黒い鶴」で受賞。06年、「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞を受賞する。「東京ダモイ」の他に「屈折光」「エクステンド」「思い出探偵」などの著書がある。近著は「救命拒否」。 

主な登場人物:

目黒一馬(46歳)
妻 愛希(あき)
娘 愛子

警視庁下谷警察署刑事課刑事、警部。下谷署に赴任して1年、警部になって3年。
・妻の愛希の家は、いまはもう廃業したが鎌倉の古い和菓子屋だった。
・一人娘愛子。3月に高校卒業、来月から京都へ。

山名勘一(27歳) 下谷警察署刑事課刑事。
警察関係者

・内藤多助 鑑識課課長、52歳。
・我妻 小夜殺害の捜査本部管理官。

高村小夜(20歳)
(本名 古森)

夕日ハイツで見つかった変死体の被害者。京都(南丹市美山町)から東京に、働きながら大学受験目指していた。両親は他界。
ふるさと短歌大賞受賞の3首にまつわる内容が事件の背景に・・・?

古森小百合
(旧姓 高村)
夫 彰夫
(あきお)
彰夫の母親 節子

小夜の母親。13歳の時亀岡から養子縁組で高村家に。高村家の椎茸農園の土地は古森家のもの、律儀な小百合は高村家に恩返しとして彰夫と結婚。
・夫の彰夫 小百合は彰夫が望んだ縁談。
・古森節子 小百合に対して厳しい態度。小百合の墓、古森家代々のお墓になし。小夜の事は知らぬと。

吉崎昇
妻 好恵
<私>

吉崎住建の社長。農村留学で横浜の子供達を引率した世話役のとき、高村小百合と親しく・・。奥多摩の山道から転落、交通事故死。・私 当時横浜でスナック勤め、ナオミと名乗る。吉崎昇が二級建築士で一級建築士を目指しているとき出会い昇の親戚縁者の反対を押し切って結婚。夫の遺骨は海に散骨することに決める。
従妹の村田奈緒美の病気が自分にも現れることを恐れている。

畑中敦子(あつこ) 小夜の第一発見者。小夜と同じ予備校に通う浪人生。

波多野恭子(きょうこ)
娘 優

青年団の一人、小百合と仲良かった。
・小夜の故郷の仲間。小夜の支援者。

八木乃里子(のりこ)

河鹿荘(旅館)の娘。
父親の研吾は20歳の頃から村の青年団で束ね役。

細見耀一 小夜が勤めていたニコリマート(コンビニ)の同僚。
田村咲恵 東京の丸和製作所で好恵と仲の良かった2年先輩。好恵の不幸癖を目黒に告げる。
村田奈緒美 村田好恵の父親哲男の弟哲司の娘。小学生の10歳で変死。好恵が看病していた。住んでいた場所は宮崎県高千穂町のズリ山で鉱毒で亡くなる人が多かった。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 
予備校生殺人の事件を追う、鬼刑事・目黒一馬。浮かび上がってきたのは、舞い降りた奇跡に翻弄された女たちの人生…。執念の捜査の末に見たものとは。切なくも美しい、乱歩賞作家渾身のミステリー。  

読後感:

 目黒警部が追う高村小夜(古森小夜)殺害事件の描写と、一方で“私”と名乗るどうも吉崎昇の妻(好恵)らしい人物の描写が交互に出てきて、どういう風に繋がるのか興味津々。
 それに京都南丹市美山を故郷とする短歌を巡る因縁(?)話、さらにいつ出てくるかと思われる”私”の恐れる病気とは・・。

 感じられるのは単なる刑事物に止まらず、もっと文学的な意味合いが感じられるし、お墓とか散骨とか人間の最後に関わるテーマも含み、格調の高い小説の印象を受ける。
 犯人が特定後の取り調べで犯人の動機調べに苦慮するシーン、犯人の幼少過ごした高千穂を訪れ明らかになっていく過程も何か懐かしさを醸し出していて心に残る。
 ラストに思いがけない物語が飛び出して覚醒!

 犯人の志向がわかり、事件の根幹を指摘する目黒。落ち着きをなくす犯人。犯人の計算違いが現実に起こり、カッとなっての殺人に。一連の展開は読者を釘付けにする。
 疑問が明らかになって涙する犯人に対し切なさの残る思いと、殺された若い小夜の思いが交差して印象に残る物語であった。
余談:

 
目黒警部と相棒の若い山名のやり取りが微笑ましく、いい味を出していた。一服の清涼剤的効果が素敵。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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