井上荒野著 『 虫娘 』

 

              2017-08-25



(作品は、井上荒野著 『 虫娘 』   小学館による。)

          

 初出 「きらら」連載 2012年10月号〜2013年8月号。
 本書 2014年(平成26年)9月刊行。

 井上荒野(いのうえ・あれの)(本書より)
 
 1961年東京生まれ。89年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞して作家デビュー。2004年「潤一」で島清恋愛文学賞、08年「切羽へ」で第139回直木賞、11年「そこへ行くな」で第6回中央公論文芸賞を受賞。主な作品に、「もう切るわ」「森のなかのママ」「しかたのない水」「だりや荘」「誰よりも美しい妻」「学園のバーシモン」「ズームディズ」「ベーコン」「雉猫心中」「つやのよる」「ハニーズと八つの秘めごと」「キャベツ炒めに捧ぐ」「結婚」「夜をぶっとばせ」「さよなら、猫」「ほろびぬ姫」など多数。 

主な登場人物:

<Bハウスの住人> 建物は建築家が自分のために建てた家。早死にし一人娘は結婚しニューヨークに。シェアハウスとする。
鹿島葉子 都市銀行勤務で窓口業務担当の28歳。架空の取引操作をするように。
碇みゆき(いかり) 自称フリーライター、30代半ば。少女のような風貌。脅威になるような感じの女。竜二パパに気がある。

妹尾真人
(せのお・まさと)

一応プロの俳優、最年長の50歳?。いいかげんを絵に描いたような男。まるで子供。鹿島葉子に恋。

桜井竜二 巨体のイタリアンレストランのオーナーシェフ。無愛想。麻布に店を持つ。

樅木照
(もみのき・ひかる)

4月の雪の降る朝、庭で真っ裸で雪の上で死んでいるのを発見される、27歳。何故死んだのか・・、そして死者となって自由に住人たちや慣れ親しんだ場所を飛び回っていた。怠惰で飽きっぽくてがまんが苦手。
他人からは”風変わりな女”とか”虫みたい”と評せられる。

曳田陽一郎(ひきた) 不動産や、37歳。Bハウスの管理人。
N教授 美術大学の教授。デッサンモデルの樅木照のことを「あなたを虫みたいと思うことがある。痛みも苦しみも感じないんじゃないかって」と。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 4月の雪の日。あの日、あたしは生き返らなかった…。その夜、シェアハウスで開かれたパーティでいったい何があったのか。悪意と嫉妬、自由と不自由。小さな染みがじわじわ広がり、住人たちは少しずつ侵されていく。 

読後感:

 なんと評したらいいのか分からない。樅木照という女が4月の珍しく雪の降る日に真っ裸で雪の上で死んでいた。果たして自殺なのか、何があったのかがラストに明らかになる。その点ではミステリー的で興味を惹くものなのだが・・。
 
 舞台は
”Bハウス”と呼ぶシェアハウスに男女二人ずつの4人(亡くなった照を入れると5人)が暮らしている。その住人たちの個性がまたバラバラで複雑怪奇的である。そして亡くなった照の魂(?)がBハウスやなり親しんでいた場所に自由に入り込んで、勿論手を出したり、言葉を発することは出来ないが見たり、覗いたりするシーンが現実の流れの中で展開する。

 照という女性がデッサンモデルをしている時のじっと動かないでいる様子を見て“疲れないの? あなたを虫みたいだと思うことがあるよ。痛みも苦しみも感じないんじゃないかって・・”と言われるようであり、誰とでも寝る自由で奔放な生き方に、嫉妬され、その行為が悪意と見なされたり。
 その奔放さがBハウスの住人をむしばんでいき、やがてあの日の出来事に発展していった。

 照の影響を受けてか、桜井竜二と碇みゆきの奇妙な関係、鹿島葉子と妹尾真人のこれまた奇妙な関係とBハウスの住人のいびつな行動が展開したり、彼らの生い立ちの描写が挿入される。

 ラスト、樅木照の生い立ちと共に、ずっと死んだように生きていた自分に対する怒りが、本当はもっと生きているように生きているべきだった思いを起こさせるシーンを見てしまった。

  

余談:

 井上荒野の略歴を見ていて89年第1回フェミナ賞を受賞とある。ウィキペディアによるとフランスで最も権威のある文学賞の一つで、女性作家にも贈られる賞で、その年で最も優れたフランス語の散文もしくは詩作品に贈られると。
 著書の題名を見て、印象だけれど、やはり凡人の自分には理解しがたい内容なのかも知れないと思った。「切り羽へ」は題名にひかれ、また直木賞作品ということで読んだのに。
 作品をもっと多数読み込んでみないと分からないけれど・・。
  

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

戻る