早見和真著 『砂上のファンファーレ』

 

              2017-08-25



(作品は、早見和真著 『砂上のファンファーレ』   幻冬舎による。)

          

 初出 「ポンツーン」(2010年1月号から9月号)に連載した[ピース!」を加筆・修正し、改題したもの。
 本書 2011年(平成23年)3月刊行。

 早見和真(かずまさ):(本書より)
 
 1977年、神奈川県生まれ。2008年「ひゃくはち」(集英社)で作家デビュー。同作は映画化、コミック化され、ベストセラーとなる。近著に「スリーピング★ブッダ」(角川書店)。  

主な登場人物:

<若菜家>
若菜玲子

バブル崩壊後の三好市のコスモタウンに克明と暮らしている。61歳の誕生日を迎えた半年前、墓石販売の仕事を辞める。
最近物忘れが激しくなり俊平に相談しようと飯田橋で待ち合わせ・・。
息子の嫁の深雪は好みではないが、なんとか話を合わせようとする・・。

父親 克明 失敗が因で子会社に出向させられ、早期退職し独立。退職金も事業につぎ込み・・・。

長男 浩介
妻 深雪

大手電機メーカーに就職、24歳で結婚。
・深雪は3ヶ月の身重状態。浩介と同じ電機メーカーの「ユーザー窓口」でアルバイトを統括する苦情処理の仕事に。マンション購入のため頑張っている。

次男 俊介 大学生、母親には金の無心。ひょうひょうとしていてつかみ所なく、変わり者の評価。就職なんかしない、結婚もしないと。
本田亜希子 若菜玲子の友人。克明の、玲子との恋のキューピッド役。
木下 東京女子医大の教授。俊介が母のガンに対するセカンドオピニオンを探し求め、たどり着いた先。大学病院では検査入院は受け入れないため、君島朝美の病院を紹介。
君島朝美 高輪の脳神経外科の美人医師。元木下の妻。
吉川 玲子が八王子のコールセンターで一緒だったときの仲間。夫の事業が失敗、保険外交員になって実績あげられず、玲子に加入をしてもらった恩がある。
野京子 2年前俊介が別れた女。元カレの子を宿した京子に結婚しようと言ったこともある。でも断り俊介の「自分さえよければいいじゃん」の言葉に後押しされたと。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 いつの間にか蝕まれていた一家の理想。誰もがそれに気づかないふりをしていた。次々と襲い掛かるそれぞれの現実とは。著者が全霊を込めた、ノンストップ・エンタテインメント長編。幻冬舎創立17周年記念特別作品。 

読後感:

 読んでいて苦しいが目を離せない。母親が余命いくばくか分からない脳腫瘍に犯され、物忘れからとりとめもない自暴自棄の発言をしたり、相手を冒涜するような言葉を発したり。
 若菜家の家族は父親の借金生活の頼りない姿を始め、長男の浩介とその嫁の深雪との深まっていく溝、次男の俊介の外の状態に流されることなく、自分流に生きる姿。

 借金に自分たちの家庭も危うくなる状態であることを始めて知り、絶望的な思いに思わず早く死んでくれと口元まで出かかってしまう浩介。浩介の嫁深雪は若菜の親を「少し自分に対して甘いんじゃない?絶対この子にはこんな思いをさせたくない」と不満をぶつけられその間で苦しむ。俊介はというと母親にことあるごとに無心、生き方は”何にも縛られていない”ことに縛られている。
 母親の余命いくばくもない病気を目のあたりにし、浩介、俊介のそして父親の克明の行動に変化が。

印象に残る言葉:

 新婚旅行先の景色を見ながら克明が玲子に「いま幸せか?」と問うたときに玲子が返事するシーン。:
「幸せかどうかは、いつか死ぬときにしかわからないんだと思う。今を幸せがってる人を、私はなんとなく信用できない。一つ一つ積み重ねて、たとえそれが何歳の時だったとしても、私は最後に笑って死んでいきたい」 

  

余談:

 物語の内容はなんだか現実に起こりうるような状況で苦しかった。そして物語を通して父親の責任とはどういうものかを思い知らされる思いであった。
 家族がいての頑張りとか家族がいての闘うための条件が揃っていると言われるかも知れないが。
  

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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