堂場瞬一著 『犬の報酬』

 

              2017-06-25



(作品は、堂場瞬一著 『犬の報酬』   中央公論社による。)

          

 本書 2017年(平成29年)3月刊行。書き下ろし作品。

 堂場瞬一(本書より)
 
 
1963年生まれ。茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2000年秋「8年」にて第13回小説すばる新人賞を受賞。著書に「刑事・鳴沢了」シリーズ、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ、「刑事の挑戦・一之瀬拓真」シリーズ、「汐灘」サーガの他、「バビロンの秘文字」「誤断」(以上小社刊)、「警視庁追跡捜査係」シリーズ(ハルキ文庫)、「アナザーフェイス」シリーズ(文春文庫)、「捜査一課・澤村慶司」シリーズ(角川文庫)、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ(講談社文庫)、「錯迷」(小学館)、「社長室の冬」(集英社)、「under the bridge」(早川書房)、「メビウス1974」(河出書房新社)、「黒い紙」(KADOKAWA)、「共犯捜査」(集英社文庫)、「虹のふもと」(講談社)などがある。 
 

主な登場人物:

伊佐美祐志(ゆうじ)
妻 朋子
(ともこ)

タチ自動車総務課係長。5年前リコール隠しの時広報にいて対処、それで一気に名を上げ“総務のエース”と呼ばれている。
社長命で事故情報の漏洩を調べるプロジェクトチームに呼ばれる。

タチ自動車関係者

・田辺(たなべ) 広報課長、45歳。2年目。プロジェクトチームの責任者。
・中尾 総務課課長、50歳。
・井本茉莉花 伊佐美の部下。プロジェクトチームの一員。
・谷内泰治 常務取締役(広報担当)。
・池本徹 特別開発室長。自動運転自動車の開発責任者。
・鈴井 特別開発室の自動運転自動車の開発リーダー。
・竹村専務 技術畑のトップ。
・城宗一 創業者の四代目社長、53歳。
・花田ゆり子 技術者として入社するも、社長秘書として転籍させられる美人。
・城祐二 城の弟、常務。

畠中孝介 東日新聞社会部遊軍キャップ、40歳。タチ自動車の事故をスクープ。事故隠しを追求している。
東日新聞関係者

・植本 社会部遊軍畠中の後輩、30歳。
・岩田 遊軍担当のデスク。
・八幡(はちまん)経済部記者。畠中の後輩。 半年前自動運転車に関しタチの鈴井を取材している。
・片山 編集委員、”偏西風”のコラムを担当。畠中にとって社会部の先輩。交通問題を専門に取材。

タチ自動車の誰か。千葉での自動運転車の物損事故を東日畠中に情報リークしたネタ元。
Z(仮に) Xと接触している人物。民間人ではない人間?
坂村教授 東理大工学部の教授。タチ自動車と協力関係にある。
伊沢教授 日本工科大学の教授。自動運転技術研究の日本の第一人者。自動運転の大本命IT企業の“チューニング社”とつながっている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 新聞記者×総務のエース×内部告発者。大手自動車メーカーの「事故隠し」を巡る、三つ巴の、虚々実々の攻防。それぞれの正義…。話題の「自動運転」のリアルに迫る、渾身の経済エンタメ長篇。  

読後感:

 実に面白い。最近話題の車の自動運転にまつわる事故隠しに関して、タチ自動車内部のせめぎ合い、それを追う東日新聞社会部の畠中遊軍記者たち、そしてネタ元となる謎のXなる人物とそのXを動かしている(?)Zなる人物の存在が複合的に絡み合いぐいぐいと読者を引き込ませ面白くしている。主人公としてはタチ自動車の総務のエースと呼ばれる伊佐美係長と東日新聞の畠中キャップを中心に交互に描かれていく手法も複合的な視点を生み出し緊迫感を醸し出している。
 外部からはタチの会社の隠蔽体質を追求する畠中、一方タチの社内では四代目社長命で情報漏れの犯人捜しに、社内からは白い目で見られながら会社を守るため、そして日本の自動運転技術を世界から取り残されないように正義の為に働いていると自負している伊佐美。しかし、実は背後に動かしている人物がいて動かされていただけ???。
 ラストの当たり、意外に思ってしまうところを改めてこの原稿を書くに当たり読み返してみてう〜んとうなってしまった。 

  

余談1:

 自動車会社の人間宇佐見と東日新聞の畠中という二人の主人公がいるが、この展開は以前読んだ高村薫の「レディージョーカー」と重複する印象を受けた。ところが「レディージョーカー」の方は合田雄一郎という警察の人間で、合田雄一郎と被害者のビールメーカーの社長との信頼関係を抱かせるシーンとか、他方で新聞社の記者の活動も詳細に描かれていて好意的に思ったり、合田雄一郎に対する感情移入を抱いたものだが、本作品は印象的には同じような雰囲気で面白く読んだが、何故か伊佐美にも、畠中にも感情移入するまでには至らなかった。
 何故か共感するものが湧かなかった。どうも最近は日頃から、メディアにも、メーカーにも一歩下がって冷静に見ているせいかも。
 

余談2:

 参考までに自動運転の定義に関しての記述を抜粋しておくと。
 レベル0 機械が介在しないで、全部人間が運転するもの。
 レベル1 加速、停止、ハンドル操作のいずれかをシステムが行うもの。
     (例えば自動ブレーキ)
 レベル2 複合機能の自動化で、加速、停止、ハンドル操作のうち複数のシステムが行うもの レベル3 加速、停止、ハンドル操作の全てをシステムが担当する。
 ただし、緊急時には人間が介入できる。
 レベル4 完全自動運転。
 今、日本のメーカーが開発を進めているのは、レベル3まで。2020年までにレベル3,2025年にレベル4、というのが一つの目安と。
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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