知念実希人著 『螺旋の手術室』



              2018-02-25


(作品は、知念実希人著 『螺旋の手術室』      新潮文庫による。)

          

  初出 「ブラッドライン」として平成25年7月新潮社より刊行。文庫化に際し改題の上、大幅な改稿を行う。
 本書 2017年(平成29年)10月刊行。 

 知念実希人(ちねん・みきと):
(本書より)
 
 1978(昭和53)年、沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。2004(平成16)年から医師として勤務。’11年、「レゾン・デートル」で島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。’12年、同作を「誰がための刃」と改題し、デビュー。医学的知見を生かしたミステリー作家の新星として注目されている。他の著書に「天久鷹央」シリーズ、「螺旋の手術室」「優しい死神の飼い方」「仮面病棟」「時限病棟」「あなたのための誘拐」「崩れる脳を抱きしめて」などかある。
  

主な登場人物:

冴木裕也(30歳)
妹 真奈美(25歳)
父親 真也
母親 優子

純正会医科大学付属病院の外科医。父親の手術の助手を務め、父親の死にショックを受ける。
・妹 真奈美父親に反発、法学部に進み、今は岡崎法律事務所勤務し、司法書士試験にチャレンジ中。妊娠が発覚。
・父親の真也は同大学の准教授で、。次期教授候補の内の一人。子供に対しては厳しく医師になるよう口うるさい。腹腔鏡下胆嚢摘出手術中出血多量で死亡。医療ミスも疑われる。
・母親の優子は半年前まで同病院の内科医、今は卵巣がんの為入院中。

海老沢教授 純正会医科大学付属病院の外科医、まもなく定年を迎える。冴木真也手術の執刀医。根っからの外科医(冴木優子の評価)。
清水雅美准教授 冴木真也の手術の麻酔責任者。

岡崎浩一
母親 登喜子

冴木真奈美の婚約者。
・母親の登喜子は冴木真奈美との結婚を疎ましく思っている。

諏訪野良太 循環器内科医。裕也の大学時代の親友。
沢井武 冴木裕也の友人、法医学教室の准教授。
馬淵公平 6月初め板橋の団地での連続殺人事件(?)の被害者。光零医大消化器外科客員教授。純正会第一外科の次期教授候補の一人。

川奈淳(じゅん)(47歳)
妻 茜(旧姓 梅本)

帝都大学腹部外科准教授。
・妻の茜は 阿波野病院での看護婦。

桜井公康(きみやす) 警視庁捜査一課の巡査部長。コロンボもどき。
真喜志 板橋署の刑事。桜井の相棒。
増本達夫 フリージャーナリスト。
前橋昌子 阿波野病院の看護婦。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 純正会医科大学附属病院の教授選の候補だった冴木真也准教授が、手術中に不可解な死を遂げた。彼と教授の座を争っていた医師もまた、暴漢に襲われ殺害される。二つの死の繋がりとは。「完全犯罪」に潜む医師の苦悩を描く医療ミステリー。  

読後感:

 冴木裕也の外科医が父親の真也の腹腔鏡下堪能摘出手術に、海老沢教授の下助手として関わっていて自分のミスかも知れないことから出血が止められなく死に至らしめたことから、医療ミス扱いの疑いが浮上するかも・・。
 それとは別に海老沢教授の退官に伴う次期教授選がらみで三人の候補者の本命として冴木真也がいて、その死を巡っても海老沢教授の推す別人(馬淵公平)が通り魔による連続殺人事件の被害者として警察が動き始めている。

 裕也による、何故簡単な筈の手術で父親が死んだのか、または教授選がらみで殺されたのかの素人探偵物語かと思ってその成り行きを楽しんでいた。
 一方冴木家の中では兄の裕也と妹の真奈美の仲が、それまで父親の厳しい態度に共闘することで良かったのに、中学時代から進む方向が理解できずにお互い接触しない状態が続いていた。その父親に反抗する思いが溶ける過程も人間ドラマとして興味深い。
 そんなところで犯人探しが中心と思いきや、実はそんなことより思いがけない重要な背景がラストに待っていた。人間ドラマとしての物語である。
余談:

 知念実希人という作家、医師であることから内容もそれにふさわしい用語が随時出てくる。この本との出会いも娘から借りた物で著者の名前も知らなくて単なるエンタメ作品だろうと最初は思って軽く見ていた。でも家庭内の妹と父親とのわだかまり、兄と母親とのやり取りから、父親の苦悩を思ったり、家族の絆を描写したりと見直していた。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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