朝比奈あすか著 『やわらかな棘』
       
               


              2017-12-25



(作品は、朝比奈あすか著 『やわらかな棘』   幻冬舎による。)

          

 初出  「まちあわせ」   パピルス18号(2008年 6月)
    「ヒヨコと番長」  パピルス21号(2008年12月)
    「美しい雨」    パピルス23号(2009年 4月)
    「春待ち」     パピルス27号(2009年12月)

 本書 2010年(平成22年)7月刊行。

 朝比奈あすか(本書より)
 
 1976年東京生まれ。2006年、「憂鬱なハスビーン」で群像新人文学賞を受賞。その他の著書に「光さす故郷へ」「声を聞かせて」「彼女のしあわせ」がある。    

主な登場人物:

<まちあわせ> 公園の奥のエスニックレストランで高校時代の仲良し四人組が待ち合わせ。話題は無難な話題だけ並べて笑い合う。いつからこんな風に?
古川晴美

東北に転勤、比呂人とは遠距離恋愛していたが、去年の夏あたりから変化が始まったよう。付き合ってみてイメージとだいぶ違う人間と分かる。復讐? 比呂人に意地悪メールを送りつける。

高林比呂人

晴美と6年間付き合っていた彼。東京でビジネス誌の編集部。
晴美とは別の女性と結婚する。

晴美の高校時代の仲良し四人組

・萩原さゆり ふたごの母親。弟リョウイチ
・早瀬布由子 痩せすぎ。弟のコウジ(20歳)が亡くなる。
・穂村由加
<ゆっぴ>

<ヒヨコと番長> 比呂人と結婚した加納奈那子(妹)と双子の姉奈津子の生き方、考え方は両親、祖父の影響が色濃く・・。

加納奈津子(番長)
<わたし>

双子の姉。大学出て2年間小さな広告プロダクションで働くも、倒産、幼稚園の嘱託で補助員として働いている。
隼人 奈津子の彼。大学で一緒にサッカースクールのマネージャーをやっていた。隣町の超高級老人ホームで働きながら介護関連資格を取るため専門学校に通っている。 放っておけない性格、突き放せない人。

加納奈那子 
(ヒヨコ)
夫 比呂人

双子の妹。奈那子と奈津子は人格まるで違う。
・比呂人 加納家に婿に入る。結婚して出世して、祖父が地権者のタワーマンションに住んでるのに、心の病気かも。2週間会社休み、眠れないのに朝起きれない。

リス子先生 幼稚園の年中クラスの主任。
<美しい雨> 母親とは? すぐそばに母がいる。それだけで、こどもはなんて勇気づけられるんだろう。

亜季(21歳)
<あたし>
娘 美雨(みう)

母とあたしと美雨の三人暮らし。母は入院中。
・美雨 幼稚園ではコアラ組。担任はリス子先生。
・母 初孫をとても可愛がってくれる。

喜多さん(33歳)
息子 香太郎

二児の母。
・香太郎 幼稚園のコアラ組。奈津子先生にばっかりくっついている。

<春待ち> 私に晴ちゃんから泊まりがけのお誘いがあるも断る。今はイノウエフラワーで働くことで徐々に生きがいを見出しつつ・・。

早瀬由布子<私>
弟 耕治
父親
母親

会社の先輩(奥さん有り)と付き合っている。家庭での両親の口げんか、弟の耕治の自殺など、家族は崩壊状態。食べることも出来ず、痩せすぎで入院することも。かろうじて井上さんのところでブーケ作りに働くことで毎日を送っている。
・弟は3つ年下、物静かで人を否定しない、自分を出さない。両親から医者になることを期待されるも大学受験に3年も失敗。
・私は落ちこぼれで両親は期待は諦め、弟に向けられている。

井上さん(82歳) ひとり暮らしで、近くに総合病院や公園の奥にお寺があり、小さなイノウエフラワーを営む。

遠藤さゆり
娘 星名
(せな)

娘の星名の誕生日には、母親に感謝の花束を贈ることになっている。
羽田淳哉 遠藤星名の婚約者。これから海外出張のため、イノウエフラワーに遠藤さゆり宛てに花束を届けてくれるよう依頼。差出人名は“遠藤星名”とある。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 
弟が死んだその日から、私はものが食べられなくなった。大好きな弟が自らの命を絶った夜、私は不倫相手からの電話を待っていた…。忘れられない4つの記憶を巡る、連作群像劇。

読後感:

<まちあわせ>にある晴美は遠距離恋愛であったが、次第に疎遠になっていく感じに思いきって比呂人家に出向く。そこでの思いがけない光景に呆然とする。
 1ヶ月経って高校時代の仲良し組とのレストランでの待ち合わせ、その場での会話は上滑りのたわいない話題に終始。
 それぞれの悩み、心境は語られずじまい。晴美の比呂人に対する仕返し?はミステリーになって、次の<ヒヨコと番長>に引き継がれる。

<ヒヨコと番長>では比呂人と結婚した加納奈那子と双子の姉の奈津子とのやりとりで晴美と比呂人の結婚の次第は分かるが、比呂人の人生は想像していた物と違う結果になっていた。
 奈那子と奈津子のやりとりで加納家の両親の生き様、双子の人格の相違があらわにぶつかり合い、やがて奈津子は比呂人への思い、付き合っている隼人への思いを呼び覚まされていく。

<美しい雨>では自分の子供に対し、母親としての感覚が疑われるほど。時にぐずった時の美雨に対し「こんな子いらない、大嫌い」と叫んでしまう。そんな時、母は美雨の面倒を見てくれる。父親は結婚前に交通事故で死んだと嘘をつき続け、今どこでどうしているか知らない。母親が入院から退院して、もし自分が居なくなった時のこと、あたしの将来のことを話す母。母親は子供を守るということ、側に居るだけで安心ということを思い、美雨がお腹の中にいたときの事を思い出し、寝姿の美雨の寝顔を見ながら、母親の役を全うしようと。

<春待ち>での高校時代の仲良し組の中の弟を亡くし、痩せすぎの女性だった早瀬布由子のいきさつが明らかに。
 さらに布由子がイノウエフラワーのバイトで、羽田淳哉の頼み事で遭遇した佐藤ゆかり宛てに花束を届けたときに聞いた話、それをきっかけに弟の耕治が死んだ夜のことを思い、かつ井上さんの素朴な暖かさに触れ、次第に自分がまだ人との関わりを望んでいることを感じる。
  
余談:

 
一連の連作小説の中でも、やはり死を扱った、しかも若い人のそれを扱った内容には心ならずも引き込まれてしまい、この章がラストに収められてることで余計に本作品が心に残るものとなった。 
背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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