安東能明著 『限界捜査』

 

              2017-03-25



(作品は、安東能明著 『限界捜査』   祥伝社による。)

           

  初出 月刊「小説NON」に「限界捜査」として平成24年10月号から25年8月号まで連載したものに、刊行に際し、大幅に加筆・訂正したもの。 
 本書 2013年(平成25年)11月刊行。

 安東能明(本書より)
 
 1956年静岡県生まれ。明治大学卒業。’94年「死が舞い降りた」で日本推理サスペンス大賞受賞しデビュー。2000年「鬼子母神」でホラーサスペンス大賞特別賞、’10年には「随監」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞する。緻密な取材が生む警察小説が大人気である。著書に「撃てない警官」(「随監」収録)「聖域捜査」「伏流捜査」「第U捜査官」他多数。本書は東京の赤羽中央署を舞台に疋田務率いる生活安全課の活躍をハードに描いた渾身のシリーズ第1弾である。  

主な登場人物:


疋田務(ひきたつとむ)
元妻 恭子(きょうこ)
息子 慎二

赤羽中央署生活安全課少年第一係の係長、40歳。交番勤めから犯人逮捕の功労で、二階級特進で本部に進むも誤認逮捕と分かり批判にさらされる。
そのことが因で5年前、結婚7年目の妻と離婚。息子の慎二は母親の方に。
・慎二 中1(13歳)

赤羽中央署関連

<生活安全課少年第一係>
・小宮真子(35歳) 巡査部長。母親には認められていないとの思いで、母親(政恵)のリウマチ入院にも見舞いに行くことをおっくうがっている、独身。
・末松孝志 巡査部長、43歳。競輪場で車券を買うのが習い。
・野々山幸平 去年配属の新米刑事。
<他の部所>
・西浦忠広 生活安全課の課長、警部。
・岩井安典(やすのり)刑事課長。疋田の唯一無二の理解者。
・副署長:曽我部実(そがべ) 渾名庭師。東久留米署で同時期に疋田と勤務。疋田のことを“特進”と呼び、何かにつけ苦言を呈する。
・越智昌弘(まさひろ)サイバー犯罪対策課。
・正木 捜査一課課長。

北原奈月
母親 美沙子

都営の葵(あおい)ケ丘団地に住む小学1年生の女の子。行方不明の後殺害されていた。
・美沙子 離婚して奈月と二人暮らし。

野本康夫 美沙子の元夫。

水島早希
母親 彩子(あやこ)

フリースクールに通う女子高生。
・彩子 早希と山崎智也との三人暮らし。

浅賀光芳(みつよし) 水島彩子の元夫。
山崎智也(36歳) 水島彩子の愛人。シルバーのマーチに乗っている。
林亮太(りょうた) 水島早希のボーイフレンド。

吉沢亜美(5歳)
母親 貴子(32歳)

夫と三人、葵ケ丘団地C2棟に住む。
本条洋介 トーシン開発(不動産会社)の会長職。5つの子会社を持つ。
松永 本条の運転手兼用心棒。
有馬 本条の父親の代から受け継いでいる秘書。中年女性。

為永朋香
母親 容子

子役のオーディションを受ける。北原奈月と同じ団地に住む。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 巨大団地を舞台に起こった誘拐事件を追う、赤羽中央署の疋田務。捜査は団地の住人関係などを含め、難航する。やがて誘拐犯を名乗る人物から身代金要求の電話がかかった時、事件は予想だにしない方向に暴走を始め…。

読後感:

 最初は少女の行方不明という交番からの単なる事件かと、これから本筋に入る初期段階と思っていたら、次第に本題のスタートラインとなってきて複雑さを増してきた。
 副署長の曽我部から疋田警部補を、”特進”と卑屈な呼び方と目の敵のような言動を浴びながら、生活安全課の係長が部下と共に捜査に当たる姿はサラリーマンの姿でもある。

 仕事以外でも部下の小宮真子が母親と上手くいってないことに心配りをし、でも何故か小宮の婚活の行動に気持ちが揺れる疋田の姿。自身の離婚後の一人息子である慎二との出会いを心待ちにしながら仕事に励む。こんなプライベートな事柄を捜査の折に触れ、挿入することで捜査に当たる際のその場の心情が現実味を醸し出している。

 扱っているテーマはマンモス団地を取り巻く環境で、少女の愛好家による犯罪を軸にそれを追う警察、一方で家族の様態をからめている。また警察内部でのいじめ、本犯に翻弄される仲間の逆襲となかなか凝った作りで読者を引きつける。

  

余談:

 最初に第2弾の「侵食捜査」を読んでいたので余談で生活安全課の人物像を理解できなかったが、第1弾の「限界捜査」でかなり理解できた。
 それでも小宮のキャラ、末松と野々山のキャラがいまいち残念なのは堂場瞬一の例えば高城賢吾の失踪課の人物たちのキャラと比べると鮮明さに欠ける印象を持つ。
 とは言え、安東能明作品が面白いことは間違いない。 

背景画は、海をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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