幽ノ沢V字状岩壁右ルート登攀

 

熊野谿 寛

 

 「幽ノ沢って、幽霊みたいだね」なんて不埒な事を思ったのがいけなかったか、天候やその他で流れて、今年の計画が「三度目の正直」となった。今回は帯状の移動性高気圧に覆われて、最高の天気が期待できる。

 109日、新宿から列車を乗り継いで土合駅に降りて、計画書を提出してから一の倉沢出合に幕営した。道すがら測った放射線量が0.6μSv/h程度と高いのが気になるが、キムチ鍋とビールで前祝いとした。

 

UNOSAWA3.JPG - 28,226BYTES 1010日朝、4時に起床。朝食の後、56分にテントを出発。幽ノ沢出合までは20分程で、支度してから貧相な見かけの幽ノ沢に入った。するとアプローチとは言え、そこは立派なナメ床が続く沢だった。今回、私は沢靴(アクアステルス)を履いてみた。これでアプローチから岩場・ツメ・下山とできたらやってみたいと思ったのだ。でも、登山靴を履いてきたウエケンには、ヌメヌメのナメ沢は恐ろしい。水にジャボンして泳ぐ気候ではないので、アプローチが一つの核心となった。でも、ウエケンも、途中でクライミングシューズに履き替えて、ぐっと楽になった。大滝ではロープを出したが、右岸には残置支点がいくつもあった。

UNOSAWA2.JPG - 25,098BYTES こんな具合で、2時間以上かかってようやくカールボーデンが見えて来た。やや空に雲があるが草紅葉が見事に輝いている。広い中をルートを探しながら登り、カンテが急になるあたりで残置ハーケンも出てきたので、ロープを結んだ。

 

 1P目 くまリード。カンテをそのまま登ろうとしたが、左に残置があったのに惑わされて回り込んだら、ロープの流れが重くなった。ここからカンテに戻る所で一本、さらにロープがほぼ一杯になったので確保用支点として一本、久しぶりにハーケンを打った。V+

 2P目 うえけんリード。カンテに戻って登ると残置は割と豊富だ。広いテラスに出てピッチを切った。V

 3P目 くまリード。さらに壁にぶつかるまでカンテをつめると、確保点があった。ここからトラバースしてリンネを渡るので、ピッチを切る。V

 4P目 うえけんリード。支点からやや細かいトラバースだが、フリクションは効く。リンネを渡って、踏み跡も残る草付を登ると半畳程のテラスがあった。V+

 5P目 くまリード。少し下ってトラバースする所は、お助け紐が残置されている。「要」と呼ばれるT2がわからないので、残置ハーケンから右上に見える確保支点に向けて右斜上に登った。Vで一瞬だけW

UNOSAWA.JPG - 34,302BYTES 6P目 うえけんリード。右ルートに入る。最初は寝ているが途中で割と立ってくる所で支点が増える。かぶった岩場が近づいた所でピッチを切る。W

 7P目 くまリード。正面の立った岩場ではなく、左に回り込むようにルンゼに入る。そろそろ欲しいなと思うと古いが残置ハーケンがある。ペツル二本の確保支点があり、ここでピッチを切った。V+

 8P目 うえけんリード。水が少し流れているルンゼから上がり、左に抜ける草付ルンゼに入る。しばらく登ると良い場所にペツル一本の支点があり、ピッチを切った。V+

 9P目 くまリード。草付のルンゼがやや曲がるが、そこを登っていくとペツルの支点があり、左の泥にはっはきりした踏み跡があったので、ピッチを切った。V+

 10P目 うえけんリード。草付の泥壁に苦しむ。岩溝にそって登るのだが、足の置き場が泥でぬめっている上に少ない。ササ藪や岩を交互につかんで、ダマシダマシで登った。ここが、間違いなく今回で最悪のピッチだった。開けた岩に出てピッチを切った。V+の泥壁

 11P目 くまリード。草付から藪に突入。、ブッシュでザイルの流れが悪くなるので、一杯にならずに区切った。Uの藪

 12P目 うえけんリード。まだまだ続く草付だが、ずいぶん楽になって曲がる所で一旦切った。Uの藪

 13P目 くまリード。少しブッシュの中を進むと、開けた終了点に出た。12:40登攀終了。ひとまず握手して、一息入れた。Uの藪 (以上のグレードは私の体感的な独断)

 

 さて、これで終了…と言いたい所だが、実はここから先の堅炭尾根までが難物と聞いていた。実際、次のピークを左から巻くあたり迄は良いのだが、その後が分かりにくい。正解は「できるだけリッジ状を忠実にたどる」らしいのだが、うっかり外してやっかいな思いをした。念のために途中からロープを出したので時間がかかったが、滑ったらそのまま下まで行きそうな草付だから、仕方がないだろう。

UNOSAWA4.JPG - 22,899BYTES 草付と格闘の挙句、14:30前に堅炭尾根の登山道に出ると、稜線の紅葉と大源太山の見事な姿が目の前にドカンと飛び込んできた。景色にしばし見入ったが、下りでも何度もカメラタイムをとった。下山道は、地図上では破線だが刈り払されており、芝倉沢に降りる少し前までは割と良かった。その後、少しばかり緊張する部分を通って16:00芝倉沢出合に着いた。ここから後は、まさにお散歩気分だ。今日の登攀を振り返って、話しながら歩く。幽ノ沢出合からはルートが遠望できた。

 その後、一の倉出合まで約1時間弱。テントを撤収してから帰途に向かう。18時の上越線にはどうも間に合わない様だが、ともかく腹が減った。タクシーで水上に出て何か食べて帰ろう。

 …でも、たどりついた水上駅前は、19時前だと言うのに開いている店が一軒しかない。ああ、水上駅前の昔の賑わいはどこに行ったのか、駅でビールも買えない…と驚いていたらウエケンが動いている自販機を知っていて、ビールを仕入れて来てくれた。

 正月の怪我と入院から始まったこの一年、秋に目いっぱいホンチャンらしいルートを登る事が出来て、終えてからも静かに満足感が広がっていくのを感じる「山」だった。

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