八ヶ岳・烈風の小同心クラック

日程 2009年1月11日 人数 二人

 十時ごろ小同心クラックの取付に立つと、青空に太陽がまぶしく顔を出した。「晴れたぞ、 よかった」と二人で話した。青い空をめざしての登攀を、その時は淡く期待していた。

 この朝、急な大同心稜を 登っていくと、大同心基部に支度を終えた二人連れがいた。これは順番待ちだな、とのんびり準備して、大同心バンドをトラバースした。だが、二人連れはルン ゼの手前・上部で止まっている。ザイルを出すらしい。ここは、もっと下に渡るトレースが見えたので、そのまま二人を抜いて少しのラッセルで取付に向かっ た。二年前、秋の集中で小同心クラックを登った経験が、とても役に立った。      

 9mmシングルでザイルを結び、1P目はうえけんリード。「夏とは全然違いますよ」の 声。途中の支点で流れが悪いので、短めにピッチを切った。フォローすると確かに夏の印象は消えた。丸いホールドにやわらかい雪がついている。気が抜けない と実感する。
 2P目は私がリード。支点が雪にかくれて見つからない。すぐ上の支点で中間支点をとっただけで、良い岩角もなく、ずいぶん登ってしまった。落ちたら下ま で行ってしまいそうだ。無雪期のチムニーは、両手・両足を突っ張れば楽な印象だったが、アイゼンをつけた足でフリクション登攀は初めてだ。左側に懸垂用支 点のある所でピッチを切った。
 3P目も私がリード。登攀は少しだけ慣れたが、垂直の岩場でどうしても手に力が入り、手の筋肉が時々ピクピクと痙攣し、握力が落ちる。10m以上も上っ てからやっと岩角で支点をとれた。雪をはらってハーケンにも支点をとり、ルートが分岐するテラスで、秋と同じくピッチを切った。
 気がつくと太陽は消え、吹き上げる風雪の中だ。空は見えず、吹雪の一日となっていた。たばねたザイルが風で舞い上がる。登ってきたうえけんの顔は、雪男 のように凍りついていた。「こりゃあ、本当の厳冬期登攀になったねぇ」と話す。でも、あとわずかだ。
 4P目はうえけんリード。最初の被った岩がこのピッチの核心部。パワー全開で越えて行った。フォローするとザックがひっかかる。パンプ気味で力が入りき らずテンションをかけたが、なんとか越えた。そのまま小同心の頭まで私がリードして、夏の終了点についた。
 少しコンテで歩き、横岳へ岩場を一段あがっ た。最後の6P目は私がリード。今度はハーケンが見えており、支点をとって上る。あと少しと思った階段上の岩 場で、少しスリップ。イカン、気を抜いたらダメだ、と思い直す。ほどなく誰一人いない横岳山頂に到着。十三時半前、うえけんも到着して登攀終了の握手をし た。

 横岳からは縦走路だが、今日の風は半端ではない。大同心ルンゼの下降は、吹き上げの風 を正面に迎えるので、硫黄岳を回ることにした。でも、硫黄の手前では何度も両名共似共に風でフワッと身体がういた。顔面に少しだが凍傷を負ったのもこの時 の事だと思う。

 硫黄岳をすぎると風も普通になり、いつもなら強く感じる風を「なんだかそよ風みたいだ ね」と、二人して笑った。「それにしても腹減ったなぁ」と空腹が辛くなった。そう言えば何も口にしていない。さあ、今晩はモツ鍋が待っているんだ。テント までがんばろう。
 「厳冬期」という言葉の意味を嫌と言うほど叩き込まれた今回の小同心クラックだった。支点の探し方の甘さ、確保体制はどうだったのか、などに課題を改め て感じた。次は春に中山尾根を登ってみたい。でも、やっぱり次は晴天がいいなぁ。