登山者にとっての自然保護

 

神奈川県勤労者山岳連 盟 佐藤尚司

**以下は、日本の盛と自然を 守る全国集会・神奈川集会に向けて、神奈川労山・自然保護委員会で議論された内容を、当日、発表される佐藤さんの名で私がまとめたものです。
 
登山者の見た「丹沢」

 私たち登山者は、山の奥深くまで自分の足で歩き、全身で自然に接することができます。これはオート・キャン プ等と登山の大きな違いです。立体的に、多彩に自然に接することができるのです。

 しかし、登山者が自然について良く知っているか、自然保護について関心があるか、と言うと必ずしもそうでは ありません。私たち労山の内部においても、それは否定できない現状です。

 問題を「丹沢」を中心に考えてみましょう。丹沢は県内から比較的短時間でその山のふところに入れるというこ ともあり、多くの登山者は丹沢で山歩きを始め、その後もハイキングや沢登り等の何らかの形で通い続けることになります。しかし、丹沢とその自然について 知っている登山者は意外にも多くはありません。

 次のような問題がないでしょうか。

 1.丹 沢をトレーニングの場、新人対象の山としてのみとらえ、自然との対話や自然の破壊に目を向ける余裕がない。

 2.身 近にある山として、基本的なマナーを知らない人たちも表丹沢に集中して入山する。登山道は踏み荒らされ、ベテランの登山者も「泥道を避けるために木の根や 草を踏み歩いて道を広げる」事に無頓着になっている。「何をしてもかまわない山」として考えられているので、自然と共存する山の歩き方について考えられて いない。

 3.丹 沢の現状と変化について、基本的にあまり知らず、知ろうともしない。林道工事を見ても、その全容を知らないこともあり、「林道が出来た方が時間の節約にな るので便利だ」と考える「車」派や、枯死した木を見ても変化をとらえられずに気がつかずに通り過ぎている者が多い。

 要するに、「登山者であること、山が好きであることが、必ずしも山を知り、自然とその価値を知り、自然を守 ることとつながらない」状況なのです。

 

労山と自然保護

 私たち労山神奈川県連盟では、結成以来、「自然保護」を活動の一つの柱としてきました。その活動を振り返っ て、登山者が自然に親しみ、自然破壊に対する危機意識を持つためには、どの様なことが大切なのかを考えてみましょう。

 1.公 開ハイクを通じての「発見」

 労山は1960年代に「安く楽しく安全に」というス ローガンをかかげたことに見られる様に、常に広く国民の登山要求を実現することをめざして活動してきました。特にハイキング・クラブでは、一般市民の参加 する公開ハイクを実施してきました。(藤沢・川崎ハイキングクラブ等)又、毎年の様に海外登山等を行っている県内でも屈指の会である相模労山では、国際障 害者年から10年以上にわたって「障害者登山」を行ってきました。こうした活動は、会員が一般参加 者と共に山の自然について改めて学び、その素晴らしさや現状について考える、大きなきっかけとなってきました。多くの国民の登山要求にこたえる活動が、自 然や山そのものの価値をもう一度とらえ返す上での土台なのです。

 2.清 掃登山の取り組み

 1967年以来、毎年、継続して丹沢での清掃登山を 行ってきました。一時はマンネリ化しましたが、1992年にHAT-Jと 共催で500名を越える参加で実施した頃からは、質・量共に新しい発展をとげてきました。内容の面 では、前日のシンポジウムから、丹沢でのNoxの測定や水質検査も加わりました。さらに、県内の自然保護団体からの参加に加えて、93年からは県内の大学・高校の山岳部・ワンゲル等にも参加を呼びかけています。県内高校・大学への呼びかけ は、「水無・堀山林道工事の凍結を求める署名」ともあわせて取り組まれました。この様に清掃登山は、登山者に丹沢の自然保護を訴え、連盟内の取り組みを強 める中心的な取り組みとなっています。またこの中で、自然保護委員会に結集する会も増えてきました。

 3.各 会での教育活動

 遭難対策とあわせて連盟内の各会の教育・遭難対策活動の中で、「自然保護」が取り上げられる様になってきま した。森の集会の内容についての学習会、「自然と共存できる山登り」(こぶし山の会、川崎ハイキングクラブ)などについての取り組みが広がってきていま す。これを連盟として広げていくことが課題です。

 

登山者が自然の守りと なるために

 まず第一に、四季を通じて多様に多彩に自然にふれることのできる山行をすすめ、旺盛に自然を見る力を育てる ことが大切でしょう。

 第二に、自然と調和した登山の方法(ローインパクト・メソッド)の確立と普及が必要でしょう。

 第三に、自然保護団体と協力・協同の輪を広げ、共に学び活動をすすめることです。

 こうした意識的な取り組みが、登山者を真に自然の守り手として行く上で大切なのではないでしょうか。