星空と雪と岩と
〜八ヶ岳横岳石尊稜〜

日程2008年3月7 日 人数 2人

 0700美濃戸口--0800美濃戸----1000赤岳鉱泉・幕営1100---1300石尊稜取 付…1450下部岸壁上…上部岸壁前にて日没…2015石尊峰---2145地蔵尾根分岐---2225行者小屋--2258赤岳鉱泉テント

 今年の八ヶ岳は天気運があるのか、美濃戸 口でバスを降りると、青空がまぶしい。あまりの良い天気に気持ちがハイになり、赤岳鉱泉にテントを張ると、11時からうえけんと石尊稜に向かった。最初の 沢で取付へのトレースに入り、三叉峰ルンゼ側をたどる。トレースは無名峰へと向かうが、その手前で尾根状の石尊稜取付に13時にあがった。

 ザイルを結び、気分はもっとハ イになる。でも、下部岸壁に取り付くと出だしのホールドが細かい。頼りの凍った草付や雪は暖かい日差しに融けて、アックスが決まらず、ボロっと落ちる。ア イゼンで岩に拾うスタンスは微妙だが、それよりガッチリしたホールドがほしい。四苦八苦した挙句、オーバーミトンを外し、薄い手袋で細かいホールドを押し て立ちあがる。でも、その瞬間に「落ちるのは嫌だ」と心にささやく声がして戻る。何度目かに、やっと見つけた岩の隙間にシュリンゲを入れて怪しげな中間支 点を作る。「これは登れば外れるが、ここで落ちたら効くだろう」と言い聞かせ、再度、立ち上がる。一歩、二歩…ようやく最初の数mを抜けて次のボルトで中 間支点をとれた。これで大丈夫だ。ここからはボルトにそって登り、左に曲がった所でピッチを切って、うえけんを迎えた。そのままツルベ、とも思ったが、 トップを譲られる。次のピッチは草付を左に抜け、雪稜に出るのだが、凍った草付が融けて心もとない。そこで、直上して抜けられそうだ、と上がったが行き詰 まり、枝をつかみ、泥を押さえ、ダマシダマシのトラバースで左に抜けた。
 すでに時刻は3時近く、今後を相談したが、あまりに良い天気の上、稜線は目前に見えている。「ヘッデンでも行こう」と決めて、広めの潅木の多い雪稜にと りかかった。でも、「きっと暗くなるまでには上にいけるはず」と、その時は思っていた。
 しばらくツルベで登るが、天気が良すぎて雪が腐り、足下の雪が草付からはがれ落ち、微妙で思ったよりも時間がかかる。左の無名峰周辺では、時折、雪崩が 美しく落ちる。雪稜がナイフリッジとなるあたりで、時刻が気になってきた。時間節約のため私がトップ、セカンドはトップの1mほど下にて雪上でビレイ体制 をとることにした。雪のナイフリッジにザイルがのびると、あっと言う間に「ザイルいっぱい」のコール…こうなると、50mはとても短い。
 振り返ると沈む太陽に水平線が美しい。くっきりと空に空気の段差が見える。足下にはナイフリッジが続く。…絵になる風景だ。でも、日没が気になり写真を とる心の余裕がなかった。
 そして、日没。だが、しばらくは残照で明るくヘッデンを灯さずに登る。風がなくて天気が本当によい。さすがに雨具の中に一枚着ると、黙々と薄闇の雪稜を 登った。やがて空に星が美しく見え出すと、まるでプラネタリウムに雪稜があるみたいだ。
 ヘッデンを灯すと、目の前に上部岸壁取付の古いハーケンがあった。「上部岸壁は右のルンゼ上部から巻ける」とあったが、既に日没で見えないルンゼ上部の トラバースは危険だ。ヘッデンの灯りに白く岩が浮かび上がり、アイゼンの足場をよく確認すれば、ガッチリしたホールドの豊富な上部岸壁は、かえって登りや すかった。思い切ってグイグイと3ピッチ程を登って、20時15分石尊峰に到着した。
 星空と街の灯が美しかった。いつまでも眺めていたかったが、うえけんと握手し、片付けて先を急ぐ。途中、日の出峰付近でトレースを見失い、20分程ウロ ウロしたが、地蔵尾根・行者小屋・中山乗越経由で23時前にはテントに帰り着いた。小屋では、戻ってこない赤岳主稜のグループを従業員が待っており、もう 駄目と思ったビールを買うことができた。長い一日を終えて飲んだビールの味は、星空の下の登攀と共に忘れられない。