春の八ヶ岳・中山尾根登攀

 石尊稜のヘッデン登攀から一 年。「今年は、中山尾根」と話したら、計画会で「上部岸壁はしょっぱいよ」と言われた。確かに、自分の力量ぎりぎりの登攀となった。

3月7日 久しぶりで土曜日に休 暇をとり、ウエケンと夜行で八ヶ岳に向かう。赤岳鉱泉に10:20着いてテントを設営。ずいぶん遅れて到着したウエケンに聞くと、徹夜仕事をしたとの事 で、確かに顔色が悪い。30歳過ぎたら無理は禁物だ。とても中山尾根には行けないので、ピーカンの休養日となった。でも、午後にジョウゴ沢の偵察から戻っ てきたら、すっかり元気になってビールを手にしていたので、ホッとした。

3月8日 朝04:30起床 して 06:20出発。天気は高曇りで気温-10℃と暖かい。中山乗越で支度して、トレースをたどる。取り付きで先行パーティがちょうど 下部岸壁を越えた所だった。

下部岸壁の登攀開始08:15。ペツルがたくさん打ってある直上ルートにウエケンがとり ついたが、難しくて進まない。先が長いので、岩場横から顕著なガリーをトラバースするクラシックルートに変更した。ただ、取り付きの支点が見つからず、少 し登った所にあったペツルを支点にした。

1P目はウエケンがリード。核心は、フレーク状の乗越。V+だが身体が外に出て、結構な高 度感がある。2P目は私がリード。左を回り込みアックスを効かせて登るはずだが、岩に張った氷は薄くて割れ、半ば木登りのように越えて雪稜に出た。ここは 沢屋向きだ。

そのまま、雪稜を数Pほどにツルベで登攀した。潅木が太く、ビレイ点や中間支点には困ら ない。さらに、去年の石尊稜ほど、雪が腐ってはいないので、快適だ。微妙な場所もあったが、すぐに上部岸壁下に到着した。

上部岸壁が核心部だ。ルートを 確認して、私がリードで右側の凹角から取り付いた。残置支 点がたくさんあるが、岩は上部に行くほど難しくなった。W+だが特に最後は完全に岩がかぶっている。少し休んでから、何度かトライして支点をとり、 アイゼンの足で岩につっぱり、ジワジワ、ズリズリと上がると、落ち口のハーケンが目に入った。ここに支点をとってから一気に登った。やった!核心部を抜けた!ふと見ると、目の前にペツルで2本のビレイ点があった。

ウエケンを迎え、「あとは雪稜に時々の岩が出てくる程度だから、そんなに困難はない。こ れで核心部は終わっただろう」と語りあった。時刻は12時半頃。時間もまあまあだ。さらに、太陽が顔を見せて、青空が出てきた。もう、気分は最高!であ る。

ところが、ルート図で最上部のルンゼがよくわからない。そのままトレースに導かれてルー トを直上すると、どうもトサカ岩峰の下部が目の前にある。ここを抜ければよいのだが、またまたかぶった岩場。しかも、腐ったハーケンが何本かあるだけだ。 試行錯誤すること数十分。…そう、核心部を終えたと思ったら、 なかなか力が入らないのだ。人間って弱いなぁ。何度目かに岩角を利用して支点を作ってから、 思い切って左からここを突破した。

トサカ岩峰をすこし行くと終了のビレイ点に到着。コールするが声が通らずに時間ばかりか かったが、やがてウエケンも上がってきた。ロープを一本にして 稜線まで慎重にコンテで進み、14:30頃に登山道に出て、完登の握手をした。

天気はピーカンで、北ア・中ア・南アが輝いている。いつまでも眺めていたかった。ガチャ を片付けて、15時に下山開始。地蔵尾根から行者小屋までは慎重に下り、赤岳鉱泉でテント撤収をして、途中でヘッデンを点けたが19:10に美濃戸口に帰 り着いた。

春の八ヶ岳のすばらしい一日。心臓の鼓動が高まるのを感じる充実した登攀だった。次の課 題は阿弥陀岳北西稜か、それとも東面の雪稜だろうか。最終のあずさ車内で酒を酌み交わしながら、山への思いはふくらんだ。